beloved

□my darling
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それは、りんが待ち焦がれていた"今日"から、3日前のことー…




越前家に居候中の従姉、菜々子の部屋にりんは訪れていた。










『…っ菜々子さん、こうですか?』



菜「そうそう、そのまま瞼挟まないように気を付けて、」



『!ひぇ、は、挟む…(痛そうっ)』



菜「わわ…っりんちゃんそんなに震えたら逆に危ないわよ…!」




部屋に置かれた丸テーブルの前に正座していたりんは、かれこれ1時間も鏡と睨めっこをしている。


その向かいに座っていた菜々子は、ぷるぷるとビューラーを持つ手が震えているのを見兼ねて、慌てて止めに入った。




菜「こうやって、薄目を開けて挟むとやりやすいのよ」



『な、なるほど…です、』




怖がりながらも菜々子の真似をしてみると、元々くるんと上向きだったりんの睫毛はよりパッチリと仕上がった。




菜「うん、可愛い。あとは色付きリップクリームと…あ!グロスも付けましょ」




りんの形の良い唇に、菜々子は薄くグロスを重ねていく。

恐る恐る鏡を見たりんは、映った自分の姿に『わぁ…』と声を溢していた。




『このグロス?甘い匂いがして美味しそう』



菜「ふふ。これはね、"恋のお守り"って言われてるグロスなの。良かったらりんちゃんにあげるわ」



『えっ?で、でも…』



菜「良いのよ。色もりんちゃんにすごい似合ってるから」




桜色の唇はいつもよりぷっくらして見えて、気持ちを高揚させるには十分だった。


『ありがとう、菜々子さんっ』と嬉しそうに笑うりんにつられ、菜々子も微笑み返したのだった。













ーーーこうして、遂に向かえた当日。





新幹線から電車を乗り継ぎ、ホームを歩くりんは自然と早足になっていく。


今着いたことを連絡すると、<了解><改札の前で待っとる>とすぐさま返事がきて、続けて送られたたこ焼きスタンプに思わず口元が緩んだ。




『(早く……早く、)』




会いたい気持ちが募らせながら、たったっと急いで階段を降りる。




改札口で「りんちゃん!」と嬉しそうに笑う姿を見付けた瞬間、胸の奥がきゅうっと鳴いたのがわかった。



高ぶる気持ちが抑えられなくなったりんは、抱き付くようにその胸に飛び込んだ。





『(…っ白石さんだ)』




存在を確かめるようにぎゅっと回した腕に力を入れると、トクントクンと自分のものではない鼓動を感じて。


そっと顔を上げたりんは、照れたように優しく微笑む白石と目が合った。




白「何や?そんなに会いたかったん?」



『!///』




途端にカァァアと頬が熱くなっていき、慌てて周りを見渡すりん。

幸いにも自分達以外に人はいなかったが、(※抱き合ってる間にいなくなっただけ)自分の行動を今更恥ずかしく思った。




『えと、ごめんなさい…白石さんのこと見付けたら嬉しくなっちゃって、』




えへへと笑いながら離れようとするも、今度はりんが強く抱き締められる番だった。


さっきよりも体がぴったり密着したことにより、りんの心臓はドッキドッキと急速に高鳴るばかり。

『し、白石さん…?』と何とか尋ねれば、「っっりんちゃんが嬉しいことするから」と更に力が込められる。





白「ほんまに会いたかったー……」




甘くて、何処か切ない声音が、心からそう思っていることを伝えてくれる。


りんは愛しさのあまり、『…私もですっ』とぎゅうっと抱き締め返していた。




こうして、(ツッコミ不在の為)心ゆくまでお互いを充電し合った2人は、仲良く手を繋いで歩き出した。




『白石さん、迎えに来てくれてありがとうございます』



白「いや、寧ろここまでしか来れへんくてごめんな。ほんまは新幹線まで迎えに行きたかったんやけど…」



『いえ…!気にしないで下さい。白石さんは文化祭の準備もありますし、』




申し訳なさそうに謝る白石に、慌てて手を横に振るりん。
「午後は部活の出し物に参加せなアカンけど、それまで一緒に回ろな」と言ってくれたので、『はいっ』と笑顔で頷いた。




白「…ん、今日のりんちゃん雰囲気ちゃうな」



『!(気付いてくれたっ)』



白「いつもよりキラキラしとるっちゅーか」




じっと真っ直ぐに顔を見つめられてしまえば、途端に緊張してしまう。


その視線に耐えられなくなったりんは下を向き、『え、えと…』と言葉を探した。




『実は、少しだけメイクしてるんです。菜々子さんに教えて貰って、』



白「え、そうなん?せやからいつもより大人っぽいんやな……あ、髪型もちゃう」



『!はい』




コクコクと顔を縦に振るりんは、編み込みをした髪を後ろでまとめ、ハーフアップをしていた。


もこもこの上着に細身のプリーツスカート、ショートブーツを合わせたスタイリングは先日雪と選んだものだった。




『(可愛いって言ってくれるかな)』




メイクも、髪型も、服装も…全ての努力は白石に褒めて欲しいから。


期待と不安が混ざった表情で白石を見上げたりんは、彼が無言で携帯を構えていることに気付いた。




『??あの、白石さん…?』



白「(は…!アカン、無意識に手が…)いや、りんちゃんは何してもかわええなぁ思うて、な」



『!?ふぇ///』




(※盗撮していたにも関わらず)微かに顔を赤く染める白石に、りんの心臓は再びきゅんと鳴いた。


「可愛い」と言ってくれたことが嬉しくて、勝手に緩んでいく頬を両手で押さえ込む。
そんなりんの仕草を彼が見逃す筈もなく……




白「〜〜っもーこれ以上かわええことするのやめーや」



『?な、何にもしてないですよ…っ』



白「りんちゃんに会うてからずっと心臓バクバクやで?……俺、早死にしてまうかも」



『(ええ…!?)』




苦しそうにぐっと胸を押さえる白石に、あわあわと慌て出すりん。
"早死に"という単語がショックで思わず涙目になりかけている間に、すっと白石の顔が降りてきて。



ちゅ、と額に唇が触れた感触に、りんは驚いて立ち止まった。




白「…ふっほんまにかわええなぁ、りんちゃんは」



『!?///ひ、酷いです…からかったんですか??』



白「せやかて、めっちゃ必死なんやもん」




「堪忍な」と耳元で謝られても、またりんがドキドキさせられるだけ。



その後、ムスッと頬を膨らませていればまた同じような事が起こり、りんは納得出来ぬまま目的地にたどり着いたのだったー…


















***




四天宝寺の文化祭は中等部と合同開催の為、今年も大きな賑わいを見せていた。



りんは昨年同様、マグロの被り物をした男子生徒にパンフレットを渡されて、わーと目を輝かせる。


そんなマグロに白石が冷たい視線を送り、怯えさせているとも知らずに……
お祭りのように盛り上がる校舎に入ると、りんの体はワクワクと弾んでいた。




『白石さん、何処から回りますか?あ、白石さんのクラスって何やってるんだろ、』




楽しそうにパンフレットを眺めるりんに、白石の瞳は柔らかく緩んでいく。




白「(まーた真剣な顔しとる)」




自分の些細な仕草や表情が、どんなに白石の心を掻き乱しているかなんて…気付くこともないのだろう。


今も必死に探すりんが愛らしくて、人目を憚らず抱き締めてしまいたいのに。




白「(アカン、我慢や我慢……)」




そんなことをしたらまた怒らせてしまうに違いない。(←しかし全く反省してない)

恥ずかしがりながらもプンプン怒る姿を想像していると、『…白石さん?』とりんが不安そうに覗き込んでいた。




白「あ、堪忍な。俺のクラスはお化け屋敷やっとるけど、行ってみる?」



『!お、お化け?そしたらいいです…』



白「ははっ言うと思った。ほな適当にぶらぶらして、気になるとこあったら入ろか」




白石はりんが頷いたのを確認すると、再び小さな手を取って賑やかな校内を歩き出す。


りんは白石のクラスに行けないことを残念に思いながら、ふとあることが気になった。




『白石さんも、お化けになったんですか?』



白「ん?うん、昨日クラスの出し物に参加した時にな。めっちゃ怖いドラキュラやったで」




自画自賛する白石を見上げながら、その姿を想像してみるりん。

襟を立てたマントを着て、鋭い牙を生やした白石ー…




『(絶対、絶対かっこいい///)』



白「(?あれ、顔赤くなっとる?)」




てっきりビクッと体を震わせて怖がると思っていたのに。(←確信犯)


何故か恥ずかしがるりんを不思議に思っていると、すれ違い様に彼女に見惚れる男子生徒に気付いてしまった。




白「………………」




ぎゅっと握った手に力を入れてりんを引き寄せれば、その視線は残念そうに逸れていく。


白石がまるで狩人のように目を光らせている中、りんはというと……手元に視線を移して、ポッと頬を赤く染めていた。




『(…白石さん、今日ずっと手握ってくれる)』




ここに来る時も、着いてからも、手を繋いでいることが嬉しい。


大きな手にすっぽり包まれると安心出来るので、この温かさがりんは好きだった。




真逆のオーラを纏う美男美女カップルは、周囲から「「「(((何なんだろう…)))」」」と思われている事など知る由もないのだった。
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