beloved

□桜の下で 後編
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菊「きっくまるビ〜ム!」



謙「こんな遅いボール、浪速のスピードスターには当たらんでぇ!」



紅「………」



『………』




二人が元の場所に戻ってきた時、視界に飛び込んできたのは…ドッジボールで白熱する皆の姿だった。




紅「な、仲ええな…」



『は、はい』




その様を見ながら、呆気に取られる紅葉とりん。




金「あ、りんー紅葉!一緒にやろーや!」




ぴょんぴょん跳ねる金太郎は、こちらに気付き手招きする。




『うん!やりましょ、紅葉さん』



紅「せやな、やろか!」




顔を見合わせて頷き、二人はその中に入っていった。





















一方…
その白熱した戦いに加わらず、平和に過ごしている者もいた。




千「お前は人懐こかねー」




何処からか現れた野良猫。

千歳がその顎を撫でると、「みゃあ」と鳴き気持ち良さそうに目を細める。



その近くで白石は桜の木を背に腰掛け、投げられるボールを静かに目で追っていた。




白「(…りんちゃんに当てたら許さんで)」




ドッジボール本来のルールも忘れ、そんな過保護発言を心の中で呟く。


白石の膝に擦り寄っていた子猫も、意気なり空気が変わったのでビクッと震えた。



りんが満面の笑顔で仲間とハイタッチをするのを見てしまい、更にその空気は黒いものとなる。




白「(またや…)」




今日は、自分でも驚くくらいに嫉妬してると思う。


彼女が他の男に笑い掛ける度に胸が騒ついて、苛々する。




信じてない訳じゃない。


優しいりんのことだから、きっと皆が困ってしまうからと、あんな風に告白をしただけだろう。



けれど、その優しさや態度があまりにも平等だから…不安になる。






こんなに好きなのは、もしかしたら自分だけかもしれない。










跡「…何シケた面してんだ?」



白「跡部、」




スッと横から顔を覗かせた跡部。


先程のこともあり、白石は無意識のうちに眉を寄せる。




跡「何だ?まだ気にしてんのかよ」




跡部の方は特に気にした感じもなく、静かに隣に腰を下ろした。


それを見届け、二人の視線は同時に一ヶ所に集中する。




菊「りん、そっち行ったよ!」



『はい!』




楽しそうに笑い、ボールを投げるりん。

その姿は無邪気そのものだった。




白「(ふ…かわええ)」




自然と頬が緩み、目を細める。


そんな白石を横目で見て、跡部は何も言わず前を見つめた。




跡「…あんな言葉嬉しくも何ともねぇよ」



白「え?」



跡「りんはずっとお前を気にしてたからな。
…無理矢理言わせたようなもんだぜ」




白石は少し驚いて跡部を見ると、同じように目を細め賑やかな声がする方を見つめていた。


言葉とは裏腹に、その表情は悔しそうに見える。




白「…まだ好きなん?」




そう問えば、フッと笑われて。

「簡単じゃねぇな」と低く呟き、白石と視線を合わせた。




白「堪忍な、りんちゃんは俺の彼女やから」



跡「…そうかよ。ならちゃんと捉まえとけ」



白「心配おおきに。…そのつもりや」




二人の視線がぶつかり、バチバチと火花が散り出す。




千「(二人共燃えとるばいね…)」




ニャーニャー鳴く猫を抱き、千歳は宥めるようにその頭を撫でた。






















『(白石さんと跡部さん…どうしたのかな)』




まさか自分のことで揉めてるとは思わず、睨み合う二人を心配そうに伺うりん。




日「(…隙だらけだ)」




相手コートの日吉は、ぼおっと遠くを見つめるりんを見て思った。


手に持つボールを見て一瞬戸惑い、くるっと投げる方向を変えた。




ユ「何や?今のはチャンスやったで」



日「………」



忍「…りんちゃんには当てれんよな」



日「……はい」




肩に手を置いてフォローする忍足に、日吉は小さく頷く。


実は、日吉のように思う者も何人かいた。
りんは意外?と反射神経が良く、ボールを投げるスピードも速い。


けれど、何故か彼女を見ると当てることが出来ないのだ。




小「ユウく〜ん、はいパス!」



ユ「おー小春ぅ!」




外野の小春にボールを渡され、ユウジは投げる体勢を取る。

と、手がするりと滑り…思ったより高く投げてしまった。




ユ「…っりん、危ない!!」



『!ぇ、』




ボールはりんの頭上目がけて直進し、振り向いた瞬間…ボフッと鈍い音が響いた。




『………』




そのまま後ろに倒れる。


意識がくらくらする中、皆が集まってくるのがわかった。

飛び交う声は、誰のものなのかわからない。



だけど、




「…りんちゃん!」




あの人の声だけ、確かに耳に届いた。
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