beloved

□無人島
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白「紅葉、りんちゃんおる?」




コンコンと部屋の戸が叩かれたので開けてみれば、馴染みの姿があった。


目が合えば、万人が気絶するであろう笑顔でにっこりと微笑まれる。
否、紅葉にはまったく効果がないが。




紅「いや?さっき海岸行く言うて、まだ戻って来てへんけど」



白「ほんま?」




そう告げれば微かにしゅんと眉が下がった。

この顔で何かを頼まれて断われる女子は、恐らく世界中で自分だけだろう。




紅「デートのお誘い?まったく何処に来てもラブラブやな……」



白「ちゃうて。急にりんちゃんに会いたくなってなぁ」



紅「…いつもやん!」




思わず全力で叫んでしまい、いけないと一呼吸置く。



白石は素でボケることが多々ある為、まともに取り合っていたらキリがないと紅葉は承知していた。

特に色恋沙汰に関しては。




白「ほな俺も降りてみるわ。波も強うなって来とるみたいやし」



紅「ん?あ、ほんまや」




自分の肩越しから部屋の窓を覗く白石に合わせ振り向くと、穏やかな海から一変して、波が高くなり荒れて来ていた。


確かに、心配だ。




紅「頼んだで、蔵」



































ザザーンと、海水が浜辺に重なる。


りんはその音を聞きながら、近くで体育座りをしていた。


隣をチラリ見れば、胡坐をかいて同じように前を向く財前。




もう1時間はずっとこの状況が続いていた。




案の定、2人とも携帯を部屋に忘れて来ていて、おまけにこの波なので船も出せない。


引き潮を待つしかないのだ。




『皆さん、心配してるでしょうか……』



財「…部長と越前は間違いなくな(過保護やし)」



『うう…ごめんなさい、』




本当に心から反省しているのか、りんはずっと頭を下げたままで。


財前は切れ長の目をすっと細めた。




財「別にあんたのせいだけやない。止めへんかった俺も悪いし」



『いえ、財前さんは悪くないです…っ私が、』



財「それにこの島、正直気になっとったし」




その言葉を聞いて、自分の為に言ってくれてるんだとりんは悟った。



突き放すような低い声音とは裏腹な、優しさ。




『財前さん、ありがとう…』




何に対してのありがとうなんだろう。
けれど、言いたくて。



財前はそんなりんを見つめ、何も言わず再び前を向いた。




財「…この海見てたら、書けるやろって思うて」



『え?』



財「歌詞」




歌詞?と首を傾げるりん。


ふと、さっき財前が耳にヘッドホンを当てていたことを思い出した。




『財前さん、曲作ってるんですか?』



財「ん、」




途端に、りんは目を大きく見開いた。




『すごい、すごいですね!』



財「そんな大それたもんやないけどな。文化祭でバンドやっとるから、それで」



『バンド?』



財「謙也さんに無理矢理誘われたんや」




またまた新事実が発覚。



財前の話によれば、謙也がドラム、ユウジがベース、財前がギターという配置らしい。


いつも音楽を聞いている財前に、なら曲も作ってやという何とも強引な理由で頼まれたのだと言う。




『ボーカルは?』



財「前の人辞めてもーたから…今年は白石部長でやる言うてる(本人嫌がっとるけど)」



『白石さんが!?』




白石さんがボーカル…と、りんはその姿を想像してみる。




『…見てみたいなぁ』




素直に口から零れた。


きっと、かっこいいに違いない。




財「…文化祭、来たらええやん」



『ぇ、』




「部長も喜ぶし」との言葉にりんはカァァと頬を赤く染める。


暫くして、コクンと頷いた。




財「…自分すぐ赤なるな。赤面症?」



『ちが…!///』




更に顔を真っ赤に染めるりんに、口角を吊り上げる財前。




『(や、やっぱり財前さんって…意地悪だ)』




口元だけ薄く笑う姿を見ながら、りんの中の彼の印象が振り出しに戻った。



ふと、自分の足元まで海水が上って来ていることに気付く。




『はわ…っ』




慌てて立ち上がると、財前も同じように腰を上げていた。


りんと違ってまったく慌てた様子を見せないで、ただ小さく溜め息を吐いた。




財「何処かに落ち着ける場所あるかもな」




そう言って歩きだした財前。




『わ、私も行きます…!』




1人取り残されるのかと思い込み、りんはその後を慌ててついて行った。



こうして、2人は夜の無人島に足を踏み入れるのだった……
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