beloved

□birthdayデート
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金「もう一回乗るでぇー!」



千「金ちゃん、そんな腕引っ張らんで」




ジェットコースターが余程面白かったのか、何回も乗ろうとする金太郎。




ユ「こ、小春…観覧車一緒に乗らへん?」



小「んーあたしまだええわぁ。ユウくん先行って来てええよ」



ユ「!(そ、そんな…)」




尾行という本来の目的も忘れ、それそれが思い思いに遊園地を満喫しているようだ。






財「…はぁ、気持ち悪…」



謙「大丈夫かー?」




謙也はベンチに寄り掛かる財前に、ほいとジュースを差し出した。




財「…ヘタレ先輩があんな回すから、アホの子みたいに」



謙「だからすまんって!回すもん見るとついスピードがな…」




はははと笑って誤魔化そうとする先輩を、鋭い目で睨む。



数分前、コーヒーカップに乗ったのだが…謙也は尋常ではないスピードで回し出し、それに乗っていた財前が被害にあったのだった。



「流石は浪速のスピードスター」とでも言えようか。




謙「お前…その服装で睨むなや。めっちゃ怖いから」



財「好きで着てるわけじゃないです。…謙也さんと違って」



謙「俺も好きで着てません!」




じっと疑り深い目で見てくる財前を見て、「ホンマ可愛くない奴」とブツブツ呟く謙也。



けれど、財前の表情は何処か曇っていた。




財「(…あいつ暗闇苦手やったよな)」




見たいわけじゃない。


けれど、尾行なんてしていたら嫌でも見てしまう。




財「(…まぁ、部長なら上手く守ってくれるやろ)」




わざと怖がらせる自分と違って、王子様気質なのだから。






だから来たくなかったんだ。





何でこんなとこまで来て、こんな服装までして、嫉妬しなければならないのか。









金「…けーんやー乗ろうでー!」




遠くから金太郎の声が聞こえて、謙也は立ち上がる。




謙「あー…ごめんな、後で行くわ!」




そう叫ぶと、再びドカッとベンチに座った。


財前は少し目を丸くして隣を見る。




財「…俺、そういう趣味ないですわ」



謙「アホか……泣きそうやろ、自分。付き合ったる」




「感謝しぃや」と吐き捨て横を向く謙也。


財前は何も言わず、前に向き直った。




心の中で、ありがとうございますと呟いて。






























白「…………」




暗闇の中、白石は出口に向かって歩いていた。


何処からか聞こえる変な悲鳴と、自分の足音だけが響く。




白「……りんちゃん」




さっきから名を呼んでもピクリとも反応しない、自分の彼女。


入った瞬間スタスタと先を歩き出して、外部からの音を聞こえないように耳を塞いでいる。




と、真横に立て掛けてあった棺がキィ…と気味の悪い音を立て開いた。


その中から、長い髪を前に垂らした女性がゆっくりと顔を覗かせ、




『…………』



白「……りんちゃん!?」




完全に硬直してしまったりん。

その時更に、誰かに足を掴まれた。



後ろを振り向けば、目が飛び出ているお化け………




『ぴ、ぴぎゃ…!』



白「(ぴぎゃって…)」




固まっていたりんも正気に戻ったのか、慌てて白石の腕に絡みつく。


ぎゅううと、か細い腕には不似合いなくらい、力強く。




『し、白石さん…こわ…いです…』




目に涙をいっぱい溜めて、見上げてくる。




白「……っ」




予想以上の破壊力に動揺しそうになるが、白石は何とか平静を装おう。


小さな子供をあやすように優しく頭を撫でた。




白「大丈夫やから」



『……本当…?』



白「…うん」




一体何だと言うのか、この可愛い生き物は。



こんな場所じゃなかったら今すぐに抱きしめて…と一人暴走しそうになる思考を、必死で押さえる。




りんの手をギュッと握って自分の元に引き寄せ、庇うようにして先を歩きだした。












やがて外へ出て、一気に緊張が解けたりんはほっと肩を落とす。




白「大丈夫?堪忍な、そんな怖がるなんて思ってなくて…」



『い、いえ…!』




慌てて手を横に振ると同時に、自分の今の状況を思い出した。


ズザザザと音がしそうなほど、勢い良く距離を置く。




『ご、ごごめんなさい!!///』




なんて大迷惑なことをしていたんだろう。

と今更ながら顔を真っ赤に染めるりんを見て、白石はふはっと笑い出した。




『ほ、本当に怖かったんです…笑うなんて、』



白「いやいや、ごめんな。やってりんちゃんが可愛すぎて」



『!///』




ククク…と笑いを堪える白石にどんな顔をしたら良いかわからない。


笑われたことに対する怒気も、今の一言で吹き飛んでしまった。




笑いが治まってきた時、白石はふと前を見据えた。




白「…まだ、乗ってないのあった」



『?ぇ、』




ニコッと笑った白石を、りんは首を傾げながら見つめた。
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