beloved

□海の家
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*りんside*



海の家と書いてある看板を見上げていると、お店の中から小さなおばあちゃんが出てきた。




赤「梅ばあちゃん!」




赤也先輩がそう叫べば、梅ばあちゃん…と呼ばれたその人は突然こちらに向かって走り出した。


高くジャンプしたと思ったら、赤也先輩の頭を持っていたきゅうりで思い切りチョップした。




『あ、赤也先輩…!?』




頭を抑え、先輩は「いてぇ〜…」と涙目になっている。




梅「意気なり今朝連絡してきよって…お前は急すぎるんじゃ赤也!」



赤「ごめんって、久しぶりに孫が帰って来たんだからさ」



梅「お前みたいなのが孫だったら困るわい!」




2人が言い合う中、私はその光景をぽつんと見つめていた。

突然、おばあちゃんがくるっと振り向き私の元へ早足で歩み寄って来た為、反射的に体が飛び跳ねてしまう。



私よりも背の低いその人は、見上げながらも鋭い視線を送る。




梅「…これが赤也の言ってた子かい」



『あの、越前りんです!初めまして。
今日はお世話になります』




ペコリとおばあちゃんに向かって頭を下げる。




梅「礼儀はちゃんとある子のようだね。赤也のコレかい?」



赤「!な…!」



『(これ…?)』




小指を立ててニヤッと赤也先輩を見るおばあちゃん。


顔の赤い先輩を不思議に思って見つめていれば、視線を逸らしコホンと咳払いをした。




赤「りんがバイト探してたから紹介したんだよ!つーか電話でも話したじゃん」



梅「何じゃつまらん」




話に着いていけないけど、つまらないと言われたことに申し訳なさを感じた。




赤「梅ばあちゃんはさ、俺が小学生の頃からの知り合いなんだよ」



『へぇ…』



赤「家出とかした時にここに駆け込んでさーあん時は良く怒られてたっけ」



梅「今もじゃ」




「確かに」と楽しそうに笑う赤也先輩。

おばあちゃんの口調は怖そうに聞こえても、赤也先輩を見る表情から本当は優しい人だとわかる。




梅「さ、開店まで準備することが山程あるわい。2人には早速働いてもらうよ」



赤「おう!」『はい!』




頑張るぞ!と自分自身に活を入れて、おばあちゃんの後に続いた。



























赤「りんーラムネも補充しといてくれ!」



『はい…っ』




開店前の作業は予想以上にやることがたくさんあって、店の中と外を行き来していた。


慣れないバイトに戸惑うばかりの私と違って、赤也先輩は淡々と作業をこなしているみたい。




『…んっしょ、』




外に出て積み重なった箱を運ぼうとしていると、「すみません」と背中越しに声を掛けられた。




「あの〜もうやってますか?」



『は、はいっいらっしゃいませ…!』




何処か声が裏返りつつ、初めてのお客さんを何とかお店の中へ案内していく。

震える手を必死に押さえながらお水をコトリと置いた。




『(な、何て言うんだっけ…)』




緊張で頭の中をぐるぐると混乱させていれば、




赤「いらっしゃいませー!何をご注文ですか?」



「んー…じゃあ、かき氷1つ」




「かき氷1つー!」と厨房に向かって叫ぶ赤也先輩。
かき氷にシロップをかけに行く先輩の後を、慌てて追い掛けた。




『あの「固くなりすぎ」




くるっと振り向き、頭を軽く叩かれる。




赤「もっと気楽でいーんだよ。いつも通りのりんで」



『いつも通り…?』



赤「いつも俺や皆に接してるように。仕事だからとか気にすんな」




いつもの私で、
ありのままで。



仕事だから頑張らないとって、気張りすぎてたかもしれない。




『…ありがとうございます』




『もう1回頑張ります!』と宣言すれば、赤也先輩は笑いながら頭を撫でてくれた。





『いらっしゃいませー!』




赤也先輩のアドバイスのお陰もあり、暫くしてだんだん緊張も溶けてきて、大きな声も出るようになった気がする。




「おねーさんこっちもお願いね!」



『はい!只今…っ』




焼きそばやラムネやかき氷をお盆いっぱいに乗せて運んでいると、ぐらっと体勢を崩しそうになった。




『はわ…!(倒れる!)』




傾くお盆を押さえた代わりに、自分の体を支えるのを忘れそのまま転ぶと思った。


だけど、衝撃はない。




「…っと、セーフ」




その声に恐る恐る閉じていた目を開けると、お盆を押さえる丸井先輩の姿。




「危ないとこだったナリ」




ゆっくり後ろを振り向けば、苦笑する仁王先輩も。


突然の2人の登場に思わず瞬きを繰り返す。
私の体を支えてくれていた仁王先輩は、そっと肩に置いていた手を離した。




赤「あれ!先輩達どうしたんスか!?」




かき氷を運んでいた赤也先輩が、私の言おうとしている言葉を代弁してくれた。




丸「赤也ん家行ったら、バイトだってお前の姉ちゃんに言われてよ」



仁「場所聞いて来たって訳じゃ」




そう言うと、丸井先輩は口元に手を当てて可笑しそうに笑い出した。

仁王先輩もニヤニヤと見つめている。




丸「おま…エプロン似合わねー」



仁「相当見物ぜよ」



赤「な…!//」




黒いエプロンを身に付けた赤也先輩は、顔を赤くして2人を睨み付けた。



私は似合ってると思うんだけどなぁ。




仁「でも、まさかりんがいるとは思わんかった」



『あ、えと…』




何から説明しようかと考えていると、私達の間に梅おばあちゃんが立った。


じーっと上から下まで観察するかのように見つめるおばあちゃんに、首を傾げる丸井先輩と仁王先輩。




丸&仁「「((小さ…っ))」」




2人が思ってることを悟ったかのように、おばあちゃんの眉が潜められた。




梅「なんじゃ、そのチャラチャラした頭は。お前達は甘えん坊だねきっと」



『(ふぇ…!)』




何故髪色が明るいと甘えん坊になるのかわからなかったけど、はっきりと言うおばあちゃんに冷や汗が流れる。



証拠に、それを聞いた先輩達はポカンとしていた。




梅「全く現代の若者はこれだから困る。あたしが鍛え直してやるわい」



赤「ちょ、梅ばあちゃん?」



梅「ほら突っ立ってないで、お客様の邪魔だよ!」



丸「な、は!?」



仁「…………プリ」




流れるようにおばあちゃんに押されていき、丸井先輩と仁王先輩は厨房へと姿を消した。



その光景を暫く呆けて見ていたけど、お客さんの呼ぶ声で初めて我に返った。
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