beloved

□浪速のバカンス
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*りんside*




あれから、割り箸で最初のペアを決めました。




『…………』



財「…ずっと浮いてて楽しいん?」



『ふぇ…!はい!』




浮き輪を頭から被り、ぷかぷか浮いていた私。


気付いたら財前さんが眉を寄せていた。




『私泳げないので…っ財前さんは気にせず、泳いで来て下さい!』




私のせいで、折角の海が台無しになってしまう…



暫くして、財前さんは私の浮き輪に付いてる紐を持つと、そのまま歩き出した。


突然の行動に頭を混乱させている間に、ぐいぐい引かれてゆく。
気付いたら自分の足で立っていて、さっきよりも大分浅い場所にいた。




『あ、あの「ここなら足つくやろ」




「泳ぎ…教えたる」と低く呟き、そっぽを向かれる。




『そんな…っ悪いですよ!』



財「…………」




慌てて首を横に振るうと、財前さんの顔が少しだけ曇った気がした。


その表情に、何故だか胸が痛む。




『えと、じゃあ…お願いしますっ』




ペコリと頭を下げれば、一瞬、財前さんの顔が和らいだように見えた。

だけど、すぐにいつもの無表情に戻る。




財「で、どこまでカナヅチなん?」



『み、水の中で目が開けれません』



財「…………」




絶対に今、心の中で溜め息吐いてるだろうな…とわかる表情をされる。



とにもかくにも、教わる立場の私は財前さんに従うしかなかった。


































金「謙也ぁ、覚悟しぃやー!」



謙「ぬぉぉ何すんねん!」




水鉄砲で遊ぶ金ちゃんと謙也さんを、パラソルの下で見つめる。




(…楽しそう)




自然と頬が緩み、見てる私まで楽しくなってくる。



あれから何回かペアを変えたのだけれど、何故今1人でいるのかというと……










『千歳さん!こっちにも可愛い貝がたくさんですっ』



千「本当やね」




次のペアの千歳さんと、可愛い貝を探しつつ探検していた時。




千「……!?」



『千歳さん?』



千「さ、殺意を感じるばい…」




千歳さんは突然顔を真っ青にさせて、震え始めた。




次のペアの小石川さんも、




『お城ってこんな感じですかね?』



健「そやな。で、ここに門が………ッ!」




砂のお城を作ることに勤しんでいると、急に身震いし始めた小石川さん。


こんな感じで、皆の具合が悪くなっていき…私も近付けなくなってしまった。





ふと、視線は別の方向に移動する。




友「何言うとんねん!私の方が速いに決まっとるやろ!」



翔「は?俺の方がずっと速いし」




遠くからでも良く聞こえる程、大声で言い合いする友香里ちゃんと翔太くん。


どっちが速く泳げるのか競い合ってるみたい。




『仲良いなぁ…』




もしかしたら、前に友香里ちゃんが言っていた好きな人って……







白「誰が?」



『ひゃわ!!』




突然の白石さんのドアップ。

びっくりして変な奇声を上げてしまった。



「ひゃわって」と可笑しそうに笑い、白石さんは私の隣に腰を下ろす。




白「はい。バニラとチョコどっちがええ?」




差し出されたのは、美味しそうなソフトクリーム。




『あ、お金…っ』



白「こんくらい奢らせてや」




その言葉にまだ遠慮しながらも、バニラの方を受け取った。



一舐めすれば、甘い味が口の中に広がる。
美味しさを噛み締めながら、珍しく甘いものを食べる白石さんをそっと盗み見た。


するとバチッと目が合ってしまい、ドキンと鼓動が跳ねる。




白「こっちも食べる?」



『い、いえ…!大丈夫ですっ///』




そんなに物欲しそうにしてたのかな…と頬が熱くなる。




(しかもそれって、か、かか間接………///)




1人顔を赤く染める私を不思議がる白石さん。


話題を変えようと慌てて言葉を探して。




『ゆ、友香里ちゃんと翔太くんって仲が良いんですね』



白「幼なじみやからなぁ」




"幼なじみ"で、"好きな人"。



前に友香里ちゃんから聞いた話と2人を重ね合わせて、ようやく納得した。



秘密って約束したから、心の中だけに留めておこうっ




白「素直やないからな、お互い」



『ぇえ!』




前を見据えてさらりと言い放つ白石さんに、驚いた。




『し、白石さん知って…』



白「当たり前やん。見とればわかる」




淡々と話され、目からウロコが出た気分になる。

良く考えれば妹なんだし…知っていても何ら可笑しくはない。




(あれ、お互いってことは…?)




うーんと考え始めると、白石さんは私の方に顔の向きを変えた。



少しの間じっと見られて、自分の着ていたパーカーを脱ぎ始める。


突然の行動に目を丸くする私の体に、それをふわりと掛けた。




白「…ほんま、目に毒」




低い声で、独り言のように呟く。




(ど、毒……)




もしかしたらとんでもなく迷惑な姿を晒していたのかと、ズキンと胸が痛んだ。



やっぱり、発育の遅れた体にこの水着は背伸びし過ぎたのかもしれない…

どんどんマイナスな方向に思考が進み、しゅんと落ち込む。



俯いていたから、その時の白石さんの表情を伺うことが出来なかった。




白「泳げるようになったん?」



『えっと、前は潜水も5秒しか出来なかったんですけど、10秒は出来るようになりました!』




財前さんの教え方がすごく上手だったから。



ニコニコ笑顔でそれを言えば、白石さんの眉間に皺が寄った。




白「そんなん、俺が教えたるのに…」




そう吐き捨てた白石さんは、寂しさと悔しさが交えたような表情をした。


また悲しませてしまったのだろうかと…自分の言った言葉に激しく後悔する。




白「…そっち一口くれへん?」



『へ!?はい、どうぞ…っ』




意気なりの話の転換に戸惑いつつ、食べ掛けのバニラアイスクリームを慌てて渡す。


だけど白石さんは何故かそれをスルーして、私の顔に近付いた。






一瞬の内にして…ペロリと口の横を舐められた。





舐められ…






な、なな舐められ…!!






思考停止する頭。
余りにもぼけっとする私を見て、白石さんの口元がふっと緩んだ。



ドキンと、こんな時でも胸が鳴ってしまう。


更に引き締まった男の人の体を意識してしまって、顔が真っ赤になるのがわかった。



それでは終わらず、白石さんは更に顔を近付けて来る。




『あ、あのっアイスが…』



溶けるアイス。


それよりも私の頭の方が溶けそうで。




白石さんの真剣な眼差しに胸が打たれて、私も目を閉じかけた時、




白「………たッ」




バチコーンと鈍い音と共に、白石さんの後頭部に何かが勢い良くぶつかった。


転がるそれは……割れたスイカ。




『し、白石さん大丈夫ですか…!?』




ぴくりとも動かない白石さんにオロオロと戸惑っていれば。




財「すいません、スイカ割りしよ思うたら勢い余ってしもうて」



白「……俺の頭使わなアカンのかい」




近付いて来た財前さんは、軽々とスイカを持ち上げる。




白「素直にやきもちや言うたらええのに」



財「頭打って可笑しくなりはったんですか?」




ゴォォと2人の間に炎が燃え上がり始める。




『え、えと、私スイカ切って来ますね。皆さんに知らせておいて下さいっ』




その雰囲気に居たたまれなくなった私は、その場から離れることにした。
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