beloved

□甘いあまい。
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「「「「『海堂・海堂先輩、お誕生日おめでとう〜〜!!!』」」」」



海「…………………ッッおわ!?」




練習後、日課のマラソンを終えた海堂は、シャワーを浴びて部屋に戻ろうとしていた。


ドアを開けた瞬間、待ってましたと言わんばかりに青学の皆にクラッカーを鳴らされ、海堂はカラフルなテープを頭に乗せながら瞬きを繰り返した。




桃「ぷぷ、海堂の奴目ぇ真ん丸にさせてるぜ?」



リョ「サプライズ成功っスね」



乾「海堂が意表を突かれた確率100%」



不「海堂、誕生日おめでとう」



菊「ハッピーバースデー!!」



河「驚かせてごめんな。皆、海堂を待ってたんだよ」



『皆で、海堂先輩をお祝いしたくてっ』



海「…………………」




次々に喋られても、海堂は呆然とする一方だ。


そんな海堂の気持ちもお構い無しに、「じゃーん!!」と言う声と共にケーキが運ばれてきた。




赤「俺達も作ったんだぜ〜!」



財「ちょっと生クリーム塗っただけやろ」



日「チョコのプレートは工夫した」




彼と同室の赤也、財前、日吉はケーキを見せながら口々に感想を言い合う。


ケーキは抹茶のスポンジがベース。中には小豆が入っていて、抹茶のクリームとチョコソースが絶妙にマッチして見るからに美味しそうである。

りんが主体となって作ったが、皆も其々手を加えた力作だ。




大「海堂、誕生日おめでとう!皆で作ったんだぞ」



海「………はぁ」




大石の登場に少しずつ状況を理解してきたのか、漸く言葉を発する海堂。

だが、彼の隣にいた手塚を見ては、「!?」と反応せずにいられなかった。




手「海堂、おめでとう。これも皆からのプレゼントだ」



海「ぶ、部長……それは……」



桃「ぶはは!!手塚部長やっぱ可笑しいっスよ!!」



菊「ひーお腹痛いにゃ……ぷ、くく!!」



不「2人共、笑ったら手塚が可哀想じゃないか………ぶはあ!!」



河「ええっ不二まで!?」




手塚の姿を見た瞬間、桃城と菊丸がお腹を抱えて笑い出し、不二までもが吹き出すように笑う。
それにつられて、今まで必死に堪えていた皆もくすくすと肩を震わせた。



それもその筈。
彼の手には猫の編みぐるみがあり、それを持つ手塚自身も、猫耳カチューシャをつけていたのだからー…




海「(…な、何が起こってるんだ)」




テニスプレーヤーとしても、部長としても、ずっと目標としてきた人が……堂々と猫耳をつけて自分を祝おうとしている。

それにいつの間に付けたのか、他の皆も同じようなカチューシャを頭に乗せているではないか。



突然の猫の過剰供給に、海堂はゴクリと息を飲み込んだ。




『海堂先輩は、猫が好きだと思ったので…そしたら皆で猫耳付けようってなったんです』



海「…そーか。(猫耳は別に好きじゃねぇ…!)」



桃「ほら、海堂の分!」



海「!?」




ぽいっと投げられた物を慌てて手に取ると、それは皆が頭につけているのと同じ物で。




海「(桃城……お前はそれでいいのか………)」




嫌がるどころか寧ろ喜んでつけているように見えるチームメイトに、海堂は心の中で問い掛けた。


りんに目を向けると、自分が"それ"をつけることを心待ちにしているようだった。
曇りのない期待に満ちた瞳を見てしまえば、海堂は「ぐ……っ」と喉を鳴らすしかない。



仕方なくそっと頭に乗せた瞬間、皆の顔はパァアアと輝きに満ちていった。




『先輩!とってもお似合いです!』



海「お、おう…(複雑だ)」



菊「これで海堂もニャンコ家族の一員だにゃ〜!」



赤「いいな〜ニャンコ家族」



日「…いいのか?」



『赤也先輩もニャンコ家族ですよっ』



赤「マジ!?やった!」



リョ「ニャンコ家族ってなんなの…」



財「(後でブログにアップしたろ)」




皆…もとい、ニャンコ家族がよくわからない会話で盛り上がっている隙に、パシャリとその姿を携帯で撮影する財前。

本当は(一番シュールで面白い)手塚を載せたいが、見付かったら面倒臭そうなのでやめた。




海「この猫の編みぐるみ…すごいリアルっスね」



手「ああ、鬼さんが作り方を教えてくれて、皆で暇を見付けて作ったんだ」



海「え、あの人(鬼さん)が…!?」




見た目は怖いがいつも周囲を気に掛けていて、優しい一面もあると知っていた。
知っていたが、まさかこの編みぐるみを彼が作ったなんて。


手塚の格好よりも更にギャップのある人がいた事実に衝撃を受けつつ、海堂はそのプレゼントを受け取った。




海「(…か、可愛いな……)」




掌に置いてひっくり返すと、つぶらな瞳と目が合う。薄茶と白が混ざったふわふわの糸がまるで本物の猫のようだ。


編みぐるみを持った海堂は、ポッと頬を朱に染めていた。




「「「「(喜んでる喜んでる……)」」」」




そんな彼を孫を見るような目で見つめていた一同は、ほわほわと周りに花を飛ばしながら微笑む。


「…あ、ありがとうございます」と照れながらもお礼を言う海堂に、「「「「『どー致しまして!』」」」」と皆は更に笑顔になるのだった。

























『海堂先輩、ケーキも美味しいって言ってたくさん食べてくれたんだよ〜』



《相変わらず仲良いわね…てか、手塚さんの猫耳姿見たかったぁああ!!》



『………雪ちゃん』




どんなエピソードを聞いても、結局はそこに行き着くのだ。


電話の向こうで雪は暫く悔しそうに唸っていたが、《そうよ!》と突然何かを思い出したように叫ぶ。

あまりにも大きな声だったので、りんはキーンと響く片耳を押さえた。




《どうなの?あの人とは!》



『あ、あの人?』



《りんの桜の王子様よぉ!合宿と言えども男女の関係!!同じ学校に通ってマネージャーとしてもサポートして、しかも…しかも……

同じ旅館に泊まってるんでしょう!?》




『旅館じゃないよ、合宿所の中の宿舎だよ』とりんは訂正するが、《どっちだって良いわよ!!》とやけに力のこもった声が返ってきて、ビクッと体を浮かせる。




《絶対何もない筈ないもの!ドッキドキな展開とかあるでしょ?》



『ドッキドキ……』




雪の言うドッキドキな展開を想像した瞬間、カァアと顔に熱が溜まっていった。


そんなりんの反応が見えているかのように、《何かあったのね??》と雪はすかさず尋ねてくる。




『な、何にもないよ…っ星を見に行って、一緒に寝たくらいで…///』



《な、何ぃいい!?》




何かを叩いた音が電話の向こうから聞こえると、りんはハッと口を押さえた。だが、もう遅い。





《一緒に寝たってどういうこと?つまり……そこまで進んだってことでいいの?》



『そ、そこまでって?』



《もーだから!白石さんと大人の階段にのぼったのかってこと!!》



『!?』




衝撃で言葉を失ったりんは、パクパクと餌を欲しがる鯉のように口を動かす。

雪は気にせずどんどん話を進め、《そっかーあのりんがねぇ…》と感動し出した。




《でも合宿所でなんて…白石さんって大胆ね》



『!ち、ち、が……っ!(※違う)』



《あーもう!今すぐそっちに言って色々聞きたい!!私のバカ!どんな手使ってでも参加すれば良かった…!》




悔し涙まで流し始めた雪。

そんなに嘆くものなのかとツッコミたい気持ちもあるが、それよりもりんは顔の熱を冷ますのに必死だった。




『(何で皆、そんなに興味津々なんだろ……///)』




寿葉も、梓も、杏も、雪まで。
楽しそうに目を輝かせ、際どい質問をしてくるのだ。

聞かれる側は恥ずかしくて、少し答えるのも大変だと言うのに……




『(…白石さんは、こーいう話、することあるのかな?)』




もしそうだとしたら、どんな顔をして、何て答えているのだろう。


考えれば考えるだけ恥ずかしくなり、熱を冷ますどころかフシュゥウと煙が上がるくらい顔が赤くなる。

白石の姿を想像しただけでドキドキして落ち着かないなんて、相当重症だ。(※2人は既に付き合っています)




《あれ、でも白石さんって…初めてなの?》



『ふぇ?』




りんは、その言葉にきょとんと目を丸くした。




《あんなにかっこいい人が、今まで彼女いたことないなんて奇跡よ?もしかしたら、既に色々経験済みかも…》



『ええっそ、そうなのかな?』




何故か彼女であるりんが聞いてしまう。


白石は自分が初恋であると言ってくれた。
だが、誰とも付き合ったことがないとは言っていない。




《わからないけど、白石さんモテるからね。りんに言わないだけかもよ?》



『そんな…どうしよう雪ちゃんっ』



《何で?別にそれはそれでいいじゃない。お互い初心者より、相手が色々経験済みの方が安心じゃない?》



『安心……』




りんは安心どころか、ずしんと心に鉛がのし掛かったような気分だった。


いつも、緊張でいっぱいいっぱいなりんを見ても、白石は自分も同じだと困ったように笑ってくれた。

でも…優しい彼のこと。
もしかしたら、りんを安心させる為に言ってくれていただけかもしれない。




『(白石さん、そうなのかも……)』




キスする時だって、りんはついていくのがやっとだと言うのに、対する白石はりんを気遣えるほど余裕いっぱいだ。


最近はキスも蕩けるように甘く、また一段と男らしくなった気もするし……



りんは自分といる時の白石を思い出してしまい、ボンッと顔が真っ赤になる。




『(白石さんがえ、エッチっぽいのがいけないんだ…っ///)』




元からのかっこよさに加え、更に色気が増してしまえば、もう自分の手に負えない気がする。


ますますモテてしまったらどうしよう…と落ち込んできた時、《兎に角!りんも負けちゃ駄目だからね!》と雪が言った。




『?負ける?』



《白石さんにリードされっぱなしじゃ駄目ってこと!りんも自分から仕掛けるとか、何かアクション起こさなきゃ》



『仕掛ける?アクション??』



《じゃないと、》




りんがぐるぐると目を回していた時、《雪ー!いつまで電話してんの!》と電話の向こうからお母さんらしき声が聞こえた。




《やば…っごめんねりん、今日は切るね》



『う、うん…!こちらこそ遅くまでごめんね』




《結果報告待ってるからねー!》と言い残し、通話が終了した。
プープーと鳴る携帯を手に、再び目を回すりん。



……つまり、つまり、自分から白石を魅惑する、ということだろうか。





『〜〜〜っそんなこと、出来るわけないよ』




白石の笑顔を頭に思い浮かべながら、りんはクッションに顔を埋めた。
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