beloved

□kiss
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山奥に新設された最新型の学校。
中庭は色とりどりの花が栽培されていて、校舎に負けないくらいの壮大な作りである。


その中庭で、ジュージューと肉を焼く不似合いな音が響き渡っていた。




芥「あー!がっくんそのお肉俺のだC!」



岳「ジローのなんか知るかよ!俺だってずっと狙ってたんだからな」



忍「ちょ、2人共落ち着きぃや。肉ならいっぱいある……って樺地がトング食いしとるー!!?」



樺「肉……美味しい、です」



岳「おい侑士うるせぇよ!!」




最早、ギャーギャーと騒ぐ声で肉を焼く音が掻き消されていた。


肉を食べられた挙げ句、理不尽に怒られた忍足は「何て残酷な世の中や…」と落ち込む。



トントンと小さく肩を叩かれ、振り向くとりんが自分の分のお皿を差し出していた。




『私いっぱい取っちゃったから、どうぞ』



忍「りんちゃん…!ええんか?」



『はいっ良かったら』




ふんわりと微笑んだりんを見て、「天使…天使がおる」と心の中で叫ぶ忍足。




鳳「先輩、良かったら俺のもどうぞ」



宍「何だよ長太郎、また胃もたれしたのか?」



岳「つーかりんも鳳も食わなすぎ。そんなんじゃこの世の中は渡っていけないぜ」



日「弱肉強食…」




ポツリ呟いた日吉に、全員ハッとしたように肉を見つめる。
一斉に焼いたばかりのそれに狙いを定め、風を切るように箸を差し出した。




岳「この肉は貰ったー!」



忍「ふ、甘いなぁ岳人。左サイドががら空きやで!」



宍「どらぁここで負けたら男じゃねぇ!」



日「っ下克上等!」



樺「ばぁう!!」




同じ肉を狙っていたので、どちらかが箸で速く掴んだ方が勝ち…そんなルールと化していた。

激しい肉の争いに、鳳とりんはポカンと口を開けて見守るばかりだ。



ぐぐぐ…と箸で取り合っていた肉がスポンッと外れ、こちらに向かって飛んでくる。
りんも咄嗟のことにぎゅっと目を瞑るが、




跡「(…っ危ねぇ)お前ら落ち着いて食べれねぇのか」



全「「「「『跡部・さん!!』」」」」




突然の跡部の登場に、一同の声が揃う。

りんに向かって飛んできた肉を箸で挟む姿に、今までうとうとしていたジローの目が輝いた。




芥「跡部かっくEー!!すっげーよ!」



『すごい、です…!』



跡「フッ当然だ」



忍「(肉持ってめっちゃかっこ付けとる…)」




ジローに同意するようにうんうんと頷くりん。
改めて『ありがとうございますっ』とお礼を言えば、「気にすんな」と呟く。


低レベルな争いに終止符を打った跡部は、空いていたジローの隣に腰掛けた。




宍「?跡部何処行ってたんだよ」



跡「あん?マネージャーと打ち合わせだ」




"マネージャー"と聞き、りんは先日寿葉に言われたことを思い出した。














そーゆうの八方美人っていうんだべ!











自分は普通にしているつもりでも、もしかしたら、他にそう思っている人がいるかもしれない。


りんはチラリと皆を見渡してみると、案の定忍足と目が合った。




忍「?どないしたん?りんちゃん」



『(…多分、寿葉ちゃんって忍足さんのこと)あの、』



忍「?」



『忍足さんと、寿葉ちゃんって付き合ってるんですか?』



忍「!!!??あちっっ」




野菜を焼いていた忍足は、動揺のあまり指をじゅーと鉄板に付けてしまった。


「侑士何してんだよ!?」と席を立つ岳人につられ、りんも慌てて冷たいおしぼりでその指をくるむ。




『大丈夫ですか!?ごめんなさい、変なこと聞いちゃって…!』



忍「全然大丈夫やで。ただ…思いもよらない質問やったから」




あまりにもりんが甲斐甲斐しく看病してくれるので、火傷して良かったなんて思ってしまうあたり重症かもしれない。

忍足が密かに幸せを噛み締めている間に、周囲はどんどん話を進めていた。




岳「でも実際どうなってんだ?」



鳳「忍足さんは仮にそうでも言わなそうですよね」



日「確かに…やたら北園に優しいし、」



宍「寧ろ女子全員に紳士っていうか、なぁ」



寿「それは聞き捨てならないべ!」



岳「マジかよ、女足らしじゃ………え、」



『寿葉ちゃんっ』




ひょこっと顔を出した寿葉に、皆は一斉に驚く。

勝手に責められて心を閉ざした忍足の隣にいるりんを見て、寿葉はムッと眉を寄せた。




寿「"寿葉ちゃん"なんて馴れ馴れしいっ(きゅん)」



岳「胸きゅんしてんじゃねーか」



跡「…おい、何故いる?」



寿「何故って氷帝のマネージャーだし、それに忍足さんの傍にいたいからに決まってるべ」




フンッと鼻を鳴らす寿葉は、跡部を挑発するように見る。
ゴゴゴ…と効果音が鳴りそうなほどの異様な空気をりんも察し、仲悪いのかな…と冷や汗を流した。




寿「昼休みにど行くんだ〜?ってついてきたら、旨そうな肉食べてるしっ」



跡「てめぇに食わす肉はねぇよ」



寿「な…!」




再びゴゴゴ…と睨み合う2人に、りんは慌てて肉や野菜をよそって渡した。




『これ、良かったら食べて?』



寿「!い、いらねぇ!」



跡「あ゛?躾のなってねぇメス猫だな」



忍「まぁまぁ跡部、女子相手に凄みすぎやで(ビクビクするわ…)」




容赦のない跡部の発言に、見かねた忍足がフォローに入る。


『あ、あの』とオドオドするりんに、「いつものことだから大丈夫だよ」と苦笑する鳳。




寿「大体、何でこの子が忍足さんの隣にいるんだ?氷帝のマネージャーでも何でもないくせに」



『えと、それは、』




何で、と問われても答えようがなくて。
暫く言葉を探すりんに痺れを切らした寿葉は、ビシッと指で差してきた。




寿「皆デレデレして、一体この子の何処がそんなに好きなんだべ!?」




一瞬時が止まったかのように静まり返り、じゅーと肉を焼く音だけが耳に残る。



居たたまれない空気の中、凛とした低い声だけが響いた。








跡「………わいいところ」




肉の焼く音で曖昧になったものの、近くにいた皆は聞き逃さなかった。




岳「(…あの)」



鳳「(…あの跡部さんが)」



宍「(…あの跡部が、)」



忍「(…あの跡部がっ)」



「「「「(可愛いって言った!!???)」」」」




愛犬を可愛がっていることは知っていたが、人間の…しかも女の子を可愛いと言うなんて。


皆は宇宙人でも見るように跡部を驚愕の表情で見つめた。



対してりんはりんで自棄に大人しいが、いつものごとく聞こえていないのかと思った……………が。




『………………////』




カァァと顔を真っ赤にして俯くりん。

その反応から、跡部の言葉が彼女にしっかり聞こえていたことがわかる。



見ている方も何故か気恥ずかしくなっていると、「…寿葉ちゃんさぁー」とこの場に不相応の眠たい声がした。




芥「りんちゃんのこともっと知ったら、寿葉ちゃんも絶対大好きになるC」




今まで眠っていた筈のジローに「ね!」と輝くような笑顔で言われ、寿葉はう゛…とたじろく。


それに連動するかのように、岳人もぐっと拳を握った。




岳「そうだよ、何も知らねぇでりんのこと悪く言ったら許さねーぞ。
…あと、」



『?』



岳「お、俺もりんのことかっかわい…い、と思ってるし」




カーと自分より顔を赤くしながら言ってくれた岳人に、りんは『ありがとう』と照れながら微笑んだ。




『(そうだよね……フォローしてくれたんだよね、)』











………わいいところ










ただ、答えた時…優しい顔をしていた気がしたから。




りんは、そっと自分の胸に手を当てた。




























金「りん〜」



『………………』



金「りん〜??」



『………………』



金「りん〜おーい」



『………………』




ぼーっと、一点を見つめているりん。


チャイムが鳴り、大抵の生徒達は下校し始めたので、椅子に座ったままのりんはとても目立っていた。




財「……何しとんねん」



金「あっ財前!りんが変なんや〜!」




金太郎がお菓子を見せても(←ブン太に貰った)何も反応を示さない。
心ここにあらず、のりんを見た財前は僅かに口角を上げた。




財「あ、白石部長、女子と歩いとる」



『!』




バッと勢いよく振り返ったりんに、財前は「はい嘘ー」と低音の声で淡々と言った。


その瞬間、視界に初めて人を映し、りんは少しだけ目を見開く。




『…〜〜っひどいです…』



財「これくらいで妬くなんてお子様やな」



『!///や、妬いてないですっ』




からかうように言ってくる財前に、顔を赤くして否定するりん。


生き生きした財前と見慣れた光景に、あの金太郎でさえ孫を見るように目を細めた。




『ごめんね、金ちゃんどうかした?』



金「今日試合するからりんに見てて欲しいねん!な、な?」



『うんっもちろん』



金「ホンマ!?絶対やで〜〜」




キラキラ目を輝かせる金太郎を微笑ましく思い、りんはふふっと頬を綻ばせる。

その2人を横からじ〜っと見つめる視線…




財「…こいつが来ても別になんも変わらんし」



『!』



金「何でや〜ワイりんに応援して欲しい!そしたらめっちゃ頑張れる!」




そんなことを言ってくれる金太郎に、りんは『金ちゃん…』と胸をうたれた。




金「財前やって頑張ったらええやんか」



財「めんど…」



『そうですよっ財前さん折角上手なのに、』




基本に忠実なテニスをする白石と、財前のテニスは何処か似ている。
慎重さの中にテクニックもあってとても上手いのだ。


自信満々に言い切るりんに、財前はボソリ呟く。




財「頑張ったらええんやな」



『?は、はいっ』



財「…じゃ、やる」




急にやる気を出した財前に、金太郎とりんは顔を見合わせて笑った。
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