beloved

□侵入者
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*りんside*



ゴロゴロ…と今にも雷が落ちそうな空。


その不安よりも、先程の醜態の方が私には大きかった。




『(…ど、どうしよう。顔見れない……)』




あれから白石さんに話があると言われて、コート裏に来たけれど。



「りんちゃんがあんな顔する子やと思わなかった…す、すごい、顔やったなぁ」
なんて、なんて言われて引かれたらどうしよう。



そんな不安がぐるぐると頭を駆け巡っていると、「実はな…」と目の前で話す白石さん。




白「四天宝寺のマネージャーになってくれへんか?」



『…………………………ふぇ?』




あまりにも予想してた言葉と違って、なんて言ったのか理解出来ない。


頭の上に?マークをたくさん浮かべる私に、白石さんは困ったように笑う。




白「やっぱり、青学のマネージャーがええ?」



『えと、あの』



白「でもな…俺らにもりんちゃんが必要なんや」



『!?』




両肩に手を置かれ、視線の行き場に困っている間にぐいっと顔が近付いてきて。

ドキドキ、心臓の音が聞こえそう。




白「俺も、りんちゃんが傍におってくれると嬉しい」



『!で、でも、大阪に引っ越すとなると簡単じゃないっていうか、その……///』



白「?引っ越し?」



『家族の許可もいりますし、そ、そもそも中学生の1人暮らしは…「ちょ、りんちゃん?」




あわあわと横に振っていた手を、白石さんに握られる。




白「マネージャーって、合宿の間だけなんやけど………」



『へ?』




気まずそうに話す白石さんを見つめて、私は漸く大きな勘違いをしていることに気付いた。

次第にカァアアと顔も赤くなっていく。




『そそそそうですよね…!ごめんなさい、変な勘違いしてっ』



白「いや、俺も言葉足りんくてごめんな。
実は紅葉が1ヶ月しかここにおれへんから、その後のマネージャーをりんちゃんにお願いしたいねん」



『え!そうなんですか?』




白石さんから、紅葉さんのお家やお店のことを聞いた。
紅葉さんがいてとても心強かったから、寂しい気持ちが溢れてくる。




白「もうコーチの許可は取っとるから、あとはりんちゃんの返事次第で、」



『許可取れたんですか?ど、どうやって?』



白「どうって?りんちゃんがマネージャーになったらうちの選手にとっていかに+になるかを説明しただけやで」




そう語る白石さんの表情が、何だか輝いて見えて。


感心している片隅で、もし四天宝寺のマネージャーになれたら…と想像してみた。
青学のマネージャーは合宿が終わっても続くし、皆との絆はどこにいても崩れないって教えてくれた。


でも、四天宝寺のマネージャーはこの合宿の間しか出来ない。
何より、白石さんの傍に居られる。



不純な動機かもしれないけれど、トクントクンと鳴る胸にそっと手を当てた。




白「…まぁそんな理由よりも、実際は心配なだけなんやけどな」



『?』




ハァと短い溜め息を吐き、私の頬をむにっと摘まんだ。




白「さっき千石くんに可愛い顔してたやろ?あんな風にされると、気が気じゃないっちゅーか…」



『(か、可愛い!?)』



白「せやから、俺の目の届くとこにおって欲しい」




大きい手を頬から頭に移し、優しく撫でてくれる。




白「嫌…?」



『い、嫌っていうか///』




嫌じゃない、嬉しい。
距離が近くて上手く声にならないだけ。


それなのに、答えない私に白石さんはどんどん不安そうな顔になっていく。




『(さっき、可愛いって…あの顔が?)』




白石さん、変だよ。


思わずクスリと笑ってしまうと、更に白石さんの眉が下がっていく。
その姿が可愛くて、ちょっぴり可哀想だけれどクスクスと笑みが抑えられない。



こちらこそお願いします、と頷こうとした瞬間、「待て、りん」と低い声が響いた。




手「その話、まだ答えるな」



『手塚部長!?』




ザッと何処からか姿を見せた部長。


驚く私と違い、「やっぱ耳に入ってたんや」と何故か冷静な白石さん。




手「合宿では離れてしまったが、りんは青学のマネージャーだ。そういう話ならまず俺達を通してもらおう」



白「(一筋縄ではいかんか…)堪忍なぁ、でもコーチの許可は取っとるで?」



手「勝手に決められても困る。それに…りんは俺達にとって家族のような存在だ。簡単には渡せない」



『ぶ、部長……』




手塚部長の言葉にじーんと感動していれば、「父親役も苦労するなぁ手塚」と新たな声が聞こえた。




跡「この俺がいること、忘れてねぇだろうな?」



手「跡部…やはりお前も聞いていたか」



白「まぁそんな気はしとったけどな」



『(してたの!?)』




一体いつから聞いていたのだろう。
話す内容からして、最初から聞いていた率が高そうだけれど……


跡部さんの顔を見たら、この間のことを瞬間的に思い出してしまって。
目が合うとバッと慌てて視線を逸らしてしまった。




白「せやけど、青学も氷帝も既にマネージャーがおるやないか」



跡「それとこれとは話が別だ。それに、俺はあの女(寿葉)をまだ認めたわけじゃねぇ」



手「ああ。全く別の話だ」



『(別なの!?)』




3人の交わされる会話に思わずツッコミを入れてしまう。

普段冷静な人達が熱く口論する姿にポカーンと立ち尽くしていると、「興味深い話をしているね」とまた新しい声が乱入した。




幸「俺も、四天宝寺に行くことは反対だな。りんちゃんは知識も経験もあるし、それは立海で活かされるべきだよ」



『ゆ、幸村さん?』



跡「あーん?何言ってんだ?氷帝に相応しい以外何があるんだよ」



『あのっ』



手「りんはずっと青学のマネージャーだ。変わりはない」



『み、皆さん…話を、』




どうしよう、全然聞いてくれない……
それに、皆を包む空気がどんどん黒くなっていってるような……




白「…じゃ、勝負するか?りんちゃんのマネージャー所属先を賭けて」




白石さんの言葉を合図に、皆の目がギラリと光った気がした。


「「「いいだろう」」」と何故か急に意気投合し、声がピッタリ揃う。




『(…お、お兄ちゃん、大変です)』




ピシャーンと、遂に遠くで雷が落ちた。



























『…何で、こんなことになっちゃったのかなぁ』




204号室。視線をトランプから逸らさないまま、ハァ〜と私は思わず溜め息を吐いてしまう。


向かい合わせに座っていたジロちゃんが「まぁまぁこれ食べてー」と苺味のムースポッキーを差し出してくれた。




岳「でも苦労するよなぁーお前も」



『が、がっくん……』




思わず涙ぐんでしまうと、斜め前に座るがっくんが「よしよし」と哀れみの目を向けつつ頭を撫でてくれた。



お風呂から出て、就寝前の時間にジロちゃん達の部屋でババ抜きをすることになって。
やっぱり不摂生は良くないし、お菓子を食べる数もきちんと制限した。

食べないって選択肢はなかった。だって、食べなかったらやっていけない。




『あれから観月さんと千石さん達まで加わって、どんどん大事になっていったの……』



岳「うわぁ、マジかよ?もう同情しかねぇわ…」



芥「それだけ皆りんちゃんが好きってことだね」



『そんなことないよ。でも、マネージャーの仕事ぶりを認めてくれたのは嬉しかったなぁ…』




選手ではないけれど、1人のマネージャーとして認めて貰えてる…ってことだよね?


喜びをこっそり噛み締める私を見て、ジロちゃんとがっくんが同じことを思ってるなんて。




芥&岳「「(何でこんな鈍感なんだろ……)」」



『?』




その溜め息に気付かず、どのカードを取るか選んでいると…ガチャッとドアが開いた。




芥「あ、丸井くんおかえり〜」



『おかえりなさいっ』



丸「うーいただいま」



岳「トランプやるか?」



丸「おーやるや」




「る……」と言い掛けた丸井先輩と目が合って。
ニコッと微笑むと、先輩の顔が赤く染まっていった。




丸「!な、なん、りん!?」



『お邪魔してます』



芥「今日はトランプ大会兼、お菓子パーティー兼、パジャマパーティーなんだよ〜」



丸「すごい主旨だな……」




呆れ顔の丸井先輩は、「それに何だよぃ、その格好は」と私達の服装を見渡した。



白とベージュの太めのボーダーを着るジロちゃん。
同じような形だけど、ネイビー単色を着るがっくん。
そして私のは、淡いピンク色。

すべてもこもこしたタオル地の部屋着で、ボトムも同じ柄と素材のを着ていた。




芥「これ、お揃いなんだぁ。Eでしょ〜!」



岳「そこの"スーパーたじま"で売ってたんだぜ」



丸「あそこで売ってんの!?てか女子かよぃ!」




キャッキャッとはしゃぐ私達に、丸井先輩の鋭いツッコミが飛ぶ。

「あ、丸井くんのもあるC!」とジロちゃんは気にせず袋から取り出した。



ネイビーとオレンジとグレーの細目のボーダーの部屋着。
皆と同じ素材で、一番丸井先輩っぽいのを選んだつもりだ。




『あの、皆で着れたらなぁって思って…迷惑かもしれないんですけど、』



丸「………っ」




お揃いが嬉しくてはしゃいでしまったけれど、先輩は着たくないかもしれない。


私の気持ちが伝染してしまったのか、ジロちゃんも一緒にしゅん、と 落ち込んでしまった。




丸「〜〜〜っっ着る着る!サンキューな」



『!』



丸「……ほら似合ってるか?」



芥「『似合ってる!・ます!』」



丸「(何か複雑だな……)」




皆お揃いになって更にテンションが上がり、その場で記念撮影が行われた。


暫くして落ち着くと、丸井先輩もトランプに加わってまた会話が進められていく。




岳「何のミーティングだったんだ?」



丸「明日のことでちょっとな。勝負に誰が出るとか何とかで…」



『本当にごめんなさい…っ練習で忙しいのに大事になってしまって、』



丸「お前が謝ることじゃないだろぃ?こっちこそ悪い、幸村くんが本気になると誰も止められなくて」




すっと遠い目をする丸井先輩に色々察してしまい、軽く笑い返すことしか出来なかった。


「ねーねーそれで誰が出ることになったの?」と、羊のクッションに寝そべって既に眠る体勢に入っているジロちゃんが尋ねる。




丸「んー…親密差?とかで、赤也か俺になる」




勝負って、きっとテニスのことだよね?
親密差と何の関係が……




結局、この後すぐにジロちゃんが眠ってしまって、今日はお開きになった。
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