beloved

□桜の下で 後編
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謙「………」




謙也は、先程から恐ろしいくらいに普通の白石を観察していた。



こうしている理由は…数分前に見た黒いオーラにある。

あれは尋常ではなかった。
この世の終わりかと思ったものだ。



原因は一つ。桜満開の中気分も高鳴ってきた直後に、自分の彼女が他の男を愛してますと叫んでいたのだ。



りんは顔を青くして、『こ、これは遊びで…!』と必死に否定したのだが、相手の男は白石を見てフッと不敵な笑みを浮かべた。


あの勝ち誇った顔が、白石のどす黒いオーラの引き金となった。



カーンと何処からかゴングが鳴った気がして、謙也は冷や汗を流したのだが、







金「白石ぃーあれも食べたい!」



白「金ちゃん、今皿に乗っとるのが食べ終わってからにし」




あれもあれもと駄々を捏ねる金太郎に対し、保護者っぷりを発揮している。


その表情は、さっきまでの彼とはまるで別人だった。




謙「なぁ紅葉、あいつ何であんなに普通なん?」



紅「え?あいつ?」



謙「白石に決まっとるやろ。さっきまであんな黒かったのに(背後が)」




謙也は小声で言いつつ、顎で白石を指す。


隣に座る紅葉はその視線の先を追い、ああと納得したように頷いた。




紅「普通に見えるん?」



謙「は、」



紅「蔵、結構子供やで?」




紅葉の言葉に、謙也はもう一度白石を見た。


昔からの親友だけに、謙也は知ってるつもりだ。
何事にも冷静で一歩引いて見れる彼は、感情よりもいつも理性を優先させている。




だけど、りんに対しては違った。



拗ねたり、いじけたり、さっきみたいに感情を剥き出しにしたり…白石をそんな風に出来るのは、きっとたった一人だけ。




謙「(早よどうにかして欲しいわ)」




そうしないとまた自分の寿命が縮まる…と、謙也は深い溜め息を吐いた。














一方、りんはというと…




リョ「…りん、手元」



『へ?あ、』




リョーマに言われハッとして手元に視線を戻し、お茶を注いでいた動きを慌てて止めた。




『あ、ありがと…』



リョ「…どうかした?」



『ううん、何でもないよっ』




『考えごとしちゃって』と笑って誤魔化したが、リョーマには既にばれている気もした。



どんなに違うことをしていても、やっぱり視線は同じところに行ってしまう。




『(…なんて思ったかな)』




遊びでも、あんな大胆に告白をしてしまって。


だけど白石に変わった様子はなく、意識してるのは自分だけなのかと恥ずかしくなる。


それに、少しだけ…寂しい。




『(寂しい…?)』




自分で思ったことに疑問を感じて、首を傾げた。


ふと、今朝家で焼いて来た苺のタルトが、まだワンホール残ってることに気付く。



氷帝や青学の皆には既に運んでいたので、残すとこはあと……




『(…よ、よしっ)』




ぐっと服の裾を掴み、りんは歩み寄って行った。




金「ん?りんやんかー!」




その存在にいち早く気付いたのは金太郎で、りんに向かって大きく手を振る。


皆もそれに合わせて振り返り、白石も顔の向きを変えた。




『あの、これ良かったら、皆さんで召し上がって下さい』




コトリと、ケーキを下に置く。




小「あら〜美味しそうやないのぉ」



千「りんちゃんが作ったと?」



『はい!お口に合えばいいんですけど…』




金太郎は素早く手に取り、瞬時の早さでペロリと感触してしまった。




金「めっちゃくちゃ美味いでぇ!!」



『!本当に?』



金「ほんまや!」




ニッと笑う金太郎を見て、『良かったぁ』とりんは思わず口元を綻ばせる。



こんな子が傍にいてくれたら…と密かに思った者がいたが、そんな考えが白石にバレでもしたらと怯え、頭を勢い良く振った。




白「小石川、どうかしたん?」



健「あ、いや…別にっ」



『あの、今日財前さんは?』




この場に財前がいないことに気付き、りんは問い掛ける。




紅「光なら、面倒臭いって言ってこんかったで」



ユ「ほんま協調性のあらへん奴やな」



『そうなんですか…』




いつも苛め…からかわれているので、ほっとしたような残念なような複雑な気持ちになった。




金「なぁなぁ、りんって跡部のこと愛してるん??」




ぶっはぁと、口に含んでいた飲み物を勢い良く吹き出す皆。


白石の眉が微かに動いたのを、謙也は見逃さなかった。




謙「ちょ、金ちゃん、ストレートに…」



金「?やってさっき言うてたやん。違うん?」



『あ、あれは…っ』




顔を赤くして慌てるりんは、自然と白石と目が合った。


怒ってるとか、悲しんでるとか、そんな様子じゃなく……ただ答えを求めるように、自分を見据えている。




『あれは遊びで、言わなきゃいけないから仕方がなくて、』




途中で何かが引っ掛かった。

これじゃ、言い訳をしてるようにしか聞こえない。




白「………」




白石は何も言わず、ただ目を伏せた。


その姿にズキンと胸が痛む。




彼は…どんな答えを期待してたのだろう。







芥「りんちゃーん!こっちで一緒に遊ぼーよ」



『ジロちゃん、』




遠くから自分を呼ぶジローの声が響く。




『えと、それじゃあ失礼します』



金「えーりん行っちゃうん?」



小「金太郎さん、りんちゃんは人気者なんよ。また後で遊んで貰えばええやないの」




りんはペコリと小さくお辞儀をして去ろうとしたが、その片腕がふと掴まれた。


振り返った瞬間、瞳がバチリと合わさる。




『……しら…』




その顔を見た瞬間、ドクンと大きく鼓動が鳴った。



何処か寂しそうな、熱を帯びた瞳で自分を見つめてくる。


そんな白石は、初めてで。




『…あの、』




白石の口元が僅かに開いた時、再び自分の名を呼ぶ声が聞こえた。




白「…ごめんな」




腕を掴んでいた力を緩め、フッと笑われる。

続きを聞こうとしたが、その顔を見れば聞けなかった。




『じゃあ、また…』




小さく頭を下げて、りんは背中を向け歩きだした。






紅「……行かんでって言えばええのに」




二人のやり取りを見ていた紅葉は、ふと口から零れてしまった。


絶対にそう言うと思ったから。







白「俺もそう思うわ」




その笑顔は、何処か弱々しかった。
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