beloved

□桜の下で 後編
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*りんside*



ジロちゃんとがっくんと一緒に、桜並木の中を散策していた。


まるで何処までも続きそうなくらい、一面が淡い桜色だった。




芥「うわ〜見て見て、超綺麗だC!」



岳「ジロー、あんま上ばっか見てっと転ぶぞ」



芥「むーがっくんこそ!」




少し前を歩く二人を見つめ、ふと上を見上げる。




さっき…白石さん何言おうとしてたのかな。



ちゃんと聞いてあげれば良かった。





掴まれた腕、すごく力が込められてて。
かと思ったら、すぐに離された。






あの時なんて言えば、白石さんにあんな顔をさせないで済んだの?











岳「りん?」



芥「どーしたの?」




前を歩いていた二人が足を止めて、心配そうに私を見ていた。


いけないとふるふる首を振り、『何でもないよ!』と笑顔を向ける。




『桜、本当に綺麗だね』



芥「うん!満開だCー」



岳「来て良かったな」



『うん!』




今は、お花見を楽しまなくちゃ。


そう思った矢先、「やっと見付けた!」と後ろから声が聞こえた。




『紅葉さんっ』



紅「ちょっと話す時間ええ?あーそこの二人、りんちゃん借りてくな」



芥「えー!」



岳「意気なりだな…」




紅葉さんはニコッと微笑むと、私の手を取りどこかに向かって歩きだした。

状況についていけないまま、慌ててその後を追う。



暫く歩き、突然足を止め紅葉さんはくるっと振り向いた。




紅「ここならええやろ」



『?えと、』




そこは、私達が始めにいた場所から随分離れていて。


花見客も少なく、静かな雰囲気だった。




紅「さ、りんちゃんのモヤモヤ聞いたるで!」



『ふぇ、』



紅「蔵ノ介とのこと。何か不安なこととかあるんやない?」




そう言われて、チクリと少し胸が痛くなった。


「うちじゃ頼りない?」と少し苦笑気味に聞かれて、勢い良く頭を横に振る。




『すごく、聞いて欲しいことあります…っ』




そう勇気を出して言えば、紅葉さんは安心したように笑って、近くの桜の木の下に腰を下ろした。


私はそれに合わせて正座の姿勢をする。




『…私が悪いんです。白石さんを怒らせちゃったから』



紅「怒らせた?」



『はい、遊びでもあんなこと言っちゃって…』




愛してるなんて、軽々言うことじゃないのに。




紅「…きっとりんちゃんには怒ってないで」




驚いて顔を上げると、紅葉さんは困ったように笑っていた。




紅「拗ねてる、に近いかな?」



『拗ねてる?』



紅「うん。蔵はな、不安なんや」




不安?


紅葉さんはフッと小さく笑うと、前を向いて言葉を続ける。




紅「りんちゃんって、こう…誰にでも同じ態度やから、自分のことほんまに好きなんかなって思うんやない?」



『!そんな…私は白石さんがっ』



紅「はは、大丈夫、わかっとるよ。やけどな…りんちゃんは言葉足らずや」




゙足りない゙その言葉が、胸の奥で引っ掛かった。


白石さんがあの時見せた顔が頭を過る。




紅「もし逆の立場やったら、りんちゃんはなんて言ってほしい?言い訳してほしい?」




もし、白石さんが他の女の子に愛してるなんて言ってたら。


冗談だってわかったら、もっと別の…私が一番なんだって思える、そういう言葉がほしい。




もしかして白石さんも、それを望んでたのかな。





でもでも、




『し、白石さんが他の子にそんなこと言ってたら、私どうしたら……』



紅「わ!りんちゃん落ち着いて、例えばの話やから!」



『うう…』




例えでも想像しただけで、すごく悲しくなる。


もしその人がダイナマイトボディだったらなんて考えてしまって、すっかり落ち込んでしまった。




紅「大丈夫、あいつはりんちゃんが好きで好きでしゃーないんやから」




紅葉さんの言葉を聞いて、溢れそうだった涙も引っ込んでしまった。


「もう病気やないかって言うくらい」と、呆れたように笑う。




紅「高校もな、始めは推薦で行こうとしてたみたいやで?」



『え、そうなんですか?』



紅「うん。そこな、大学は大阪と東京にあるらしくて…蔵、最後まで悩んでたで」




東京って…


もしかして、




紅「まぁ、テニスもあったし、結局は皆と同じ高校選んだんやけどな。大学は東京にするらしいで」




大学なんて、まだ3年くらい先のことなのに…


う、自惚れて、いいのかな。




紅「自惚れてええやろ」



『!』




言葉を見透かされて、テレパシー!?と目を見開く。


思いっきり顔に出てたなんて気付かなくて、ははっと可笑しそうに笑う紅葉さん。




紅「りんちゃんはもっと自惚れてええんよ。あんな溺愛されとんねんから」




カァァと一気に顔が赤くなった時、「さ、戻ろか」と紅葉さんは立ち上がる。




『…私、ちゃんと伝えます』




白石さんを不安にさせないように。


ちゃんと…言わなくちゃ。




『紅葉さん、ありがとう』




微笑んでお礼を言うと、頑張ってなと微笑み返してくれた。
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