beloved

□桜の下で 後編
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*りんside*














『…ん…』




薄らと目を開けると、桜の花弁が宙を舞っていた。


慌てて体を起こし、辺りを見渡す。




白「お、気付いた」



『白石さんっえと、私…』




傍に座っていた白石さんの姿を見て、状況を整理してみる。

確か、ボールが顔に当たって……




白「もう大丈夫なん?痛ない…?」



『あ、はい、大丈夫です!』




頬に手を添えられて、ビクンと体が揺れる。


「良かった」と安心したように微笑む白石さんを見て、ドキンと鼓動が鳴った。




『あ、ユ、ユウジさんは…///』




何だか急に意識してしまい、少し俯きながら問い掛ける。




白「ユウジなら、今皆に吊し上げられとる」



『つ、吊し上げ…!?』




大変!と慌てて立ち上がれば、突然片腕が掴まれたので反射的に振り向いた。




白「…後ででええから」



『でも、ユウジさん悪くないのに…!』




白石さんを見上げて必死に訴える。

だけど、悲しそうな瞳を向けられて口を閉ざしてしまった。



こんな白石さんを見るのは、今日で二回目だ。




白「…跡部が今、冷やすもの探しに行っとる」



『!じゃあお礼を「跡部もええから」




さっきよりも強い口調に驚いて顔を上げる。


顔を見る前に引き寄せられて…
一瞬のうちにその腕の中にいた。


ギュッと背中に回された腕に力が入って、心臓が破裂しそうな程忙しく鳴りだす。




『白石…さん?』




いつもと様子が違う。


心配になって問い掛けても、返事は返ってこない。




………



……………



…………………




その空気に耐えられなくて、恥ずかしくて、何か言わなくちゃと言葉を探す。




『さ、さっき金ちゃんが…』




ぴくっと、白石さんが反応したのがわかった。




白「金ちゃんもええから」




トクントクンと、鼓動がリズムを奏でる。


いつもより低い声音に戸惑ってしまう。




『ジロちゃんとがっくんの話も、ですか…?』



白「…アカン」



『…お、お兄ちゃんも?』



白「…うん」




「今は、せんといて」と、更にギュウッと力を込められて。




…また、




不安にさせてしまってるのかな。




(…言わなくちゃ)




私、白石さんに伝えたいことがあった。


顔は見えないから、今なら言える気がした。








『私は…皆が好きです』






だけど、







『白石さんは、もっともっと好きです』






こんな感情、皆には抱かない。









あなただけなんだよ。












『白石さんは私にとって…一番、特別ですから…』








言ってしまってからこの状況を思い出して、羞恥心から今すぐにでも離れたくなる。




『!』




その思いとは裏腹に、ギューッと強く抱きしめられた。


今までの力とは比べものにならなくて、少し痛いくらいに。




(く、苦しい…です)




白石さんの体はすごい逸れてて、もうドキドキどころじゃない。




白「…ありがとう」




「俺も一番好き」と耳元で囁かれて、ドキンと大きくなる鼓動。


カァァと、これ以上真っ赤にならないんじゃないかと言うくらい、顔が真っ赤に染まってゆく。



やがてゆっくりと腕が解かれ、私もそっと顔を上げた。


白石さんは嬉しそうに微笑んでいて、また顔に熱が集まる。




『私が言った言葉、いつか白石さんに伝えます。だから…待ってて下さい』






゙愛してる゙よりも、今は






゙好ぎだから。









白石さんは目を丸くしてから、ふわっと口元を緩めた。




白「じゃあ、競争やなぁ」



『ふぇ?』



白「どっちが先に言うか。まぁ、俺が勝つやろうけど」




少しだけ口角を吊り上げた白石さんを見て、何だか対抗心が芽生える。




『わ、私が先に言います!』



白「ほんまに?」



『本当です…っ』




目を細めて笑う姿に、鼓動は高鳴るばかり。



こんなに鼓動がうるさいのも、顔が赤くなるのも、






全部全部…白石さんだから。








ひらりと、桜の花弁が目の前を通り過ぎる。



そっと隣を盗み見ると、白石さんも顔をこちらに向けていて。




「来年は二人で来よか」と優しい声音が降りて来て、私はゆっくりと頷く。




柔らかい笑顔にまた胸が打たれつつ。
隣同士だった手に、遠慮がちにそっと触れた。
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