beloved

□ループ
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*りんside*




丸「んじゃな〜。赤也、次の時間寝るんじゃねーぞ」



仁「プピーナ」



赤「ちょ、寝ないっスよ!俺はいつも真面目っスから」



丸「…りん、監視シクヨロ」



『はいっ任せて下さい』



赤「りん!?」




昼休みにサッカーで遊んだ後、教室まで送り届けてくれた丸井先輩と仁王先輩は、赤也先輩と私の頭を交互に撫でる。

謎の使命感が芽生える私に、「絶対起きてるから!」と赤也先輩は宣言していた。




その10分後……教室には、赤也先輩のイビキが響いていた。




『(赤也先輩っっ起きて…!)』




机に伏せ、既に爆睡中の先輩。
窓際の席にいる私がいくら起こそうとしても、廊下側にいる赤也先輩に届く筈がなく……


せめて先生に見付かりませんように、と心の中で強く祈り続けていれば、隣からもスー…と寝息が聞こえてきた。


ギギギ…と音が鳴りそうなほど重たい首を横に向けると、




リョ「……………ん………」




予想通り、既に夢の中にいるお兄ちゃんが大胆に机に伏せていた。


普段ツンとした表情が多いから、寝ている時に見れるあどけなさは貴重だ。
印象的な目元を閉じ、腕に乗せた頬が潰れている姿はとても幼い。




『(ふふ、)』




あまりの可愛さに、写真撮りたいなぁなんて思ってしまう。



小さい頃からお兄ちゃんが大好きで、その気持ちはずっと変わらない。

優しくて、どんな時も頼れるお兄ちゃんは私の憧れだ。




『(皆可笑しいって言うけど……)』




白石さんはいつも、「りんちゃんはお兄さん想いやな」って笑ってくれるっけ…




『…………』




昨日の出来事が思い出されて、無意識に目頭が熱くなる。



あんなに怒った白石さんを……初めて見た。




前みたいに、仲良くしたい。でも、



もう、笑い掛けてくれないかもしれない。




『(…………駄目だ)』




全部全部、私が壊してしまった。





大切な人を、傷付けてしまったんだ。






涙が滲む瞳を悟られないよう下を向こうとした瞬間、ポンッと頭に何かが当たった。

すぐに顔を上げると、プリントを丸めたものを抱えニッコリと微笑む要先生がいた。




『?せん……』



要「お兄さんが好きなのはわかるけど、それは要先生の授業をサボってまですることかな?」




それ?と首を捻る私に、「見過ぎ注意」と呆れたように肩を落とす。


どうやら、ずっとお兄ちゃんの方を向いたまま考え事をしていたらしく、周囲からは熱視線を送っているように見えていたみたい。(※あながち間違ってはない)

要先生は私の顔を見て少しだけ目を見開いたもの、すぐに笑顔に戻った。




要「罰としてーりん、放課後、職員室に来なさい」



『!?』




な、何で私?と反論したくても、その微笑みの裏に隠れた圧力にパクパクと口を動かすことしか出来ない。


私が絶対絶命のピンチに晒されている中、お兄ちゃんと赤也先輩は何も知らずにスヤスヤと夢の中にいた。





















『す、すみませんでした』



要「それは何に大して?」



『先生の授業も聞かず、お兄ちゃんの寝顔に見惚れてしまって』



要「……りんは本当に素直だよな」




放課後、職員室。
しゅん…と自然と頭が下がる私の前には、椅子に腰掛けた要先生。
眼鏡を外し目頭を摘んだ後、すっと何事もなかったように掛け直した。




要「でも、それだけじゃないだろ」



『…………』




要先生の何もかも見透かしたような瞳に、ゴクッと息を飲み込む。




要「ちょんまげに気付かないほど、考え込むなんてなぁ……」



『え、え?』




ちょんまげ?とわけがわからない様子の私に、先生はちょんちょんと自分の前髪に人差し指を立てた。

見様見真似で同じことをしてみると、前髪ではなく額に指が触れる。


…朝、顔を洗う時に前髪を上げて、それからどうしたっけ?




『(も、もしかしてずっとこのままだったのかな……!?)』




ウサギのヘアゴムを付けて固まる私の前で、「大丈夫か〜?」とひらひら手を振る要先生。


何で、誰も言ってくれなかったんだろう……
そういえば…丸井先輩がハッとしたように私を見て、仁王先輩と何かを話してたっけ。




『(面白いから放っておこうぜ、みたいな……?)』




ガーンとショックを受けると同時に、今更羞恥心が襲い掛かってくる。

それを静かに外しながら顔が赤くなるのを感じていると、要先生はじっと首元を見つめてきた。




要「(…多分、そっちに気を取られてたんだろ)」



『?』




その視線を追い、漸く気がつくと慌てて掌を当てた。
首元に貼った、絆創膏で隠したところがチクリと痛む。


要先生の何か言いた気な様子に顔を俯かせようとした時、「お〜おおきにな、白石」と別の方向から声が響いた。




白「オサムちゃん、これ重いわ……」



渡「はっはー堪忍堪忍。美術の先生が職員室に置きたいって言うもんやから」



白「ええけど…どえらいもん置くんやなぁ」




フラフラした足取りで石像?を抱えた白石さんは、渡邊先生の指示した場所にそれを置く。


心臓がドキリと反応し、首元の傷が更に痛んだ気がした。




要「あ、白石くーん。今度またチェスの相手してね」



白「げ、水城っ先生………っ!?」




手を振る要先生に気付き、怪訝そうに眉を寄せて振り返った白石さんと視線が合う。

こんな嫌な顔をする白石さん、初めて見た……




要「(今"げ"って言ったな…)君も大概、素直だよねぇ。そんな対抗心燃やされると逆に可愛く思うな」



白「…何のことかわかりませんけど、全く嬉しくないです」



『(…2人、いつの間にか仲良くなってる…?)』




しかも、チェスをする仲だったなんて。


大きな勘違いをしていることに気付かず、未だ和かに会話を楽しむ要先生にモヤモヤしてしまう。
むぅ、と無意識に頬が膨らみそうになっていると、それに気付いた先生が意味深に口元を緩めた。




要「何?りんもチェスしたかった?」



『ええっち、違います!』



要「ははっわかってる。取らない取らない」



『!?///』




要先生って、色気があるっていうか、男の人ってわかっていても綺麗だなって思ってしまう。

だから、こんなことでヤキモチしてしまう自分が子供だと再認識させられているみたいで、少し悔しい。


要先生の手が頭の上に伸ばされた時、別の手がそれを掴んだ。




白「……………」



要「おー…今日も燃えてるねぇ」



『白石さんっ』




慌てて振り返ると、じっと瞳を細めて先生を見据える白石さんがいた。


熱く見つめ合う(?)2人をこれ以上見ていられなくて、咄嗟に白石さんの手を掴んで職員室を後にした。





















『(要先生、何であんなに白石さんに絡むんだろ…)』



白「りんちゃん」



『(やたら距離も近いし、絶対楽しんでる)』



白「りんちゃ…」



『(大体、何で呼び出されたのかもわからな)「りんちゃん、大丈夫か?」



ブツブツ心の中で文句を言っていた私は、突然白石さんの顔が目の前にあったことに驚きを隠せなかった。




『…わ、わあああ!ごごごめんなさい…!?』



白「ちゃんと前見て歩かな危ないで?」



『はい…』




白石さんを連れながら壁にぶつかりそうになっていたらしく、しゅんと頭が下がる。

パッと掴んでしまった手を離すと、一瞬だけ白石さんが悲しそうな顔をした気がした。



こうやって向かい合うのは、昨日ぶりだ。


何だか直視出来なくて、自然と相手の足元に置いていた視線をそっと上げてみる。
すると、白石さんは真っ直ぐに私を見ていて、ドキリと鼓動が音を立てた。




『か、髪、いつもと違うんですね……』



白「…あー…うん。今日寝癖酷くてなぁ。さっき濡らしたんやけど、中々強力で」




「りんちゃんも前髪の取っちゃったんやな」と言われ何のことだろうと首を傾げて、ハッと気付いた。

ずっと上げていた為に変な跡が付いてしまった前髪を、咄嗟に手で押さえる。




『でも、何で知ってるんですか?』



白「そりゃ、窓から見……ってちゃう、何でもないわ」



『?』




コホンッとわざとらしく咳払いをし、再び歩き出した白石さん。


いつもならすぐに歩幅を合わせてくれて、隣を歩いてくれるのに。
振り向きもしないで行ってしまう姿が、嘘みたいで。




『(泣くな……泣くな……)』




全部、自分がしてしまったことなのだから。



せめて遅れないようにと、慌ててついていこうとした時、自分の足に躓いて転んでしまった。


『!ふぎゅっ』と謎の動物のような奇声を発しその場に崩れ落ちる。




白「!りんちゃん大丈夫か!?」



『…はい(は、恥ずかしすぎる…!)』




すぐに走り寄ってくれた白石さんに起こされ、「怪我ないか?」と何度も確認される。

その勢いにコクコクと顔を縦に振ることしか出来ず、暫くして白石さんはホッと力が抜けたように表情を和らげた。




白「でも、一応先生に診てもらった方が『………っ』




すっと肩に伸ばされた手に驚いて、ぎゅううと目を固く瞑る。


暫く無言の時が続き、そっと開けると目の前の白石さんは後ろを向いていた。




『あの、白石さ「俺、教室に荷物取りに行ってから練習行くな」




「りんちゃん先に行っとってええよ」
何でもないみたいに呟いた声が、何処か震えている気がして。




『(違う、)』




白石さん自身を否定したわけじゃない。


違うのに、




でも、"白石さん"と呼んで、振り向いてくれなかったら?
さっきみたいに、駆け寄ってくれなかったら……






『……いたい、な』




首元の傷も、胸も、ズキズキとえぐられるように痛い。


涙の膜でぼやけた視界に、遠くなっていく白石さんの背中を映すことしか出来なかった。
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