beloved

□偽りの恋人
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西洋のお城のような豪華さを放つここは、多くの事業を拡大化し、跡部財閥を率いる社長の本来の自宅である。



その1人息子、跡部景吾に呼ばれたりんは、壮大な家の中の一室にいた。









『パーティーですか?』




お客様用の優雅なソファーに座らされたりんは、目を丸くする。



向かいのソファーに腰掛ける跡部は、組んでいた足を直しりんを見据えた。




跡「俺様の従兄弟が新ブランド立ち上げを任せられたからな。そのパーティーが今宵開かれる」



『えっと…』




それは自分と関係あるのだろうか…?と、りんは使用人が紅茶を持って来てくれたことに頭を下げつつ思った。



先程まで騒がしかった氷帝テニス部員は跡部の指示で別室に移動され、結果2人きりとなってしまった。


りんはずっと落ち着かない様子で、最も、跡部には挙動不審なことがバレバレである。



話の意図が掴めずりんが首を傾げていると、跡部は微かに眉を寄せた。




跡「…俺の、フィアンセも来る」



『へ…!?』




その言葉に思わず過剰反応してしまった。




『フィアンセ?こ、婚約者ですか?』



跡「母親が勝手に決めた相手だが、そいつをパートナーにエスコートしろと言われてな」




跡部にそんな人がいたことに驚きを隠せないりんだったが、よく考えれば可笑しなことではない。


あの跡部財閥の1人息子なのだ。
婚約者の1人や2人いて当然なのかもしれない。



りんが呆気にとられていると、跡部の瞳がすっと細められた。
真剣な表情に一瞬ドキリとし、りんも体を強張らせる。




跡「俺はそいつと結婚する気はない。いくらこの家の為でも、」




「だから、りん」と。
これまでにない真剣な顔で見つめられ、りんは目を逸らせなかった。




跡「今夜だけ俺のパートナーとして…パーティーに出席してくれないか?」



『…………………ふえ!?』




母親は跡部がテニスをすることに対して、あまり良い顔をしていない。
現に、テニスは高等部までとの約束がある。



しかしフィアンセに対する態度があまりにも素っ気ないので、不安になり外国から日本に戻ってきたのだ。



今夜のパーティーで仲を取り持とうと考えているらしいが…
無論、跡部にはそんな気など丸っきりない。




跡「今はテニスに集中したいと伝えたが、その件は譲らなくてな」




ならば自分に恋人がいれば諦めるのではないかと考え、彼はりんに話したのだ。




つまりは恋人のフリをして欲しいということ。



跡部の表情を見れば冗談ではないとわかるが、何故自分なのかと考えてみては不思議で仕方がない。




『わ、私がそのような重大な役目に相応しいとは思いませぬ…っ』



跡「落ち着け…日本語可笑しいぞ」




昨日言われた言葉はこういう意味だったのかと、今になってようやく理解した。




跡「…お前しか頼める奴がいねぇんだよ」



『で、でも…っ』



跡「それにお前の気持ちは知ってる」




りんが白石を好きなことも、その気持ちが変わらないことも。


それを知った上で、頼めるのは彼女しかいない。




いくら優しいりんでも流石に断るかもしれないと…跡部は内心諦めてはいた。



りんは俯いてしまい、暫く無言の時が続いた。








『……わかりました』




視線を床に送っていた跡部は、その言葉に面を上げた。




『跡部さんが困っているなら…私、力になりたいです』




ふわりと柔らかな笑顔を作るりんに、跡部の目が一瞬見開かれた。




力になりたい、



ただ…それだけ。






『あ、でも私そんなパーティーって初めてでして…っマナーとかダンスとか大丈夫でしょうかっ跡部さんの足を引っ張ってしまいそうで…』




1人慌てるりんの元へ、跡部は立ち上がり近付いてゆく。


頭に手を置くと、りんは動きを止め驚いたように見上げた。




跡「…ありがとな」




こんなに優しく微笑む彼は珍しくて、りんは戸惑いつつもコクンと頷いた。
ふわっと頭を撫でられ、頬が熱くなるのを感じる。






芥「りんちゃん来てるのー??」



跡「『!?』」




ピョーンと跳ぶように部屋に入って来たジロー。


跡部は反射的に手を離し、りんを見付けたジローが花を飛ばしながら全力疾走してくる。




鳳「ジロー先輩、勝手に入っちゃ駄目ですよ!」



日「さっきまで寝ていたのに…」



忍「堪忍なぁ跡部、話終わったんか?」




ジローに続きぞろぞろと姿を見せる部員達。




跡「樺地、ミカエルに知らせろ。りんのドレスを手配しろとな。それと至急ダンスの練習に入る」



樺「……ウス」




跡部の凄まじい適格な指示に、りんはポカンとするばかり。




宍「跡部の奴すっかり元通りだな」



鳳「はい、良かったです」




りんに電話が繋がらない時は砂のようになっていたので、一時はどうなるかと心配していた。




跡「おら、お前らもパーティーに間に合うよう手伝え」



「「「はいはい」」」




命令口調な割りに全身から嬉しさが滲み出ている跡部に、皆は口元が緩みそうになるのを必死に堪えた。
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