beloved

□赤ずきんと狼王子
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何故…こんなことになったのでしょうか。










「小道具!ティアラは何処行ったのよ。一番大事なものじゃないっ」



「はい、只今…!」



「証明はもう少しライトを弱くして!これじゃお客様の目が痛くなるわよ」



「はい!申し訳ございません!」






ええと…こんにちは、越前りんです。



ドタドタと壇上を駆け巡る人達を、私は何処かぼーっとして眺め、未だに自分が置かれている状況を掴めずにいます。




『(ここは体育館で、この人達は演劇部で…)』




取り合えず冷静に考えようと、何人もの人に着せられた服装を見渡して見た。



淡い黄色のドレスの裾にはキラリと輝くビーズが埋め込まれていて、細かな刺繍が手作りっぽくて可愛い。


結んでいた髪は下ろされ所々にみつあみをされて。



何てゆうか……お姫様みたいで恥ずかしい。




雪「りん、これ台本ね」




慌ただしく駆け巡っていた雪ちゃんが、額にうっすらと汗を滲ませて近付いて来た。




『ゆゆ雪ちゃん、私が主役なんて出来ないよぉ』




必死に助けを求めるようにすがり付くと、雪ちゃんはよしよしと頭を撫でてくれた。




そうなんです。

何故か今から始まる劇の、主役にさせられてしまったのです。




ことの始まりは数分間…












『要先生、クラス戻るんですか?』



要「ああ、様子気になってな。これは差し入れ」




人数分買ったのか、かなりの数の袋をぶら下げる姿に、半分持ちましょうか?と声をかける。


「助かるね」と渡して来た要先生から笑顔でそれを受け取った。




聖華女学院の文化祭は、毎年多くの人達が訪れていた。
グラウンドから校舎に移動し、クラスに繋がる廊下を先生と並んで歩く。




要「りんは午後から当番だっけ?その割には衣装着てないけど」



『はい…あ、あの衣装恥ずかしくて』



要「似合うと思うよ?」




ふと視線を前に送った時…ドキリと心臓が跳ねた。




『…………っ』




スラリとした長身に透き通るようなミルクティー色の髪を、間違えるわけがない。


ずっと会いたかったあの人が、教室の前にいる。




『(白石さんだ、)』




思わず早くなる歩調。
それはだんだん小走りになり、一直線に向かってゆく。



顔をこちらに向けた白石さんと目が合い、それは一瞬見開いて…ふわっと嬉しそうに微笑んだ。




白「りんちゃん!」




白石さん、本当に…白石さん。




『しら「初めまして越前りんさん!」』




白石さんしか見ていなかったから、急に別の顔が割り込んできたことに驚いて『はぅ!』と変な声を上げてしまった。




「私、演劇部部長の太刀川琥珀と申します!」



『!は、はい?はじ、初めまして』




混乱しながらも掴まれた手をキュッと握り返すと、その女子生徒…琥珀先輩は自身の眼鏡をくいっと上げた。


暫く何も言われないので、『あの…?』と首を傾げた瞬間。





…ぶっはぁと、大量の鼻血を流した。






「ぶ、部長しっかり…!」



「こ、こんな大量久しぶり!誰かティッシュを!」



『だ、大丈夫ですか!?』




後ろに引き連れていた後輩らしき人達に体を支えられる先輩。


慌てて駆け寄る私を、うっすら瞼を上げて見つめた。




琥「……いい」



『?え、』



琥「幼顔に幼い体、全体的に華奢に見えるけど太股はどこかプニプニ、色白くりくりロリっぽい容姿!!」




早口で捲し立てた後、ビシッと目の前に指を突き付けられる。




雪「琥珀先輩!それじゃ…」



琥「YES!決まり!」




琥珀先輩と、何処から出てきたのかお互いにウィンクしてハイタッチする雪ちゃん。



雪ちゃんがこの先輩と知り合いなこともだけど、全く話についていけない。


ぐるぐる頭を回転させている間に、ふわりと体が宙に浮いていた。




『?あのっ』



「うわー軽っっ」



「りんちゃんごめんねー部長の指示だからさ」



『え、え、ああの??』




まだ状況を理解していない私は、左右から両腕を掴まれ猛スピードで連行されて行く。




琥「さぁ行くわよ!幕が上がるわ!!」



『(し、白石さんが…!)』




連れていかれながら、人混みの中必死に白石さんの姿を探した。




















『な、何で私なのかな…雪ちゃんは演劇部と知り合いなの?』



雪「んー今年は背景を美術部が描いて、人手不足だから何人かこっちに引き抜かれたのよ」



『でも何で私「その問いはNO!!」』




突如聞こえた声に慌てて振り向くと…先程までテキパキと指示を出していた琥珀先輩が、仁王立ちしていた。


鼻に大量のティッシュを積めているところを見て、大丈夫かな…?と心配になる。




琥「今年の劇はね、そう、ドッキリ!主役は当日に決めることになってたの。
前から可愛いって目を付けていたあなたに、どうしてもやって貰いたくて」




でも、私が主役なんて…もし劇を台無しにしてしまったら…?



不安で俯いてしまいそうになると、先輩は座る私に合わせるように腰を屈めて、優しく手を包んだ。




琥「でも、あんな風に無理矢理連れて来ちゃう形になってしまって…ごめんなさいね」




ゆっくりと語りかける口調に、パニックになっていた気持ちがだんだん和らいでいった。




琥「台詞も役もすべて、簡単なものだから……やってくれないかな?」



『…で、でも…っ』



琥「りんちゃんしか、この役は出来ないの」




眉を下げて見つめられて、否定の言葉で続く口を閉ざしてしまった。


「お願い」と演劇部の人達にも次々と頭を下げられて、ズキンと胸が痛くなる。




雪「私からもお願い。りんのこと、私が先輩に推薦したんだよ。りんは何でも一生懸命やるからって」



『雪ちゃん…』




こんな私にやって欲しいって思ってくれてるんだ。



私でも、皆の役に立てるなら……




『……はい、やらせて下さい、』




ペコリと頭を下げて、目の前の琥珀先輩や演劇部の皆さんに微笑んだ。




琥「………っっ」



『?』



「「((可愛ぃッッ///))」」




全員口元に手を当てて、私から顔を背けた。(ふ、震えてる…?)



取り合えず覚えなきゃということで、私は渡された台本に視線を落とした。







"狼王子と魔法の口付け"




ある森で、王子は何年も眠り続けている1人の少女に一目惚れをした。



少女の眠りの魔法は、運命の人と口付けを交わすと溶けるのだと言う。


王子は日が暮れると狼になってしまう魔法をかけられていたので、少女に口付けることが出来なかった。


ある日、隣国の王子も少女に一目惚れしてしまい、焦った狼王子は…少女に口付ける決心をした。


少女は目を覚ましたが、王子のかけられた魔法は溶けぬまま。


醜い姿に王子は去ろうとするが、少女は狼王子のその人柄に惹かれたのだと言った。



最後、想いが通じ合った2人は抱き合い…やがて狼の魔法は溶けたのだった。






…………………




……口付け?




「狼に食べられる役はりんちゃんしかいない!」と、盛り上がる声が何処か遠くに聞こえた。
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