beloved

□てのひら
3ページ/8ページ



*りんside*











夢を見た。



お兄ちゃんと白石さんの姿が見えなくなって、真っ黒な空間に1人きりでいる夢。




怖いのに、声が出ない。手を伸ばして、掴むことも出来ない。

唯一動かせる足だけで必死に探すけれど、ただ真っ暗な闇が続くだけ。




『…………う』




泣きたくても泣けなくて、呼吸だけが苦しくなってきた時……誰かが、私の名を呼んだ。








ーりん、







まるで全てを包み込んでくれるみたいで……とても安心する。



額に温かさを感じて、次第に苦しさが安らぎに変わっていった。










良かった。もう怖くない。



























リリリリリ…





何処からか聞こえる音で目が覚めた。




暫くぼーっと天井を見つめてから、ゆっくりと身体を起こす。



何だか…頭が軽いような気がする。

まだ寝ている杏ちゃんを起こさないようにして、そろーと部屋の扉を開けた。




『(何処の部屋だろ…?)』




部屋の目覚ましの音だと思い、それを便りに歩みを進めていく。

角を曲がると、異常な程に音が大きくなっていった。




『…ここだ』




"205号室"と貼られた部屋の前に立ち、誰も起きてないんだ…と確信する。



でも、このまま鳴り続けてたら駄目だよね?

暫く待っても止める気配がなく、すぅと息を吸って恐る恐る部屋の扉を開けると……





ジリリリリ
リーリーリー
ピピピピピピピピピ





『(わ、わわわ!)』




"アラーム大合戦"
という言葉がピッタリ当てはまるほど、大音量で色んな音が鳴り響いていた。



兎に角近所(?)迷惑になってしまうと、音を発する物体を探すことにした。




まず、2段ベッドの下で枕を抱き締めながら寝てる赤也先輩に目を向け、傍にセットしてある目覚まし時計を止める。

次に階段を上がって、背中を背けて寝ている財前さんの時計を止めた。



反対側のベッドの下は誰もいなくて、その上で寝ている日吉さんの時計を止めたのが最後みたい。




『や、止んだぁ………』




大合戦が終わったことに、思わずホッと息を吐いてしまう。


こんな大きな音が鳴っていても起きない先輩達に驚きつつ、『赤也先輩、朝ですよ』と声を掛けた。



先輩は「ん、んー…」と身体を反転させ、眠そうに瞼を擦る。




赤「…んあ"?……何で…りんがいんの?」



『目覚ましの音をたどっていったら、この部屋に着いたんです』




「まじ?あんがと…」とちゃんと理解してるのかわからないけれど、呟く赤也先輩。


座りながら瞼を擦る姿が何だか小さな子供みたいで、クスクスと笑みが溢れた。




『それにしても、皆さんお疲れなんですね…』



赤「いや〜それもあるけど、こいつらも俺も朝弱いんだよな」




ふんふんと先輩の話を聞きながら、「ふぁ〜」と欠伸をする姿に何だか申し訳なくなる。

無理矢理起こしちゃったのかな…としゅんと落ち込む私に気付いた先輩は、




赤「ちーがうって。前に部屋の奴等全員、遅刻しそうになってさ。ふくぶちょーにこれでもかってくらい叱られたから、早目に目覚ましセットするようにしたんだよ」




「だからりん様様っつーわけ!」と赤也先輩はニッと笑ってくれて、私も頬を緩めた。




赤「おーいキノコ起きろ!」



日「………………………うるさいワカメ……」




暫くの間があってから、ダルそうに身体を起こした日吉さん。
眼鏡をかけてから顔を上げた時、その目は大きく見開かれた。




日「何故…いる」



『え、えとっ』




朝の不機嫌なオーラを纏った日吉さんに見つめられ、ビクッと肩を震わす。




赤「んな怒んなって。りんは起こしに来てくれたんだからさ」



日「…別に怒ってない」



赤「眉間に皺ばっか寄せてたらすぐ老けるぜー」



日「…だから怒ってない!!」




ケケケと楽しそうに笑う赤也先輩に、日吉さんはカッと顔を赤くして今にも突っかかりそうで。

『せ、先輩…っ』と慌てて間に入ろうとした瞬間、2段ベッドの上で動く気配がした。




赤「財前ーお前起きるのビリだぞ!」



日「さっさと仕度しろ。お前が遅刻すれば俺まで怒られる」



『財前さんっおはようございます』




一斉に話し掛けられた財前さんはゆらぁと身体を揺らしながら、上半身だけ起き上がる。

それから顔を片手で覆うようにして、財前さんは動かなくなってしまった。




赤「財前?」



『財前さん?』



財「………………っ」




まるで二日酔いで頭が痛いお父さんのようで、オロオロと心配になっていると…









財「…揃いも揃ってキャンキャンと吠えやがって………………耳障りや」





まるで聞いたこともないような低い声に、私と赤也先輩はピシッと凍り付く。




財「…………なんや?」



赤「『なななんでもございません…!!』」




ヒュオオオオ〜と財前さんの周りだけに冷たい風が吹いているよう。

何者も寄せ付けないような目で冷たく見下ろされれば、私の動きは完全に停止した。




海「!?りん何でここに、」



『か、か、どっせ…ぱ、い…!(※海堂先輩)』




ガチャッと部屋のドアが開かれたと思ったら、タオルを首に巻き、ランニング帰りのような海堂先輩がいた。


すがるように助けを求める私と赤也先輩に、ギョッと驚く先輩。



隣で日吉さんが「…取り合えず顔洗え」と呆れたように呟くのが聞こえた。




























謙「財前?あいつ寝起き最悪やからなぁ」




すっかり目が覚めて、朝食をとる為に食堂に来ました。




時間が早かったのか、私と赤也先輩と日吉さんしかいなくて。(海堂先輩は汗を流す為、財前さんは目覚めの為にシャワーを浴びに行きました)



暫くして、謙也さんと神尾さんがやって来て、皆で朝食をとることになったのです。






赤「それにしても低血圧すぎっスよ」



謙「…そやな。合宿の時も毎度どこの死人かと思ったわ」




まるで地獄の淵から這い上がってきたようなオーラだったと話す謙也さん。



お兄ちゃんも朝は弱い方だと思ってたけど、もしかしたら…そんなことないのかも…?

今朝の財前さんを思い出していると、隣に座る神尾さんが何だかそわそわしていた。




神「あのさ、あ…杏ちゃんって一緒じゃない?」



『?杏ちゃんなら、もう少しで来ると思いますよ』




「そそそっか」とまだ落ち着かない様子の神尾さん。


どうしたのかなと首を傾げていると、神尾さんは顔を赤くして俯いた。




神「…学校、一緒に行きたくて」




……………学校??


暫くぽけっと固まっていた私は、山奥に新設された学校の存在を思い出した。




『(そうだった…!)学校っていつからでしたっけ?』



赤「へ?昨日からだぜ」



謙「りんちゃん昨日は1日寝込んでたらしいから、知らない筈やわ」




風邪をひいた日から、丸1日経ってたなんて…



どれだけ寝てたのだろうと恥ずかしく感じていれば、コツンと後ろから軽く頭を叩かれた。


正面に座る赤也先輩も同時に叩かれたらしく、揃って後ろを振り向けば……






仁「学校の存在を忘れるとは、たるんどる!………プピーナ」



『!仁王先輩』



丸「あーかや偉いじゃん、早く起きてよ」



赤「!丸井先輩」




丸井先輩はガムを膨らませながら、「よ、」と手を上げる。


『おはようございます』と言うと、仁王先輩も「プリッ」と返してくれた。(…挨拶?)




仁「似てたじゃろ?」



『はいっ一瞬真田さんかと思っちゃいました』



赤「朝からふくぶちょーの顔なんて見たくないっス…」



丸「あーあ、真田が聞いたらまた怒鳴られるぞぃ」



赤「ちょ、ちょ!絶対言わないで下さいよ!!」




3人の掛け合いが面白くて、自然とクスクスと笑みが溢れる。


すると、ふと丸井先輩と目が合った。




丸「体調良くなって良かったな」



『はい!ご心配お掛けしました、』



仁「本当じゃき。ブンちゃんずっとりんりんうるさかったからのぉ…」



丸「!仁王!///」




素早く仁王先輩の元まで来て、「黙ってろぃ!」と怒った様子の丸井先輩。

そのまま振り返った顔は赤く、何故か私も恥ずかしくなってしまって。




丸「………し、心配だったから。お前危なっかしいし」



『は、はい。ありがとうございます…』




次第に尻窄みになる私達を、仁王先輩と赤也先輩は何故かニヤニヤして見ていた。




日「……跡部さんも、心配していた」



『?ふぇ、』



日「何回か見舞いに行ってると思うが、」




温かいお茶を啜りながら言う日吉さんの言葉を、目を丸くして聞く。



跡部さんがお見舞いに…?




『…し、知らなかったです』



日「そうなのか?」



謙「侑二が言うとったけど、跡部って薔薇の花束贈ったんやろ? どんだけセレブやねん」




「キザかっちゅーねん!」とツッコミを入れる謙也さん。



私は食べ掛けのクロワッサンを口に入れながら、お礼を言わなきゃと決意を固めていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ