beloved

□海の家
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カーテンの隙間から薄らと朝日が差し込み、その眩しさにリョーマは眉を寄せた。

ぐるりと体を反転すれば、思わず瞬きを繰り返した。




リョ「……………」




リョーマの服の裾を掴み、すやすやと気持ち良さそうに寝息をたてて眠るりん。


何故いるのかと、まだ覚めない頭を働かせ昨日の出来事を思い出してみる。




リョ「(…確か、俺の部屋に来て、)」




昨夜リョーマの部屋を訪ねて来ては、大阪の話を嬉しそうに話して聞かせるりんを思い出した。

そのまま限界が来たりんは寝てしまい、自分も一緒に寝てしまったのか…




『……お兄ちゃ……』



リョ「?」



『…ただいま……』




起きてる?と顔を見やるが、りんからはすー…と寝息が聞こえてくる。




リョ「…おかえり」




リョーマはふっと頬を緩め、顔に掛かる髪を払ってやりながら優しくその頭を撫でた。

























南「んっめぇ〜!」




りんの作った魚を口に入れた瞬間、南次郎は震えながら喜んだ。

『良かったぁ』と微笑むりんの横で菜々子は苦笑する。




南「やっぱりんの飯が1番だな!うう、お前がいない日はまるで長く感じてな……」



菜「おじ様ったら…たった3日なのに、」



南「3・日・もだよ!?俺のりんが猛獣の中にいたんだよ菜々子ちゃん!」



倫&リョ「「(うぜー…))」」




まるで軽蔑した目で見つめる母と息子。
そんな父には慣れているのか、りんは困ったような笑みを浮かべぽんぽんと頭を撫でた。




倫「蔵ノ介くんと仲良くやってたわよね?」



『へ!?う、うん』




海のことと、花火大会の夜を思い出し…りんの顔はボンッと熱くなった。


勢い良く首を左右に振って真っ赤になるりんを、倫子と菜々子は何故かニヤニヤと見てくる。




南「今日は家族水入らず、何処か遠出でもするか!」



『え、』




南次郎がすくっと立ち上がると、りんは一瞬戸惑いの表情を見せた。

「リョーマも部活ねぇし」と顔の向きを変える。




リョ「…まぁ、別にいいけど」



倫「あらぁ皆で出掛けるなんて久しぶりねー」



菜「そういえば、そうですね」




楽しそうに話が盛り上がっていき、りんだけがぽつんと残される。

その様子を不思議に思ったリョーマが、「りん?」と顔を覗き込んでくれた。




『あ、あのね…お兄ちゃん』



リョ「?何、」



『実は今日ね…っ』




りんはギュッと拳を握って、意を決して口を開けた。
































暑い日差しが降り注ぐ空の下、りんは麦わら帽子を押さえ駆け足で走っていた。


駅に着くまで沢山の男性に振り返られるが、勿論りんは気付かない。
…それ所じゃなかった。




『(お父さんに悪いことしちゃったかな…)』




断わった時、余程衝撃を受けたのか、南次郎は砂のように散っていった。




だが、今日は大事な用事があるのだ。




発車寸前の電車に何とか乗り込み、りんは乱れた息を調えながら窓の外に視線を向けた。




当たり前だが、大阪に行くにはお金がかかる。
日頃からお小遣いはほぼ貯金していたが、それも等々尽きてしまった。


りんの性格上、親に頼るなんて考えはなくて。



困っていたところにある話が飛び込んできた。
















赤「金欠?」




ゲームセンターへ誘いの電話を掛けて来た赤也。


りんは携帯を耳に当てながらコクコクと頷いた。




『そうなんです。だからバイトしたいんですけど…』



赤「バイトっつってもりんの学校厳しそうじゃん」



『ゔ……』




りんの通っている学校は、東京都では誰もが知ってるほど名の知れた女学院で。


アルバイトは勿論禁止してあるし、おまけに中学生と言う年齢もある。



どうしたら…と本格的に落ち込むりんに、赤也も一緒になって悩み始めた。




赤「んー…そんな稼げねぇかもだけど、紹介してやろうか?」



『本当ですか!?』



赤「けどかなりハードだぜ」



『全然大丈夫です…っ
ありがとうございます、赤也先輩!!』




顔は見えなくても何度もお辞儀をしてしまう。



早い方が良いと、早速行ってみることにしたのだった……















待ち合わせの駅に降りて人込みの中、一生懸命に顔を動かしていると、壁にもたれている赤也を見付けた。




『赤也先輩!』



赤「おーりん!」




小走りで近寄れば、赤也は顔を上げて笑った。




『あの、ごめんなさい…先輩部活とかで忙しいのに、付き合わせちゃって、』



赤「いや、今日休みだし。言い出したの俺だし………ってその荷物何だよ!?」




目を丸くして驚く赤也に首を傾げるりん。

視線をたどり、自分の持つ荷物に対してだと気付いた。




『えと、これは…赤也先輩が超ハードって言ってたから』




『赤也先輩の分も持って来ました!』と笑うりんだが、その荷物は一泊するのかと言いたくなる程だった。

ペットボトルやおにぎりらしきものが大量に詰められていて、どう見ても2人分ではない。



呆気に取られていた赤也だったが、小さく息を吐くとりんの手からその荷物を奪った。

そのまま歩きだす赤也にりんは慌ててついて行く。




『そんな、悪いです!重いですし…っ』



赤「俺がしたいからいいんだよ」



『でも…』



赤「いーから。早く行くぞ」




りんの小さな体には、この荷物を運ぶには無理があるだろう。




赤「(…寧ろ鞄に運ばれてるみてぇだしな)」




だがそれを言えばりんは頬を膨らませて落ち込んでしまうだろうと思い、口には出さないことにした。



『…ありがとう』と小さく微笑む姿を横目で見ながら、満足気に赤也も笑った。




『赤也先輩、最近部活どうですか?』



赤「んー…まだ部長とか慣れねぇけど、立海は相変わらずだな。先輩達ともたまに会うし」



『私も皆さんにお会いしたいですっ』



赤「…それ、あの人らに聞かせてやりたい」




談笑している間にも、目的地である…海辺に2人はやって来た。


一軒の店の前で足を止めた赤也に合わせ、りんもふと立ち止まる。



顔を上げた瞬間、思わずゴクリと息を飲み込んだ。
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