beloved

□ループ
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りんちゃんは、いつも何処か別のところを見ていた。



俺じゃない、何処か。
















白「あれ、りんちゃん髪切ったん?」



『!そうなんです。ちょこっとだけですけど』



白「かわええで」



『あ、ありがとうございます///お兄ちゃんもこっちの方がいいって言ってくれて、』



白「越前くんが?なんや、気付かないイメージやけどなぁ」



『そうなんです!でも、今回は1番最初に気付いてくれて…』



白「そうなんや。良かったな」




『はい!』と可愛らしく笑うりんちゃん。


家族やから当たり前のことやけど、その変化に1番最初に気付けるのが俺やないこと。
日常に起きた些細な出来事、嫌なこと、楽しいこと。


最初に見れるのは……全部、俺やない。







『それで、その時お兄ちゃんが、』







もう、その"何処か"なんて………とっくにわかっとる。







わかっとるけど、気付かないフリをしているだけ。















白「(………な…んで……)」




せやから、あの時。りんちゃんが跡部を見ていた時はびっくりしたけど、




白「(…………ああ、)」




またか、と心の奥で呟いとる冷静な自分がおった。



りんちゃんが俺を好きって言うてくれる気持ちを信じたい。
せやけど、どうしようもなく湧き上がる寂しい気持ちもあって。



信じきれない自分が、ほんまに憎い。






『ごめんなさい、ごめんなさい、白石さん』






りんちゃんに、俺だけを見て欲しい。
俺だけを、考えとって欲しい。



1番がいい。






白「(もう………嫌やな)」






りんちゃんにこないな顔、させたないのに。







ほんまは、信じたい。





真っ直ぐに、信じたいだけなんや。




























白「……ここ、何処や?」




ふと気付くと、真っ暗な空間に自分がおった。


片手に集まる温もりに隣を見れば、同じタイミングで振り向いたりんちゃんと目が合う。
ふわりと微笑む姿に安心して、繋いだ手に力を入れた。


…でも確か、りんちゃんって暗闇苦手やったよな?




白「りんちゃん、大丈夫『だ、大丈夫、大丈夫です……っっ』………」




絶対大丈夫やないな…


安心させる為にポンポンと優しく頭を撫でたると、りんちゃんは身体を震わせながらも小さく笑った。




白「(っっかわええ……!)」




その小動物を連想させるような姿に、俺は全くちゃう意味で震えた。

こないな状況にも関わらず、暗闇でかわええなんて罪や……と悶々と頭を悩ませる。


可笑しくなった俺をポカンと見つめていたりんちゃんの手が、頭の上に触れた瞬間。
「りん、」と透き通った声が辺りに響く。




素早く振り向いたことに、自分が一番驚いた。








『お兄ちゃん!』




するり、と繋いだ手が離れていくのが、スローモーションのように遅く感じた。

慌ててその細い腕を掴もうとするも、何故か通り抜けてしまう。




白「(…………嫌や)」




行かんといて。
叫びたくても、喉が詰まって声にならない。




リョ「行こう、りん」



『うんっ』




俺と繋いでいた筈の手は、越前くんの手の中にあった。

途端に辺りが真っ暗になって、遠ざかる2人だけが明るく映し出される。




白「っっ(りんちゃん……!)」




必死に声に出そうとしても、聞こえるのは2人の足音だけ。





りんちゃん、こっち見てや!





りんちゃん。りんちゃん。









行かんといて。




















白「……りんちゃ……ん…………」




窓から差し込む光を受け、薄っすらと目を開ける。


瞼が濡れとることに気付いて、ゆっくりと重たい身体を起こした。




白「(夢………)」




ぼおっとする思考で今までのことは夢だったと理解し、ホッと胸を撫で下ろす。


慌てて服の袖で涙を拭い部屋を見渡してみれば、同室の2人のスヤスヤと気持ち良さそうな寝息だけが聞こえた。




白「(起こしとらんみたいやな……)」




今度は安心で肩の力が抜けた。



俺は夢なんて滅多に見ないし、見てもすぐに忘れてまう。
せやから、余計に衝撃が大きく、動揺を隠せなかった。




白「(はは………まだ震えとる……)」




無意識にガタガタと震える手に気付いて、思わず嘲笑う。


夢を見て、泣いて震えとるとか……かっこ悪すぎやろ。



汗でべたついたTシャツを脱ぎ、代わりの服に着替えてから静かに部屋を出た。























謙「白石、具合悪いんか?」




4時間目が終わり、昼休みが始まるチャイムが鳴った頃。
教材を机に仕舞う俺に謙也が近付いた。




白「何で?」



謙「…髪ボサボサやし教科書逆さまやし、Wそれ"いつまで着とるん?」




それ?と首を捻りながら自分の恰好を見渡してみれば、体育用のジャージを着たままやった。
ってことは2時間目から着とったんやろか……


羞恥心と共に何で誰もツッコンでくれへんのか、という疑問も生まれる。

そんな奇妙な格好をした俺に「大丈夫やで」と返されたところで、謙也は納得なんかする筈がなかった。




謙「今日はりんちゃんの写真も見ないんか?」



白「……あ、そうやったな」



謙「(やっぱ変や……)」




「熱でもあるんか?」と謙也の大きな手が額に添えられる。


りんちゃんの秘蔵ショットは全部ファイリングして常に懐に仕舞っとるけど、今日は眺める気になれんかった。

俺から手を離した謙也は、「ケンカでもしたんか」と肩を落とす。
これが紅葉やったら、あからさまに嫌そうな顔するんやろなぁ。(聞いてくれるけど)



尋ねてくるあたり、謙也は昨日の出来事を知らないらしい。




白「そういや、昨日クイズ大会いーひんかったよな?」



謙「それな、めっちゃ腹下しててん!夕食のポークカレー食べ過ぎたんやな」



白「ええなぁ…お前は能天気で」



謙「ケンカ売っとんのか?」




ふっと短く笑い窓の外を見つめる俺に、謙也は
声を荒げた。


何となく校庭を見つめると、サッカーゴールのところに人影があった。




白「(………あ、)」




遠くからでも、すぐにわかる。


丸井くんと仁王くんと、切原くんと一緒にいるりんちゃん。
サッカーのボールを持って話した後、楽しそうに走り出した。



じっと眺める俺の視線を追い、謙也も校庭を見下ろした。




謙「元気やなぁ若いもんは」



白「なんやねんそのオッサン発言。ちゅーか、見えへんの?」



謙「いやいや無理やろ。めっちゃ遠いいやん」



白「……そーか?」




謙也は視力も悪くない筈。
普通、この距離だと見えないもんなんやろか…?


だとしたら、きっと。




白「(重症やなぁ………)」




そこに彼女がいなかったら、きっと俺も見えない筈やから。



恋は盲目とは良く言ったものだと、自分自身に呆れてくる。




白「…………」




良かった、笑っとる。
楽しそうにはしゃぐ姿を教室の窓から眺めながら、俺はひっそりと胸を撫で下ろした。


瞬間、「あれ〜りんちゃんだC!」と弾んだ声が聞こえて、視線を教室内に戻す。




岳「え、あれそうなのか?ジロー良く見えんな」



芥「丸井くんもいるじゃん!サッカー俺もやりたE〜!」




窓にベタッと張り付き、羨ましそうに声を上げる芥川くん。
その頭の上から覗くようにして、向日くんも校庭を見下ろした。


2人はりんちゃんと"お昼寝倶楽部"言うのを結成していて、仲が良いのは知っとる。
芥川くんなんか特にりんちゃんに懐いていて、べったりくっ付いとるところを良く目にしていた。(羨ましすぎる)



先に俺の存在に気付いた向日くんが、「うわ…!?」とナイスリアクションよろしく、大きく飛び退いた。




岳「白石何だよ?その髪!」



芥「ボサボサだC〜」



謙「あ〜…な、やっぱ変やろ?」




2人の指摘に、俺ではなく謙也がポリポリと頭の後ろを掻く。

そんな変な髪なんやろか…と芥川くんに鏡を借りると、そこにはお洒落とかけ離れたボサボサ髪の奴がおった。


ほんまに、何で誰もツッコんでくれへんかったん?(2回目)




白「……芥川くんも、見えるん?」



芥「?りんちゃんと丸井くん?見えるよ〜」




見えるのが俺だけやなかったことに、胸の奥がモヤッとする。

子供みたいに嫉妬する俺を、芥川くんは不思議そうに見つめた。




白「りんちゃんのこと、好きなん」



謙「はぁあ!?ちょ、白石!?///」




心の声をそのまま口にする俺に、謙也は机に付けていた後ろ手をスカッと外しながら狼狽えた。


対する芥川くんはキョト、と眠そうな目を丸くし、「うん?好きだよ」と躊躇いなく頷いてみせた。




芥「あ、でも丸井くんも超かっこEから大好きだC〜勿論がっくんや亮ちゃん(宍戸)も大好き!」



白「………………」



謙「(白石がこれまでにないくらい安心しきった顔しとる……)」




あれか…金ちゃんがりんちゃんのこと好きな意味と同じなんやな。


勝手に熱くなって勝手に納得する俺を見て、相当疲れが溜まっとると勘違いした謙也が哀れみの目を向けてきた。




岳「良くわかんねぇけど、お前はどういう好きなんだよ?」



白「(どういう……)ドロドロに甘やかして、俺なしじゃ生きてへんくなって欲しい。……そういう好き」




自分でも怖いくらい、頭のてっぺんから足の爪先まで、りんちゃんが愛おしいから。


小さな身体を優しく抱き締めて、飽きるほどずっと一緒にいたい。




白「せやけど、大切にしたいのに……時々、泣かしたなる」




俺の為にりんちゃんが涙を流してくれる、それを想像するだけで優越感に似た感情が芽生えた。


嫉妬、独占欲、依存……ドロドロした汚いものが、俺の真ん中で渦巻きあっていて。
それは出て行くどころか、日に日に強くなり濃くなっていく。




芥「(……わー)」



岳「(こじらせてんなぁ……)」



謙「(せやろ……)」




ボサボサ髪のまま語り始めた俺に、3人の引いた視線が突き刺さる。



再び窓の外に目を向けた時、りんちゃんの姿はもうそこにはなかった。
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