beloved

□海の家
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丸「…何で俺らがこんなこと………」




かき氷に苺シロップをかけながら、丸井は溜め息混じりに呟いた。


隣で氷をすすっていた仁王も同意するように頷く。




赤「先輩達エプロン似合ってますよ!」



丸&仁「「あ゙?」」



赤「…何でもないっス」




低い声音が重なり、無意識に一歩後退りする赤也。

笑って返せる雰囲気ではなく、2人の機嫌は最悪で。



そこへ、パタパタと軽やかな足音が近付いて来た。




『お疲れ様ですっ』




目の前まで来ると、りんは手に持っていた水のグラスを2人の前に置いた。




『今日すごく暑いので、水分補給はちゃんと取って下さいね!』



丸「おー…さんきゅ」



『えと、それから…』



仁「?」




モジモジと恥ずかしそうなりんに丸井と仁王は揃って首を傾げる。


微かに赤い顔をじっと見つめていれば、やがて口が開いた。




『それから…来てくれてありがとうございます。皆さんと一緒に働けて、嬉しい、です…///』




それだけ言うと、くるっと背を向けて営業に戻って行ってしまった。




丸&仁「「…………」」




まさに言い逃げ。
そんな風に言われてしまえば、やる気も上がる訳で。


仁王はやれやれと小さく息を吐いた。




仁「(仕方ないのぅ)
…ブーンちゃん。顔真っ赤じゃよ」



丸「んな゙!う、うるせぇ…!///」




苺シロップと同じくらい顔を真っ赤に染める丸井少年。


その光景を見ていた赤也は自分の扱いと比べながら、やはりりんに勝る者はいないと改めて実感していた。


























『(あれ…?)』




忙しく働いていたりんだったが、お昼過ぎになればふと客足が途絶えてしまった。


本来なら稼ぎ時の時間であるが…




『ど、どうしたんでしょうか…』



赤「一気に来なくなったな」




赤也と共に首を傾げていると、「すみませーん」と客の声が響いた。


まだ残ってくれている僅かな客に感謝しつつ、2人が向かえば、




幸「かき氷5つ頂戴」



赤「ぶ、ぶちょー!?」



『幸村さん…!』




ニッコリ笑う幸村。そこには見知っている顔が並んでいた。




柳「赤也、ちゃんと働いているようだな」



桑「ああ、安心した」



柳生「りんさん、お久しぶりです」




どうやら全員集合らしい。
ってことは…と赤也は視線をめぐらせ、奥の席に座る人物に気付いた瞬間、体がビクンと跳ね上がった。




真「…………」



赤「さ、真田副部長…これはですね、えぇと」




じっとエプロン姿の自分を凝視する真田。



「中学生がバイト何ぞに励むとは何事だ赤也!たるんどる!」


と説教されるに違いない…と赤也は目を固く閉じた。




真「部活のない日を利用しての社会勉強か。…お前も随分と成長したな」



赤「へ?」




そう言ってうんうんと1人頷く。


まさか誉められるとは想像もしていなかった為、赤也は暫く瞬きを繰り返していた。




『皆さん、来て下さったんですか?』



幸「うん。赤也がりんちゃんと出掛けるって聞いてね」



赤「へ?俺言ってないっスよ?」




疑問に思う赤也に、フッと口元を緩める幸村。




赤「ま、まさか黒魔「言うな…」




冷や汗を流す赤也の肩に、ジャッカルは小さく首を振りながら手を乗せる。




幸「(抜け駆けかい?赤也。それを俺が許すとでも?)」



赤「(…すいませんでした)」




幸村は穏やかに微笑んではいるが、背後にはゴゴゴ…と黒い何かが降臨しかけていた。



だが2人の意志疎通を全く理解していないりんは、『かき氷何味がいいですか?』と平和に接客をしている様子。




丸「あれ!幸村くん?つーか皆どうしたんだよぃ」



仁「全員集合じゃな」




騒ぎに気付いた2人がやって来て、その場は更に賑やかさを増していった。




柳生「仁王くんそんな姿で…いや、感動しました」



桑「柳生…なにも泣かなくても」




仁王が働く姿を見て涙腺が緩んだのか、眼鏡を外す柳生。

まるで子離れした母親のようだ。




梅「コォラ若人ども!何をくっちゃべっとるんだい!?」



赤&丸「「げ…!!」」




あの年で何故そこまで速く走れる、と言いたくなる程のスピードで掛けてくる梅。



慌てて謝るりんをすり抜け、その他3人に責めよった時。
近くに座る幸村を見た瞬間、動きがピタリと止まった。




梅「……と、歳造さ…」



幸「え?」



梅「あ、いや…人違いじゃった」




皆に不思議そうに見られていることから、梅はコホンと咳払いした。




赤「でもさ梅ばあちゃん。客誰もいねぇよ?」




その言葉に梅は周りを見渡し、空席を見ながら「…またか」と呟いた。




丸「またって?」



梅「あれじゃよ、」




くいっと顎で指した方へと視線をたどれば、窓からコンビニエンスストアが見えた。




梅「あれが出来てからは売り上げも下がる一方でのぉ。海の家なんてもう時代遅れらしいわい」



『…っそんなこと、』



梅「今は何でもお手頃が受けるんじゃ…ここももう閉めようかと思ってね」




何処か懐かしむように話す梅の言葉に、いち速く反応したのは赤也だった。
だが「潮時じゃ」と言われ、唇を噛み締めて押し黙る。



何処か重い空気になりつつあった時、顎に手を添え何かを考えていた柳が口を開けた。




柳「梅さん、ここに来る客は女性が多いですか?」



梅「そうでもないよ。最近は男性も多いねぇ」




再び考える素振りを見せる柳。
ふと、丸井とりんに目を向け意味深な笑みを浮かべた。




丸「?何だよぃ」



柳「…1つ、俺に考えがある」



『え?』



赤「マジっスか柳先輩!」




それを聞いた皆は期待に満ちた表情で、柳の話に耳を傾けた。
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