beloved

□妹愛
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日曜日、午後。

青学のテニスコートでは、ボールを弾く音がひっきりなしに響いていた。




海「おらぁ!一年もっと声出しやがれ!!」




左右に走らされる男子は、返事をするのが精一杯な様子。


新しいボールの入った籠を持ちながら、りんはその光景を呆然と見つめていた。




桃「海堂の奴、気合い入ってんなぁ」



『桃城先輩!』




頭を掻きながら隣に立つ桃城。

部長の海堂に比べ、副部長の彼はまだ優しく親しみやすいと、後輩からは人気があった。




桃「まぁ、こんだけ人数いたら仕方ねーか」




桃城はぐるっと周囲を見渡した。
部長の命令で素振りをさせられている一年生は、相当な数だった。




昨年の倍…とでも相応する人口密度である。





何故こんなに入部希望者が出たのか。
全国ナンバーワンの経歴は勿論のこと、他に理由を言うなら………






海「…次、コートに入れ!」



「はい…!」




散々走らされた一年生は、交代の合図と共にその場に崩れ落ちるように倒れた。


それを見かねたりんは慌てて駆け出す。




『だ、大丈夫!?』



「あ、はい……」




ゆっくり起き上がるその男子に、りんは用意していたタオルを差し出した。




『ナイスファイト。前回よりずっとボールに追い付いてるよ、すごいね!』




ふんわりとした、笑顔付きで。



一年生の男子はあっという間に顔を真っ赤に染め、その場に硬直してしまった。
ニコニコと話すりんをぼぅっと見つめている。




桃「(……落ちたな)」




その様子を見ていた桃城は、一人呆れたように息を吐いた。



彼もまた、りんファンの一人になるだろう。




マネージャーの存在を知らないで入部した者達は、休日の練習にだけ訪れるりんに驚愕していた。

それがまた越前リョーマの妹であると知れば、更に驚く。



最初は女子マネージャーに抵抗があった者も、今のように励まされたり微笑まれたりして……いつの間にか心を開くようになっていた。



テニス部の天使マネージャーと、噂が噂を呼び…着々と入部希望者を増やしていったのだった。







海「ちんたらしてんじゃねぇ!!」




さっきの一年生と同じように、容赦がない海堂。


彼にしてみれば、「恋愛なんかしてる暇ねーぞ」と言う意味も込められてるのかもしれない。






桃「(あそこにも不機嫌な奴がいたか…)」




三年生と試合をしてるにも関わらず、容赦なく必殺技をかますリョーマ。



試合を終えて歩き出した時、頭にタオルが投げられた。




桃「なーに苛ついてんだよ」



リョ「……別に」




ニッと笑う桃城を見てから、それを取り額の汗を拭く。




桃「ここ最近ずっとしかめっ面じゃねーか」




笑えと言うように頬を無理矢理上げさせられ、リョーマは「痛いっスよ」とその腕を慌てて振り解いた。




桃「よし!今日は俺が奢ってやるから、ハンバーガーでも食い行くかぁ」



リョ「いや、今日はちょっと、」



桃「何だ?デートかよ」



リョ「………」




からかって言ったつもりなのに、リョーマは言い返して来なかった。
だが桃城は気にすることもなく、




桃「(…心配することもなかったな)」




練習を終えた皆にタオルを配るりんと交互に見て、桃城は安心したように肩を落とした。




だがこの時、何故か全く嬉しそうじゃないリョーマに気付けなかった。































「「「お疲れさまでしたー!」」」




練習を終えた部員達に挨拶をしつつ、先に着替え終えたりんは部室の前で待っていた。



ガチャリとドアが開く。




桃「おーお待たせ!あ、これからデートなんだろ?お二人さん」



『デート?誰が…ですか?』



桃「へ?俺はてっきりりんとだと、」




二人の視線がリョーマに集まる。

それを受け、リョーマが口を開けようとした時、








「いたいた、越前くん!」




ぱたぱたという足音と共にやってきたのは…見るからに先輩だと察しがつく、女子生徒。


長い黒髪は緩く巻いていて、化粧もしてるのか…気の強そうな美人だった。




『(だ、誰…?)』




兄の知り合い?の女子の出現に、頭を混乱させるりん。


リョーマはそんなりんにゆっくり近付き、頭に手を置いた。




リョ「…今日、夕飯いらないから」



『え、う、うん…』




状況が理解出来ないまま頷く。



リョーマはその手を下ろして、女の先輩の元へ近付いていった。
その人は嬉しそうに笑いリョーマの腕を絡めたので、一同ギョッとする。




桃「…も、もしかして越前、デートって……」




まさかな…と半信半疑で尋ねるが、




リョ「…そうっスよ。付き合ってるんです」




思いの他あっさりとした返事に、再び衝撃が走る。



そのまま背を向け、二人は去って行ってしまった。




桃「……ゆ、夢か…?」




桃城は頬を引っ張ったり叩いたりしてみるが、痛みだけが虚しく残る。




『…………』




無言のまま、兄の背中を見続けるりん。


くらりと後ろに倒れそうになって…




桃「りん!大丈夫か!?」




咄嗟に桃城がキャッチし、りんは同時に気を失った。
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