beloved

□甘いあまい。
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*りんside*




白「………りんちゃん?」



『はい』



白「そんなに見られとると、食べにくいんやけど……」



『!』




昼休み。中庭にある大きな木の下で、白石さんとお弁当を広げていた。


いつものように白石さんの教室にお弁当を持って行った時、一緒に食べようと誘ってくれた。
天気も良いこともあって、中庭に来たのだけれど……無意識の内に白石さんをじーっと見てしまっていたらしい。



気まずそうに視線を逸らす白石さんを見て、『ご、ごごごめんなさい…っ』と慌てて頭を下げた。




白「何か気になるん?」



『いえ…!』



白「ならええけど…何かあるなら、遠慮せんと何でも言うてや?」



『はい、ありがとうございます…』




そんな風に言ってくれる白石さんに、何だか居たたまれなくなって俯いた。



でも、絶対に言えない。だって、だって………





『(白石さんって、"そういう"経験ありますか?なんて……っ)』




「ある」って言われたらどうしよう…と、昨日からそのことばかり考えてしまって。


こんないやらしいこと考えてるなんて知られたら、絶対に引かれてしまう自信がある。



煩悩を振り払わなきゃとフルフルと首を左右に振っていると、「この卵焼き美味いなぁ」と白石さんが口にした。




『あ…本当ですか?』



白「うん。この間のと味付けがちゃう気がする」



『今回のはちょっと甘めにしてみたんです』



白「やっぱりそうなん?どっちも好きやけど、今日のはめっちゃ好きかも」



『!本当ですか?じゃあ、これからその味付けにしますねっ』




嬉しくて元気良く答えてしまってから、ハッと我に返った。
「ほんま?おおきに」と白石さんが嬉しそうに微笑むから、カァアアと顔に熱が集まる。




『え、えと、今日はカボチャサラダも入れてみたんです///』



白「それもめっちゃ美味かったわ。ほんのり甘くて、食べやすくてええな」




良かったぁと思ったら、自然と頬が緩む。
そんな私を見て、白石さんの顔が何故か赤くなっていった。

不思議に思ってその顔をまじまじと見つめていると、ふいっと逸らされてしまう。
ガーンとショックを受けていた時…白石さんが言いにくそうに話し出した。




白「……もう一個、お願いがあるんやけど」



『?ふぇ、』



白「りんちゃんに食べさして欲しい」




た、食べ、さす……!?


突然のハードルの高いお願いに、ピシッと固まった。


白石さんは完全に動かなくなった私を見て、ふはっと吹き出すように笑う。




白「そんなに警戒せんでも……何や傷付くなぁ」



『!あの、違くて…!ごめんなさい///』




今度はしゅんと眉を下げる白石さんに、慌てて手を横に振った。




白「やっぱりりんちゃんには難しいことなんやな…」



『っえ?』



白「小学生のカップルでも出来ることなんやけど…」



『(そ、そうなの!?)』




小学生に出来るなら、私にだって出来るもん!(←中3)


謎の自信を持って白石さんと向かい合い、フォークにミニトマトを刺して、それを近付けていく。




『(あと、少し……)』




その時、白石さんの顔を見てドキリと心音が鳴った。


ムキになって始めたから見えていなかったけど、酷く優しい顔をして私の行動を待っていた。

その表情に胸がきゅううと締め付けられて、動揺からポロッとミニトマトが転がってしまう。
あわあわと慌ててそれを拾っていると、くすりと白石さんに笑われた。




『ま、また馬鹿にしましたね…っ///』



白「してへんしてへん」



『(ぜったい面白がってる…!)』




むーっと頬を膨らませると、"早く"と催促するように口を開ける白石さん。
私は改めて背筋を伸ばし、今度は美味しいって言ってくれた卵焼きに狙いを定めた。


なるべく顔を見ないようにして、おずおずとそれを近付ける。


成功したとわかったのは、白石さんが口を動かしていたからだ。




『(や、やったぁ…)』




ほら、私にだって出来ますよっと胸を張って白石さんに教えようとしたのに、突然腕を引かれた。




『わあ……!?』



白「…もーアカン、可愛すぎる!」




抵抗する間もなく白石さんの膝の間に座らされ、後ろからぎゅーっと抱き締められてしまう。


ドックンドックンと鼓動が高鳴り、今にも心臓が飛び出してしまいそうで。
更に白石さんが肩に顔を埋めるから、ビクッと全身が跳ねた。




白「〜〜っどんだけ必死やねん….ほんまにかわええわ」



『あ、あの、白石さ、』




「可愛い可愛い」と独り言のように何度も呟いて、ぎゅうっと強く抱き締める白石さん。

気のせいか、白石さんの周りにハートが舞っているような……


私も何か言わなくちゃと思うけれど、上手く言葉が出なくて、代わりにその手をぎゅっと握った。
そうしたら、その何倍もの強さでぎゅうぎゅう抱き締め返してくれる白石さん。



暫くそのやり取りを繰り返して、どちらともなく笑みが溢れた。




白「りんちゃんのこと、勝手に俺ら(四天宝寺)のマネージャーにしてしもうたけど…嫌やない?」




だんだんこの状況にも慣れてきて、互いの手を角度を変えて握り合っていた時…白石さんが突然そんなことを言った。




『何ですか?それ。今更です』



白「せやけど…」




今更不安になる白石さんが何だか可笑しい。


この合宿が終わっても、私はずっと青学のマネージャーを続ける。
でも、四天宝寺のマネージャーは今しか出来ないからと……自分でちゃんと決めたことだった。




『私、大好きな皆さんと一緒にいれて、すごく嬉しいんですよ』




何より、白石さんと一緒にいれる時間が増えて嬉しい。


そう伝えたいのに、ゴニョゴニョと小さい声で口籠ってしまうのが現実で。
何でこんなにヘタレなんだろう…と自分の不甲斐なさに泣きたくなる。






白「…りんちゃんってほんまに優しいなぁ」




その声に思わず振り向くと、白石さんは瞳を細めて私を見つめていた。
2人共座っている分距離が近くて、ドキンと心臓が跳ねる。


恥ずかしくて顔を伏せようとしたのに、額にちゅ、とキスを落とされた。




『!あ、ぅ…』



白「そういうところ、めっちゃ好き」



『!』




突然の告白に一瞬息が止まる。
ぐるぐる目を回して混乱していると、「大好きやで、りんちゃん」と白石さんの口から更に甘い言葉が溢れる。


ドッキューン!と心臓をハートの矢で撃ち抜かれた気がして、ぐっと自分の胸を押さえた。


いつもより甘いオーラを纏う白石さんを直視することが出来なくて、私は真っ赤になった顔を隠す為にひたすら下を向く。

頭を撫でられていることさえ恥ずかしく思えて、今までどうやって応えていたのかわからなくて。




『(わたしも、好き……っ)』




言わなきゃ。言わなきゃ。



バッと顔を上げて、白石さんを真っ直ぐに見つめた。




『わ、私も、白石さんのこと……だ、だ、だ、だ、』



白「?」



『だい、だい………だい、<キーンコーンカーンコーン>すきっ!』




重なった予鈴の音と共に、直前で瞑ってしまった目を開ける。


目の前でぽかんと呆ける白石さんを見て、カーッと顔が熱く上昇していった。
情けないやら恥ずかしいやらで、今すぐ穴があったら飛び込みたい。


しかも、この大告白(←自分の中では)が、白石さんにちゃんと届いていたかもわからないなんて。




『う、ふぇ…』




うわーん!と泣きながら、私はお弁当箱を抱えて逃げるように走り出した。


「りんちゃーん!?」と後ろから白石さんの声が聞こえるけれど、無我夢中で走り去る私には振り返る余裕などなかった。




ごめんなさい、ヘタレで、ごめんなさい…っ























放課後。
練習が始まるまで少しだけ時間があったので、校舎の中にある図書館に行くことにした。


校舎同様、図書館はとても広くて、2階までびっしりと本が並んである。
テニスやスポーツ関連の本が多いけど、学術書や小説など、幅広く揃っていた。



私は分厚い本を何冊か重ね、両手で抱えながら本棚の間を歩いていた。




『(あ、あれだっ)』




お目当の本を見付けたのは良いけれど、それは本棚の一番高いところにあった。


本を置いてから脚立を使ってのぼる…という簡単なことを思い付けない私は、本を片手に抱えて精一杯背伸びをする。

プルプルと伸ばした手が震えてきた時、すっと別の手が伸びて、その本を取った。




「ほら、これでいいのかよ?」



『あ、ありが……亜久津さん!』




目の前で本を持つ亜久津さんを見て、パチパチと瞬きを繰り返した。

あまりにもぼうっと見てしまっていたので、「…いらねぇのか?」と不審に思われてしまう。




『いえ…っありがとうございます』



亜「……ふん」




ペコリと頭を下げて受け取ると、亜久津さんは顔を逸らした。




『亜久津さんも、本を読みに来たんですか?』



亜「!ちげぇよ。ここ(図書室)が無駄にひれーから、昼寝には丁度いいだけだ」



『え、でも……』




亜久津さんの片手には本があって、確かめるようにじっと見てしまう。
その視線に気付いた亜久津さんは、バッと勢いよくそれを背中に隠した。



「誰にも言うんじゃねぇぞ」と威嚇する顔は凄みがあるけれど、耳がほんのりと朱に染まっていた。




『(か、可愛い……)』




もしかしてこれが、雪ちゃんの言う"ギャップ萌え"なのかな……?


突然ギャップ萌えに目覚めた私は、未だ警戒する亜久津さんを微笑ましい顔で見つめる。




『はい!絶対、誰にも言いません』



亜「…ケッそうかよ」




そう言うと、亜久津さんはホッと安堵したようだった。




亜「……てめぇも、そんなに借りてどうすんだよ」




答えようとした時、「こら亜久津!女の子に"てめぇ"なんて言っちゃ駄目だろ!」と何処からか千石さんの幻聴が聞こえた気がした。

亜久津さんも同じだったらしく、「!?うるせぇぞ!」と誰もいない場所に叫んでいる。




『えっと、個人のデータ表を元に、其々の強化練習メニューを作ろうかと思って。合宿の練習以外で、自己練したいって言う方も多いので…』




毎日ハードな練習をこなしているにも関わらず、自己のトレーニングもしたいと思う人は少なくない。

オーバーワークにならぬよう、1人1人の特性にあったメニューを考えようと思ったのだ。




『お節介かもしれないですけれど、少しでもお役に立てればいいなぁって思って』




知識を付ける為に身体の仕組みから勉強しようと思ったら、こんなにたくさんになってしまったのだ。


本をぎゅっと抱えながら言うと、亜久津さんは少しだけ目を見開いた。




亜「…今でも役に立ってないわけじゃねぇだろが」



『え?』



亜「まぁ、頑張れよ」




言いにくそうに鼻の下を擦って、図書館を出て行く亜久津さん。

掛けられた言葉が嬉しくて、『ありがとうございますっ』と背中越しにお礼を述べた。




『(前から思ってたけど、亜久津さんって優しい人なんだなぁ)』




壇くんが尊敬している理由がすごくわかる気がする。
河村先輩も、誤解されやすいけどいい奴なんだって笑って話していたっけ…


ホクホクと癒されながら、窓際の席に腰掛ける。
ノートを広げ本に目を通していると、窓の隙間からふわりと風が舞い、前髪を揺らした。



優しく額に触れる感触に、ふと、お昼休みの一件を思い出してしまった。




『(……聞こえたかな?)』




大好きって伝えた後、きょとんと目を丸くした白石さんの顔を思い浮かべる。

聞こえていなくても残念だし、聞こえていたとしてもそれはそれで恥ずかしい。



もう自分がわからない……と、パタリと倒れるように机に伏せた。




『(……私、いつも白石さんのこと考えてるなぁ)』




悩んだり、落ち込んだり、嬉しくなったり、ドキドキしたり。
いつからか、そのどれもに白石さんが関わっているようになった。


その事実さえ嬉しいと思ってしまう自分に、呆れる。




そよそよと吹く暖かい風が気持ちよくて、睡魔が襲ってきた時……「跡部、練習行かんのか?」と言う声が聞こえた。


バッと弾かれるように顔を上げると、忍足さんと跡部さんが階段を下りているところで。




跡「まだ時間あるからな、少し読んでから行く。お前は先に行ってろ」



忍「了解。ほんまに本好きやなぁ」




先に階段を下りて図書館を出て行く忍足さんを見届け、私は慌てて机に伏せて元の体勢に戻った。


何故寝たふりまでしてしまうのかわからないけれど、体が勝手に動くから仕方がない。



だんだん足音が大きくなって近付いてくると、思わずぎゅうっと固く目を瞑った。






跡「………りん?」
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