beloved

□kiss
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朝からぽつり、ぽつりと降り続いていた雨は次第に本降りとなり、ザーと強い音が響いていた。


憂鬱な空と同じように、不機嫌なオーラを纏う男がここに。




紅「…………なぁ、謙也」



謙「…………何や」



紅「もう毎度毎度言いたくないんやけど………めちゃくちゃ機嫌悪ない?」



謙「……俺も思っとった」




ヒソヒソと幼馴染み達が話す先には、ずーんと負のオーラに包まれる白石がいた。


異様な空気をクラスメイトも感じ取っているのか、先程から彼に近付くものはいない。




河「ねぇ、何か白石可笑しくない?」



乾「ずっとブツブツ呟いてるな」



謙「えっ」




心配して河村と乾が言えば、確かに白石は机に向かって何かを囁いている。


疑問に思い、謙也と紅葉が近付けば………





そこには、机サイズに引き伸ばしたりんの写真が貼られていた。






謙「はいタイホーーー!!!!!」



紅「変態や!変態がおる!!」




ベリッと謙也はその写真を思いっきり剥がす。

「りんちゃん……りんちゃん」とまるで呪いの呪文のように呟く白石にゾクッとした。




謙「ひ…!し、しし白石ぃぃぃいー!!しっかりしいや!」



白「りんちゃん、ははは…りんちゃん」



紅「アカン、完全に頭にきとる!!」




謙也がガクガクと肩を揺すっても、白石はひたすらにそれを呟くだけ。


クラスメイトが騒ぐ前に何とか宥め、2人は話を聞いてあげるべく近くの椅子に座った。




紅「…で、ほんまは聞きたない、聞きたないけど、いやめっちゃ聞きたないけど、りんちゃんと何かあったん?」



謙「(…今3回言うたな)」




面倒事が嫌いな彼女は、余程聞きたくないのだろう。


「実は…」と話しながら、白石がさりげなく机サイズの写真を丸め懐に仕舞うのを、謙也は見ていた。




白「ここ数日、りんちゃんとまともに話せてないねん」



紅「りんちゃんもマネージャーの仕事で忙しいんやないの?」



白「それもあるけど、話そうとするとな、越前くんが間に入ってきて…………」

















※ここからは白石さんの回想でお送りします












白「りんちゃん!」




廊下歩いてたら、荷物持ってヨロヨロ歩く可愛いりんちゃんがおってな、話し掛けたんやけど、




『あ、白石さ「りん、」




越前くんが来て、りんちゃんの荷物持って歩き出したんや。




『お兄ちゃんいいよ…っ』



リョ「…先生まだかって言ってたよ」



『えっほんと?急がなくちゃ!』




可愛いりんちゃんは申し訳なさそうに振り返って、『白石さん、また』と頭を下げた。


教室覗いて可愛いりんちゃんがおっても、いつも越前くんと話して気付かへんし。
可愛いりんちゃんとお弁当一緒に食べようと思っても、青学の皆と食べてて入れへんし。



挙げ句の果てには、俺の方を振り返って……






リョ「………………」←近付くなオーラ



白「……………」





…お兄ちゃん(越前くん)がめっちゃ睨んでくるんや。























謙「…どうでもええけどりんちゃんの前に"可愛い"付けるんは決まりなん?」



白「え、付けとった?」



謙「(こいつ……無自覚か!)」




自覚があったらあったらでまた面倒な気がする。
ゲッソリする謙也と同じような顔をした紅葉は、隣で頭を抑えていた。




紅「そんなんなぁ…蔵がいっつも独り占めしとるんやからええやないか」



白「…それだけやないねん」



謙「?」




ぽつり呟いたきり、白石は拗ねたように机に伏せてしまった。




白「りんちゃんが……嬉しそうやから」




謙也と紅葉は顔を見合わせる。


「それは(ブラコンやし)しゃーない」と口を揃えて言いそうになったが、親友の弱々しい姿に何も言えなかった。





























『……?』




ふと誰かに名前を呼ばれた気がして、りんは振り返った。




杏「どうしたの?」



『あ…なんでもないよっ』



杏「そう?何だかりんちゃんご機嫌ね」



『ふぇ!?』




いつもよりニコニコと笑っている自覚がないのか、驚くりん。

隣で資料を持って歩いていた杏は、自身の顔を触る姿にクスクスと笑う。




杏「いいなぁーりんちゃんは。あんなに素敵な恋人がいて」




"恋人"と聞いて、『…う、うん///』と小さく頷いた。




杏「この間、白石さんと出掛けてたんでしょ?一緒に帰って来た時はちょっとびっくりしちゃった」



『!それなんだけど…』




恥ずかしそうにもじもじするりんを不思議に思い、杏は顔を近付けると小声で囁かれて。




『…わ、私、どんな感じだった?』



杏「?どんな?」



『変だった?』




一緒に寝て?なんて本当にお願いしたのだろうか。
白石の言ったことがもし本当なら、恥ずかしくて恥ずかしくて消えてしまいたい。


カァァァと顔を赤くして答えを待つりんを、杏は微笑んで見つめた。




杏「いつも通りだったわよ。ただ、何かお邪魔かなーと思って私は隣の女子部屋にいたの」



『そ、そうだったんだ///』



杏「でも一緒に寝てたとは思わなかったけど…」



『!!?』




少し顔を赤くして杏が呟くので、りんは更に真っ赤になる。


「大丈夫、誰にも言わないからっ」とガシッと手をとられ、何やら大きな勘違いをさせてしまったみたいだ。




杏「りんちゃんが大人の階段を登ったことは少し寂しいけど、」



『?…………え、えええっ!?』




"大人の階段"と聞いて、鈍感なりんでも何を指しているのか理解した。

『ち、違うよ…!』と慌てて否定するが、うんうんと独りでに頷く杏。




杏「大丈夫。付き合ってるんだし、そういうことになるのは自然だと思うわ」



『ち、違うってば!///』



杏「確かに、最近りんちゃんもっと可愛くなったし……」



『ほんと…?で、でも違うからね!!』




何を言っても聞き耳を持ってくれない杏に、りんは顔と手を目一杯横に振って否定する。




芥「なーになに?何の話してんの〜!」



『!?ひゃわ!』




ガバァと後ろから突然抱き付かれ、りんは思いきり変な声を上げてしまった。


ぱっと振り向けばニッコニッコと太陽のように笑うジローがいて、何処かホッとした。




『ジロちゃんかぁ…びっくりしたよ』



芥「えへへ〜あ、それ俺持つC!」




いつものごとくハイテンションな様子で、りんと杏の持っていた資料の束を持つジロー。

『え、悪いよ…っ』と直ぐ様断ろうとしたりんも、「だーいじょうぶ!」と笑われてそれ以上は言えなかった。




『ありがとう、ジロちゃん』



杏「ありがとうございます」



芥「このくらいどーってことないC〜いっつもハードな練習してんだもん」




練習中、大抵は眠って過ごしていたので、ジローにとって合宿の練習は"地獄"以外何物でもない。


「りんちゃんが氷帝のマネージャーだったらEのに」と呟くジローに、りんも嬉しくて微笑む。




芥「そしたら練習も頑張れるのになー」



『ふふ、氷帝の皆は元気?』



芥「うんっあ、そうだ!」




ポンッと何かを思い出したように手を叩く。




芥「今日さ、皆で中庭でお昼食べる約束してるんだよね!」



『わぁ、楽しみだねっ(仲良いなぁ)』



芥「すっげー楽しみだC!りんちゃんも一緒に行こうよ」



『へ??』




"一緒に行こう"の言葉に、一瞬ドキリとするりん。


ある人物が直ぐ様頭に浮かび、払うようにブンブン頭を横に振った。




『えっと……あ、跡部さんもいるの…?』



芥「え?跡部?」




ジローはキョトンと目を丸くして、りんを見つめる。




芥「来ると思うけど…だって跡部の家から取り寄せたお肉でバーベーキューするから」




さらっととんでもないことを言ったジローに、「流石跡部さんね…」と杏は頷いた。

『お肉取り寄せても大丈夫なんだ』と、その隣でずれたツッコミをするりん。




芥「……りんちゃんって跡部と喧嘩したの?」



『え!?』



芥「だって、2人共なんかよそよそしいC、あんまり話してないから」




何処かしょんぼりして話すジローに、りんは『ち、違うよ…っ』と慌てて否定した。


端から見たら、そんな風に思われてるのだろうか。
りんはモヤモヤを消し去るようにもう一度頭を振り、ジローを見つめた。




『…私も、楽しみにしてるねっ』




ジローも岳人もいるし。それに、皆に会いたい。
自分の気持ちを正直に伝えたりんを見て、ジローは嬉しそうに頬を緩めた。




芥「うんっ!ちょー楽しみだね!」
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