beloved

□甘いあまい。
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《りんは美化しすぎ!確かに白石さんはハイパーイケメンだけど、ただの男子高校生なのよ??》



『(ハイパー?)だ、だって本当にそう思うんだもん…!白石さんが笑うとね、お花がふわ〜って舞うんだよ』




『例えるとね、桜!』と興奮気味に話すりんに、電話の向こうの雪は《はいはい》と呆れたように頷いた。




《ほんっと羨ましいから!何なの?その合宿と学校は。毎日色んなイケメンを拝めるなんてパラダイスじゃないの!!》



『パ、パラダイス?』



《それに要先生の授業も受けられるし!》



『雪ちゃん化学苦手じゃなかった?』



《それはそれ、これはこれよ!》



『……………』




よくわからないことを主張し始めた雪に、今度はりんが呆れる番だった。
親友の面食いぶりが加速しているのは、気のせいだろうか。




ベッドに腰掛けていたりんは、家から持ってきたお気に入りのクッションを膝の上に乗せた。


ここ(合宿所)では携帯電話の使用は特に禁止されていない。
3日に一度は家に電話を掛ける約束をしているりんにとっては、有難いことだった。




《ところで、りんはどうなの?最近》



『ふへ?』




電話を掛けてくれたことに嬉しさを感じていたりんは、唐突な質問に間の抜けた声を出してしまう。




《マネージャー業だけじゃなくて勉強もしてるんでしょ?疲れてない?》



『そんなことないよっ毎日すごく充実してて、』




りんはここ最近起こった出来事を思い出しながら、ぽつりぽつりと話していった。

























山奥に新設した学校は、合宿参加者達が勉学に遅れない為、両立する精心を学ぶ為にある。



その学校の家庭科室では、きゃっきゃっと楽し気な声が響いていた。




丸「このくらい伸ばせばいいか?」



『はいっ大丈夫です!』



岳「おーい薄力粉とベーキングパウダー振るったぞー」



『ありがとうっじゃあ、それをこのボールに少しずつ入れて…』




テキパキと指示を出すりんの元、丸井と岳斗は言われた通り手を動かした。



家庭科室は甘い匂いで溢れていて、まだ"それ"が完成していなくてもお腹が減りそうだ。
りんはフゥと息を吐いて、ボールの中の生地を混ぜていった。




『(美味しく出来るといいなぁ)』




何故、3人揃ってお菓子作りに励んでいるのかというと、仲の良い友人の誕生日パーティーを開く為である。



5月5日は……ジローの誕生日。



りんと、彼と同室の丸井と岳斗で内密に相談した結果……皆でケーキやお菓子を作ってパーティーをしようと言うことになったのだ。


スイーツ作りには慣れている丸井が絵に描いて企画し、りんが進行係を務めていた。




丸「しっかしこんな大きなクッキー、俺も初めて焼くぜ」



『そうですよね。出来上がるのが楽しみですっ』



岳「ジローの奴、目ぇキラッキラさせて喜びそうだな」



丸「だな。すっげー想像つく」




皆は其々ジローの喜ぶ顔を想像しながら、作業を進めていった。


ふと、新しい生地を手で捏ねていた丸井が「そうだ」と何かを思い出したように呟く。




丸「仁王に数学の教科書借りてたんだった。あいつ明日小テストあるって言ってたから、今日勉強するかも」




「ちょっと渡してくるわ」と鞄を探りに行こうとする丸井を、『私行きましょうか?』とりんが引き止めた。




『もう焼くだけですし、丸井先輩は進めてて下さい』



丸「ほんとか?悪いな…じゃあ、」




「頼んだ!」と両手を合わす丸井に合わせ、『頼まれました!』と頭に手をかざして敬礼するりん。

出来上がった生地をオーブンに入れて温度を設定するなり、たたた、と小走りで出口の方に向かった。




丸「りんちょっと待った!」



『??』




ふいに呼ばれて素直に振り向けば、近くに来た丸井にじっと見つめられて。
首を傾げるりんの頬を、片方だけムギュッとつねった。




丸「…よし。大丈夫みてーだな」



『??はんのことれすか…っ』



丸「何でもない何でもない」




意味もなく頬をつねられ、りんは??と頭の上に疑問符をたくさん浮かべる。

当の丸井は頬に付いてしまった粉をタオルで拭き取りながら、満足気に笑っていた。







『(?変な先輩………)』




家庭科室を出て廊下を歩きながら、りんは先程の丸井の行動の意味を考えていた。


からかわれたのだろうか、と少しムスッとしている間に、屋上が見えてくる。

『いるかな…』と口にしながら重たいドアを開けると、校舎の中と一変して開放的な空間が広がっていた。




『…仁王せんぱーい!』



仁「プリッ」




姿が見えぬ先輩の名を呼ぶと、遠くから声が返ってきて。
恐る恐る足を進めていくりんの目に、貯水タンクの後ろで丸くなっている姿が映った。




『!仁王先輩、風邪引きますよ?』



仁「何じゃ…りんか」




真上から顔を覗き込むりんを、仁王は少しだけ振り向いて見る。


ちょいちょいと指を動かすのに合わせて近付くと、手を引っ張られてその場に座らされてしまった。

『わ…っ?』と慌てるりんを、「寝てみんしゃい」と仁王が誘う。



りんは暫く戸惑っていたが、マイペースに寝そべる仁王を見ていたら諦めて従うことにした。




『(……わ、気持ち良い……)』




暖かな風が屋上に吹き渡る。りんはその心地良さに自然と目を瞑り、身を任せた。




仁「こーして、何にも考えない時間が好きなんじゃ」



『確かに…落ち着きますね』



仁「そーじゃろ…」




頭の先を向け合いながら寝そべる2人は、ぼんやりとした会話を繰り返す。
流れ行く雲を見つめていたりんは、ふとハッと気付いた。




『(いけない!つい寛いでた)仁王先輩に渡す物があったんです…っ』




『丸井先輩から』と説明して本来の目的であった数学の教科書を渡す。


仁王はパチリと目を開け、ゆったりとした動作でそれを受け取ると、そのままの体勢で近くに正座するりんを見つめた。




仁「すっかり元気になったようじゃな」



『へ?』




ふ、と僅かに口元を緩める仁王に、何のことだろうと目を丸くするりん。

仁王はパラパラと教科書を捲りながら、「ずっと尻尾が下がってたからのぅ」と続けた。




仁「ブン太も心配してたぜよ。本人に聞けばええものを…」



『丸井先輩が…?』




りんは、ここに来る前に丸井に言われたことを思い出した。
そう言えば、この間昼休みにサッカーで遊んだ時も、仁王と何かを話していた気がする。



それは全部、自分を心配してくれていたから……?




『…心配してくれて、ありがとうございます』



仁「プピーナ」




先輩達の優しさに感激して涙が出そうになりながら、りんはペコリと頭を下げた。




『今、ジロちゃんに渡す誕生日ケーキを作ってるんですけど、良かったら仁王先輩も一緒にどうですか??』



仁「…遠慮しとくぜよ。1人で行きんしゃい」



『行きましょう!楽しいですよっ』




仁王はキラキラと期待に満ちた眼差しを向けてくるりんを見ないように、教科書を顔の上に乗せる。


だが、しゅんと落ち込む空気を感じ取ってしまい、次の瞬間には「…行けばええんじゃろ」と答えていた。




仁「その代わり、俺を起こせたらな」



『!本当ですか?』




腕をバンザイする仁王の前に立ち、りんはその両腕を掴んで思いきり引っ張った。



















丸「お〜おかえりぃ……って仁王!?」



『仁王先輩も手伝ってくれるそうです!』



仁「連行されたナリ…」



岳「じゃ、仁王はこの生クリーム混ぜてくれ!」




渋々と言った様子で作業に取り掛かる仁王。


結果的には、必死になるりんが可愛かったし、本当に起こして貰えたのは良かったが。(←最後は力を抜いていた)




丸「お前がこーゆうことすんの、珍しいじゃん」



仁「まー暇じゃったし…起こして貰えたからのぅ」



丸「えっ何?起こして貰ったの?」



仁「こう、バンザーイって、」



丸「!はぁぁああ!?何だよそれ!!」



『あ、ねぇがっくん、このくらい焼けてればいいかな?』



岳「お、おぉ…いいんじゃねーか?(りん、こいつらの扱い方わかってきたな)」



『?』




ただ会話を理解していなかっただけなのに、岳斗はりんを、どんな動物をも手懐ける猛獣使いのようだと思っていた。

























『でね、皆でお菓子作って、すごい楽しかったんだ///』



《うん。ツッコミどころはたくさんあったけど良かったね…》




『うん!』とりんは嬉しそうに頷いていたが、電話の向こうの雪は目を細め、遥か遠くを見つめていた。




《で?ジロちゃんは喜んでくれたの?》



『!あのね、ジロちゃんが来るまで部屋で待ってて、クラッカー鳴らして』




パァンと一斉に鳴るクラッカーに目を真ん丸にさせたジロー。
部屋の真ん中に置かれたフルーツケーキと、ジローの顔をした特大クッキーを見付けた瞬間、「…す、すっげーすっげー!!」と盛大に喜んだ。


「最高の誕生日だC〜!」と頬に生クリームを付けながらはしゃぐジローを見て、皆は作って良かったと心から思ったのだ。




『そうそう、誕生日パーティーって言えばね、海堂先輩のもやったんだよ』



《へ〜青学の皆で??》



『うんっ楽しかったなぁ』




りんは再びその時のことを思い出しながら、雪に話していった。
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