beloved

□浪速のバカンス
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大阪。とある駅の前で、青年が改札口を見つめていた。



彼が待っているのは…1人の女の子。



自然と腕時計に目がいき、何度も時間を確認してしまう。




金「りんまだなん??」



紅「そうやなぁ、もう着いてもええ頃何やけど」




青年、白石の後ろからヒョコッと顔を覗かせた金太郎と紅葉。


心の声を代弁された気がして、白石の眉がぴくっと吊り上がった。




白「……何で自分らおるんかな?」




そもそも、元は1人で迎えに行くはずだった。




紅「ええやん。りんちゃん家に泊まるんやし」



金「独り占めはズルいでー!白石!!」



白「…………」




そう、りんは2泊3日で紅葉の家に泊まることとなっていた。




お互い部活もなく久しぶりのオフだったので、夏休みを利用してりんが大阪に遊びに来ることになった。


白石の家に泊まっても良いのだが…そこはきちんとしたいので、すぐ近所にある紅葉の家となったのだ。







金「あ、りんや〜!」




金太郎の声で一斉に振り返ると…



そこには、今まさに改札口を出ようとしているりんの姿が。



顔を上げて白石に気付いたのか、ふわっと微笑む。
りんの足が速まるのと同時に、白石も駆け出した。



両手を広げて抱きしめる体勢に入った時、




金「りん〜!!」



『きゃ…!』




白石の脇を高速で通り過ぎた金太郎は、ガバァとりんに抱き付いた。




『金ちゃん…来てくれたんだ』



金「当たり前やん!!」




「会いたかったでー!」とピョンピョン飛び跳ねる金太郎。

りんは少し恥じらいながら笑い、ギュッと抱きしめ返した。




白「……………」




最初のハグ→言いたい言葉を全て先に越された白石のオーラは、黒いものと変化してゆく。


しかし、無邪気にはしゃいでいる金太郎は全く気付かない。




紅「……金ちゃん、そろそろ離れよーか」




そんな白石の様子を呆れつつも見ていた紅葉は、金太郎の両肩を掴み自分の元へと引き寄せた。


ブーブー文句を言う金太郎にりんは思わず小さく笑っていると…手に持っていた荷物の重みが、ふと消えた。



顔を上げれば、ニッコリ笑う白石で。




白「大変やったやろ?」



『いえ!そんなことは…』




「お疲れさん」と微笑みながら頭を撫でられる。


さり気なく荷物を持ってくれたことにお礼を言うと、また柔らかい笑顔を向けられた。




白「ん?」




無意識のうちにぼおっと見惚れてしまっていたらしく、白石に首を傾げられてりんは初めて我に返った。




『あ、えと…///新幹線の中で、ずっと白石さんのこと考えてたから……今目の前にいることが、何だか嘘みたいで』




正直に言い過ぎたと、りんの頬はりんごのように真っ赤に染まる。



顔を俯かせていると、ドサッと持ってくれていた荷物が下に落ちた。


りんが顔を上げるや否や、真っ正面からギュウッと抱きしめられて……




『!!?あの///』




慌てるりんだが、更にギューッと強く力が込められる。


ドックンドックンと、鼓動が忙しなく鳴りだす。




白「……う……で…ん」



『へ…』



白「………りんちゃんを、……充電」




背中越しに囁かれた白石の声に、カァァと顔が熱を帯びていく。



りんも怖ず怖ずだが、気持ちに応えようと自身の腕を伸ばした。




紅「充電禁止!!」



『!はわわ…っ』




ビシーッと2人の間にチョップを咬ます紅葉。




紅「公衆の面前で何咬ましとんねん!」



白「……金ちゃんもしてたやん」



紅「拗ねるなー!!」




不機嫌に眉を寄せる白石に、ハァと大きな溜め息を吐く紅葉。



りんは駅周辺を慌てて見渡し…自分がしていた行動に対して、改めて顔を真っ赤に染め俯いたのだった。
























金太郎と白石と一旦別れたりんは、紅葉に家の中を案内されていた。




紅「ここがバスルームに、あっちがトイレ。狭いけど適当に寛いでってええからな」



『はい!ありがとうございます!』




部屋は紅葉と一緒と言うことで、荷物を置くとりんは丸いテーブルの前に正座して座った。


その時、部屋の襖がトントンとノックされた。




「ジュース持って来たで〜」



紅「お、オトン気ぃ利くやん」




オレンジジュースを片手に姿を見せたのは、紅葉の父親。
体格も良くがっしりとしているが、顔形は整っていて、改めて見ると紅葉が父親似なのがわかった。




さっきは店の方が忙しそうだったので、挨拶が遅れてしまっていた。




『初めまして、越前りんです。今日からお世話になりますっ』




慌てて立ち上がると、りんはペコリと頭を下げた。




「何の何の。狭いとこやけど寛いでってなぁ」



紅「それさっきうちが言うたから」



「おーそうか!」




「こりゃ失敬」と頭を掻いて笑う父に、呆れつつも笑う紅葉。


2人を見て、仲が良いんだな…とりんも頬を緩ませた。




『あの、腰の具合はどうですか?』



「え?あーもうこの通りピンピンしとるで!!」




自身の腰をバンッと叩く姿に、ほっとするりん。


合宿先で紅葉から腰を痛めていると聞き、心配していたのだ。




紅葉父は顎に手を添えながら、りんをじーっと見つめる。




『?あの、』



「話には聞いてたんけど…ホンマにお人形が座っとるみたいやな」




小さいってこと!?とガーンと1人ショックを受けるりん。


そんなりんをお構い無しに、どんどん話を進めていく紅葉父。




「いやー蔵ノ介くんも良い彼女捉まえたもんやなぁ。よっしゃ、将来結婚して家の店を継ぎ「黙れやオトン」



紅「ほら、もう行かな店混んでまうで」



「む〜何やねん」




まだ不服そうな顔をしながらも、紅葉にぐいぐい押され紅葉父は部屋を出て行った。


パタンと襖を閉めると、紅葉は疲れたように溜め息を吐く。




紅「堪忍な、煩くて」



『いえ!可愛いお父さんですね』



紅「そうか?」




楽しそうに笑うりんに紅葉は首を傾げる。



やっと落ち着いたように思えたが……




再びバタバタと階段を駆け上がって来る足音が響き、勢い良く襖が開いた。
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