beloved

□ひとりじめ
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大阪、四天宝寺中学校の文化祭は少し…かなり変わっている。




毎年高等部と合同で行われている為、校舎は一般客や生徒で溢れ、
クラスの出し物も他と一味違い、ボケとツッコミが基本の大変ユニークなものとなっていた。



体育館はお笑いライブとして使われていて、行き交う生徒は、まるで必然のように被り物を装着している。






『(…着いた)』




"木下藤吉朗祭"と太く書かれた幕を見上げ、りんはほっと胸を撫で下ろした。



今日はいつもみたいに髪を2つに結い、白石から貰ったお花のヘアピンを付けてきた。


いつもと少し違うのは…セーラー服の上に桜色のカーディガンを羽織っていること。



先程からやけに人の視線を感じるので、りんは慌てて自分の服装を確認していた。




「パンフレットでーす」



『あ、ありがとうございますっ』




笑顔で受け取った後、思わずバッと振り返り二度見してしまった。


渡してきたその人はマグロの被り物をしていて、何故魚?とパンフレットを渡された人達は戸惑っている。




『(マ、マグロだ。マグロにパンフレット渡されちゃった…!)』




だが例外もいて、何故か心の中で大喜びするりんだった。




それを開き、早速テニス部に行ってみようと足を動かす。


予定時間よりかなり早く着いてしまったが、自分から出向いて白石を驚かせたい。




『(もう少しで会えるんだ)』




それもあるが、やはり1番は早く会いたいという気持ち。



きっと驚いた顔をして、それから「りんちゃん」と柔らかく微笑むのだろう。
それを想うだけで気持ちがふわふわと温かくなる。



白石さん、白石さんと何度も心の中で呼びながら、一呼吸して庭球部と書かれた戸を開けた。




「おかえりなさいませー…」



『……………………』




一瞬固まった後、りんはゆっくりと戸を閉めてしまった。


落ち着いて落ち着いてと自分に言い聞かせる。
確かに、今まさに強く想っていた人と目が合ったはず。でもそれは……



もう一度表札を確認して、ぐるぐる混乱する頭を落ち着かせる。
小さく戸を開けて、隙間から伺うように顔を覗かせた。




ユ「おかえりなさいませ…って、なんやりんやん」



『…………ユ、ユウジさん!?』




理解するのに数秒かかってしまった理由は、彼の姿にあった。



ユウジの髪はロングヘアーで、フリフリのエプロンを付けている。
それと似たようなものも頭に付けていて、恐らくメイドだろう。




小「あら、りんちゃんやないの!おかえりなさいませ〜お嬢様っ」



金「あ、りんやー!!」




ぼおっとユウジの姿を見ていたりんに気付き、小春と金太郎が駆け寄ってきた。



小春は黒髪のオカッパ頭に、大きなリボンを付けている。

金太郎の赤髪は長くそれをツインテールにしていて、2人共ユウジと同じ様な服装をしていた。




『え、えと、この店はどうゆう…』




抱き付いてきた金太郎の頭を撫でながら、りんは首を傾げて問う。




小「女・装・喫・茶☆テニス部皆が女の子で、メイドさんなのよ〜」



『メイド…さん』




弾んだように話す小春の説明を聞き、りんは部室(店内)を見渡した。


可愛らしい装飾は、まるで本物のメイド喫茶のよう。
女性客が多いが、中には男性もいた。




「おーい店員さん、頼んだメニューまだ?」




男性客が待ちくたびれたように手を上げると、中から黒髪の美少女が出てきた。




財「……さっさと食べたらどうですか」



「(ツ、ツンデレ?///)」




ハァと短く溜め息を吐いた美少女、財前が顔の向きを変えた瞬間、その黒く縁取られた瞳が見開いた。




『あ、こんにちは…!』



財「………何笑っとるんですか」



小&ユ「「別に〜」」




りんからばつが悪そうに視線を逸らし、隣で腹を抱える先輩達を睨み付ける財前。




金「光女の子みたいやなー」



財「それ言うたら部長もやん」



『そういえば、白石さんは…?』




さっき、目が合ったような…

キョロキョロとりんが顔を動かした瞬間、店内にキャア!と黄色い声が響いた。




「白石くんかわええー!」



「もっとちゃんと見せてー」



白「ちょ、今は堪忍やって…っ」




端の方で後ろを向き、床を掃いていた人物が女性客に腕を掴まれていて。




財「…何しとるんですか」



白「掃除や掃除!」



金「白石ぃー早よこっち来や!」



白「っき、金ちゃん…」




箒とちり取りを持った白石は、折れたように皆の輪に近付いて行く。


チラッとりんに視線を向けるが、やはりその目は大きく見開かれていた。




白「りんちゃん?あんな、これは『…可愛い!』………」




素直なりんは、思ったことをそのまま伝えてしまった。



白石の顔は固まり、皆は堪えていた笑いを一気に吹き出したのだった。






















謙「白石…いつまで拗ねとんねん」



白「…拗ねてへんし」



『え、ぇと、』




皆は気を遣ってか、白石を先に休憩にいかせた。


カーテンで仕切られた休憩室の椅子に座りながら、りんに女装姿を見られたことが余程ショックだったのか、白石はずっと拗ねている。




『あの、ごめんなさい。私が早く来ちゃったから…』



謙「りんちゃんのせいやないからな」




まるで仲介者のように、慌ててフォローする金髪縦ロールの謙也。



不機嫌そうな白石を見て、自分のせいなんだと思うと泣きたくなる。


白石が待ち合わせ時間を細かく指定した意味を、りんは漸く理解した。




白「りんちゃんには見られたくなかったんや…」



『すごくすごく可愛いですよっ』



白「……………」




美形とする容姿だからか、女装しても可愛いし綺麗だ。


白石はエクステなのか髪を下ろし、緩く巻いていて。
睫毛もくるんと上を向き、まるで本物の女の子のよう。



キラキラと瞳を輝かせるりんと同等に、白石の眉間の皺も深く刻まれてゆく。




小「蔵リンは元が良いんやで〜つけまつげもいらへんかったし」



ユ「ちゅーかこの店、お前と財前目当てで来る客しかおらへんわ。あと謙也をからかいに来る客」



謙「どうせキモいわ!悪かったな」




カーテンを開ける小春とユウジ。
紅茶を運んで来てくれたことにお礼を言うりんの横で、今度は謙也がブツブツ言いながらふてくされてしまった。




小「蔵リン、折角りんちゃん来てくれたんやないの」




泣きそうなりんに気付いてくれたのか、小春がゆっくりと言い聞かせるように話す。



目も合わせてくれないし、何だか今日の彼は小さな子供みたいだ。




『私、あ、会いたかったから』




りんはキュッと自分の服の裾を握った。




『早く早く白石さんに会いたかったから……だから、待てなくて、』




女装でも何でも、白石に会えたことが嬉しいのに。
だからそんなに、機嫌を悪くしないで欲しい、冷たくしないで欲しい。


そんな態度を取られると、悲しくて胸が痛くなる。



こんなにも白石が向けてくれる愛情に慣れていたのかと、りんは情けなくなって俯いた。






白「……ごめんな」




顔を上げると、白石の瞳とぶつかった。




白「俺も、ほんまは嬉しかったんや…りんちゃんから来てくれて」



『ほ、本当…?』



白「うん、本当」




ふわっと微笑んだ彼は、いつも通りで。


途端りんは一気に嬉しくなって、笑顔で頷いた。




ユ「(…なんちゅーか)」



謙「(…おん、わかるで)」



小「(…そうやね)」



ユ&謙&小「(居づらい……)」




微笑み合い、ほわほわと淡いピンクの花を飛ばす2人に対して、周囲の心の叫びは一致していた。
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