beloved

□優しい嘘
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<白石さんへ。

突然でごめんなさい。いつも上手く伝えられないので、手紙を書いてみました。


最近、毎日白石さんのことを考えていることに気付きました。
授業中も今何の授業をしてるのかな?とか、早く会いたいなぁと思ってしまいます。(要先生に怒られたこともありました…)
廊下でたまにすれ違うことが嬉しかったり、練習中も声が聞こえただけで幸せな気持ちになれます。

白石さんと同じ空間にいれることが、とてもとても嬉しいです。


この間、白石さんに"触りたい"って言ったこと…。もし困らせてしまったならごめんなさい。
今のままで十分幸せだって思ってます。でも、白石さんといるとどんどん欲張りになってしまうんです。
この合宿が終わって、また距離が離れてしまったとしても、この気持ちはずーっと変わりません。




白石さんが、大好き。>


















白「越前くん、ちょっと…話さへんか?」




静かで、重みのある白石の声が大きく響き渡る。
リョーマは真っ直ぐに見据えてくる瞳から目を逸らさずに、ゆっくりと頷いた。




白「…その手紙って、りんちゃんから?」




それを聞いて何かを察したリョーマは、「…ああ、はい」ともう一度頷く。




リョ「さっき突然渡されて。白石さんも貰ったんスか?」



白「………うん」




"も"と言うのがついでのように感じて、白石は無意識の内に眉根を寄せていた。


その反応で"予想"から"確信"へと変わり、リョーマは「見ていいっスよ」と手紙を渡した。
予想外の行動だと言わんばかりに白石の目は大きく見開かれ、再びリョーマを疑うように見つめる。




白「流石に、人様の手紙を見るのは気がひけるんやけど…」



リョ「じゃあ俺が開けますよ」




返事を待たずに躊躇いなく封筒を開けるリョーマ。
ペラリと中の便箋を開き、それを白石の前にかざして見せた。




白「………………これは、絵?」



リョ「……絵っス」




そこには、一目でリョーマだとわかる男の絵が描かれていた。


やけに背景がキラキラと輝き、少々美化されているもの……そのクオリティの高さには驚かざるを得ない。

「う、上手いなぁ…」と白石も思わず素直な感想を述べてしまうほどだった。




リョ「これがどうかしたんスか?」



白「いや…俺が勘違いしてたみたいや。ごめんな」




白石の誤解も解けたらしい。敵視するような鋭い視線が消えて、リョーマも安堵した。
……のも束の間、「…もう一個聞いてええか?」と白石の質問はまだ続いていた。




白「…りんちゃんのファーストキスの相手って知っとる?」



リョ「!え、」




この質問は予期していなかったので、リョーマの声も思わず上擦る。


だが、白石の表情からして真剣に問うているのだろう。
「…それって、この間のクイズ大会のことっスか?」と、リョーマは念のため確認しておくことにした。




白「うん。あの先生(水城)の言うことやから、信用せん方がええ思うんやけど」



リョ「…………」




確かに水城要のことはリョーマも苦手であるが、ここまで胡散臭く思われているとは…と少しだけ同情してしまう。




リョ「…多分、カルピンのことだと思うんスけど」



白「えっ猫ってカウントされるん!?」



リョ「さぁ…でも、俺が知ってるのはそのくらいです」




安心からか、白石の身体はへなへなと力を失くしていく。


もしかしたらその相手は……と疑ってしまった自分が情けない。
とは言っても、いつもりんに接近出来るカルピンを少々…かなり羨ましいと思ってしまうのも事実で。



ふわふわの毛を持つ猫とりんがキスをする姿を想像し、悶々とする白石に「…あの、もう良いっスか」とリョーマは声を掛けた。




白「っああ、引き止めて堪忍な。おやすみ」



リョ「はい」




歩き出した白石の背中を、リョーマは静かに見据える。
再び封筒を取り出して、先程は"見せなかった"方の便箋を開いた。




"お兄ちゃんへ"と綴られた文字は、自分が昔から知る妹の字だ。






リョ「…………馬鹿りん」




ぼそりと呟いた声は自分にしか聞こえない。


恥ずかしそうに笑って手紙を渡しに来た顔を思い出しながら、リョーマはそれをポケットに戻した。

















































***




雲一つない青空の下ー…中庭では、輪になって腰掛ける男子高校生達の姿があった。


彼等の視線は同じところにあり、"それ"が開けられた瞬間、パアッとわかりやすく表情が華やいでいった。




菊「おっいしそ〜〜!!」



桃「すっげーな!りん1人で作ったのか??」



『はいっ』




菊丸と桃城に一斉に褒められたりんは、嬉しそうにはにかむ。


見るからに美味しそうなおにぎりやおかずを目の前にして、育ち盛りの彼等が食欲を我慢出来る筈もなく…
「「「「いっただきまーす!!」」」と皆は元気良く手を合わせた。




河「っうん。すごく美味しいよ」



不「この卵焼きの味付け、好きだな」



乾「!以前食べたものよりも一段と美味しさが上がってる気が…」



海「………うまい」



桃「(箸が)止まらねーな、止まらねーよ!……!?ゴホゴホ!」



『!先輩大丈夫ですか!?』




口々に感想を溢す彼等の中で、一際勢い良く頬張っていた桃城が喉を詰まらせてしまった。

りんは慌ててその背中をさすり、冷たい麦茶をさっと差し出す。


ついでに皆のコップの中身も確認していた、その時……ギョッとする光景が飛び込んできた。




『!き、菊丸先輩、どうしたんですか…!?』



菊「………………へ??」




食べ掛けのおにぎりを両手で持ち、ツーと綺麗な涙を流す菊丸。
心配そうに自分を見つめるりんによって、泣いているという事実に彼は漸く気付いた。




菊「っいや、なんかさ……りんの味だあと思ったら嬉しくなって、」



『…先輩、』




自分が作ったものを、こんなに喜んで貰えるなんて。


思わずじわりと目に涙を溜めてしまうりんに、「何でりんも泣くんだよ〜」と菊丸が笑う。
そんな2人を、穏やかな顔で皆は見つめていた。



その内の1人であるリョーマも、(食べ慣れているものの)妹の手料理を味わって食べていると、『お兄ちゃん、食べてる?』とりんが自分を見ていた。




リョ「うん」



『いっぱい食べてねっお兄ちゃんが好きな卵焼きも入れたよ』



リョ「うん。……あのさ、りん」



『?』




少し言いにくそうな素振りを見せるリョーマを、不思議そうに見つめるりん。






リョ「(俺が言うべきなのか…?)」






"あの人と一緒に居た方がいいと思う"




昨夜、白石と話した内容を思い出して、その表情や言葉がリョーマの頭の中を駆け巡っていく。


りんは白石のことを、青学や自分といることを快く感じてくれている……と思っているだろうが、そうではない。
白石の言葉を信じ切っているりんは、きっとそのことに気付けないだろう。




だが……人目を盗んでキスを迫ったり、ベッドに潜り込んだり、怒りに任せてりんを連れて行ったり。

合宿に来てから、白石の強引な言動を幾度も目の当たりにしている。




このまま彼と付き合っていくことは、りんにとって本当に幸せなのだろうか…?










『?お兄ちゃん、どうしたの?』



リョ「……っ「手塚部長!」




「お疲れっス!」ともぐもぐ口を動かしながらいち早くその存在に気付いた桃城。


腰掛けた手塚は、恨めしそうに自分を見つめてくるリョーマに「……何だ、越前」と問い掛けた。




リョ「……別に何でもないっス」



手「?そうか」



『部長会議お疲れ様です』



手「ああ、すまない」




おかずをお皿に取り分け、笑顔で渡すりんに内心ほわっと癒される手塚だった。




大「手塚、部長会議では何を話したんだい?」



手「ああ。合宿も残り僅かだからな。大会に選抜されなかったメンバーへのフォロー等を話し合っていた」



海「選抜メンバーって、最終日に発表されるんスか?」



手「そのようだな」




日々の辛い練習や勉学もあって皆忘れ掛けていたが(←極秘)、この合宿の本来の目的は、世界大会への切符を掴む為にあるのだ。




大「ここまで来たら、全員選ばれないとな」



桃「大石先輩の言う通りっスよ!青学全員でイギリスとかワクワクするぜ〜」



不「……桃、別の目的があるように感じるのは気のせいかな」




確かに楽しそう…と思ってしまった思考を消し去るように、りんは慌てて首を横に振る。


皆がイギリスについて語り始めた中、「そういえば、」と隣に座る不二が声を落として話し掛けてきた。




不「北園(寿葉)さん…あれから大丈夫?」




先日、りんとスーパーの帰り道に、寿葉と忍足の大事な現場を目撃してしまった不二。


りんは顔を曇らせ、『実は、私もあれからちゃんと話せてなくて…』と告げる。




菊「あ、そーいえば!北園さん?ってさ、前に青学に来た子だよね?」




何て言えば…と励ましの言葉を懸命に考えていたりんは、にゅっと話に加わってきた菊丸に反応するのが遅れてしまった。




『えっ青学に…ですか?』



菊「そうそう!確か、おチビにアピールしてたような…なぁ?乾、桃っ」




ガツガツとおにぎりを頬張っていた桃城は、「そうらったひがするっス!」とご飯粒を飛ばしながら答える。
乾も、「ああ、しっかりデータは取っているからね」と怪しげに笑いながらノートを掲げた。



全く悪気がないとわかっていても、その無邪気さは時に残酷である。
「英二……」と不二は遠い目をし、予想通り混乱するりんに視線を変えた。




不「でも、全国大会前のことだからね。それに偵察に来てただけだったんでしょ?」



大「ああ、思い出した!そうか、北園さんってあの時の子かぁ」



『…皆さんご存知なんですか?』




不二が必死なフォローを入れると、ポンッと自分の手を叩いて思い出した大石。


皆の話によると、寿葉が北海道の学校にいた時に、マネージャーとして青学に偵察に来ていたらしい。
そして……リョーマにラブアピール(※重要)をしていたとか。




桃「手作りのお菓子とか貰ってたよな?越前。ったく生意気だぜー」



『そ、そうなの?お兄ちゃんっ』



リョ「(やっぱりこっちに来た……)」




盛り上がる先輩達を見て、どうせ最後は自分にやってくるのだろうと思っていたリョーマ。

まるで餌を待つ飼い犬のように、じっと真っ直ぐに見つめてくるりんに何故だか罪悪感が芽生えた。




リョ「……そんな人いたっけ」



河「越前、忘れちゃったのか?」



桃「いや〜こいつわざと忘れたフリしてるだけっスよ!結構可愛い子だって話してたし」



『!?』



リョ「!先輩達が勝手に話してただけじゃないっスか…!」




思わず反論してしまったことで、先程の知らぬフリが無駄になってしまった。


リョーマはハッと気付いて顔の向きを変えるが、りんの表情を見た時、既に手遅れなことを悟った。




不「………ごめんね、越前」



リョ「………………」




3人の代わりに謝罪する不二に、リョーマは頷くことしか出来ないのだった。
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