beloved

□てのひら
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冬、独特の澄みきった空気。何処か高くなった空。



白石はマフラーをかけ直し、冷たくなった鼻先を中に入れた。




白「(寒……)」




冬は嫌いじゃないが、あまり着込むのは苦手だ。



温かさを求めてコートのポケットに手を入れようとした時、ちょんと何かが触れて、反射的に振り向いた。




『…………』




カーと顔を赤くしながら、気まずそうに視線を逸らすりん。

自分の方へ控え目に伸ばされた手を見て、白石は全てを悟った。




白「(…かわええなぁ)」




愛しく思いながら見つめると、白い頬はカァァと更に朱に染まっていく。


お望み通りその手を取れば、俯きがちだった面がぱっと上がる。
嬉しそうにふんわり口元を緩めた姿を見て、今度は白石が顔を赤くする番だった。



悟られないように前だけを向き、繋いだ手に力を入れる。




白「………」




小さくて。雪のように真っ白で。少し力を入れたら折れてしまいそうなくらい細くて。


ぎゅっと握り返してくれるこの手が、自分とは違う体温が、とても好きだ。







守りたい。

この先も、ずっと、ずっと。






誓うように、白石は繋いだ手を強く握った。



















だが、自分以外に手を握られるのは少し…かなり気に入らない。







千石「りんちゃん大丈夫?手も震えてるよ」



『大丈夫ですよ。今日1日ゆっくりしてたら治ります』




心配しながら、自然とりんの手を取る千石。


更に額からずれた冷えピタを直そうとした時、ゾクッと物凄い悪寒を感じた。




白「……………」



千石「白石くん!無言で睨み付けるのやめて…!!」




千石が背後を振り向くと、今にも人を殺しそうな形相の白石がいた。

離さなければ殺られる…本能で察した千石は、ぱっと手を離した。



だが、そんな空気をものともしない財前は飄々とりんに触れ、新しい冷えピタを額に貼っている。




財「冷えピタありすぎやろ」



『えと、先輩達が買ってきてくれたんです』



財「(………アホや)」




青学の過保護ぶりには呆れるばかりだ。


それにしても…いつも財前が近付くと小動物のようにビクッと跳ねるりんが、今日は熱があるからか反応が遅い。
頭を軽く撫でると瞳を細める姿は、猫のようだった。




丸「腹減ってないか?」



『大丈夫です。あんまり食欲なくて…』




夜食用にと、内緒で取っておいたお菓子を見せる丸井。


弱々しい声に「お粥とかもいらねぇ?」と尋ねても、りんはふるふると小さな頭を振るうだけ。




丸「少しだけでも食べないと薬飲めないぜぃ?」



『じ、じゃあ少しだけ…』



丸「よし!」




「えらいえらい」と丸井が頭をくしゃっと撫でると、りんは嬉しそうに頬を緩めた。

きゅうぅと胸が締め付けられるのを感じながら、丸井は視線を逸らす。



もう一度撫でようと伸ばした手は、何故か別の手に触れた。




財「……………」



丸「……………」




グギギギと音が鳴りそうな程、お互いの行為を邪魔する2人。

りんは自分の頭上でそんな攻防が繰り広げられているとは知らず、冷えピタの気持ちよさに目を瞑っていた。




「ー…連絡します。越前くん、白石くん、丸井くん、千石くん、財前くん、忍足くんは至急コートに戻ってください」




「「「「「「……………」」」」」」




朝の放送時の声とは違う、黒部のドスの利いた声が響く。


ピタリと動きを止める男達の中でも、至ってマイペースに動く人物がいた。




リョ「ちゃんと寝てろよ。何かあったら言って」



『うん。ありがとう、お兄ちゃん』




まるで今まで触れた箇所を消毒するかのように、ぽんぽんとりんの頭を撫でるリョーマ。
他方向から感じる恨めし気な視線も、まるで気にならないように…


兄に頭を撫でられ、りんの頬はポッと赤く染まっていた。




忍「ほなりんちゃん、俺らはそろそろ退散するで」




男達の戦い(?)を陰から見ていた忍足の言葉を合図に、皆は渋々と動き始めた。




千石「またお見舞いに来るからね〜」



財「腹出して寝てくださんようにな」



丸「早く元気になれよっ」




『ありがとうございます』とりんが微笑むと、其々は満足したように部屋を後にする。


リョーマは部屋を出る直前にもう一度振り返っていた。




杏「じゃありんちゃん、私も行くわ。1人で寂しかったら、医務室で休んでてもいいんだからね」



『大丈夫、ありがとう杏ちゃん』




ひらひらと力なく手を振る姿に申し訳なく思いながら、杏はコートに向かった。



今まで騒がしかった部屋は急にしん…と静まり返り、りんはドアの方を見つめる。




『(……寂しい)』




具合が悪い時に心細くなるのは何故だろう。


ずっと不機嫌そうにしていた白石を思い出すと、胸がズキンと痛んだ。




『……繋いで、くれなかった』




言葉にしてしまえば、じわりと目の奥が熱くなる。



気持ちを隠すように布団を被った時、キィ…とドアの開く音がした。

だんだんと近付く気配に、りんはビクビクと布団の中で震えていると、






「っ忘れ物…した」



『!』




布団の上から抱き締められる感覚と、その声に…りんは慌てて布団を剥がした。


目の前にいる彼に、すぐ言葉を発することが出来なくて。




『わ、忘れ物…?』



白「うん」




「これ、」と呟いた白石の顔は、何故かすぐ傍にある。


ただぽけっと見つめていたら唇に触れる熱を感じて、りんは漸く事を理解した。




『……………ふ、ふあ!!?///』




一瞬すぎて、目を瞑る暇もなかった。



未だ近くにある彼の高い鼻がちょんとりんの鼻を掠めると、『う、えと、えと///』と必死で声を出す。




白「早く治るおまじない?」



『!風邪うつっちゃいますよ…っ』



白「りんちゃんからうつされるんやったら、大歓迎や」



『…!?』




脳内パニックになるりんを余所に、白石は楽しそうに口元を緩めている。



その視線から逃れたくてぱっと顔を伏せれば、ふと片手を握られた。

前を向くと、瞳を細めて微笑む白石がいて。



ドキン、ドキンと鼓動が音を奏でる。




『……白石さんの手、冷たいです』



白「はは、りんちゃん熱いから、余計そう感じるやろ」




コクンと素直に頷くりんの頭を、反対の手で撫でる白石。



さっきまではあんなに不機嫌そうにして、触れてもくれなかったのに。




寂しくなったり、胸が痛くなったり、ドキドキしたり……
いつもいつも、白石の一挙一動に振り回される。





それでも、彼の顔を見たら"好き"が勝って、何も言えなくなってしまうのだ。





今だって……




『私、』



白「?」



『白石さんと手、繋ぐの…好きです』




触れられてるところ1つ1つが、温かくて、ドキドキしてる。

こんな風に感じるのは、白石だけだった。



カァァと頬を火照らせ、熱のお陰でりんごのように真っ赤に染まっていくりん。

その赤みが少し落ち着くまで俯き、やがて様子を伺うように前を見ると……
白石は、まるで愛しいものを見つめるかのような優しい顔付きをしていた。




その表情に、さっき治まったばかりの赤みがまた戻ってきてしまって、




白「…俺も。りんちゃんと手繋ぐの好きやで」



『は、はい……///(胸、痛い…)』




きゅーっと、胸が何かに締め付けられてるみたいに痛い。



どうしたら治るのだろうと熱のある頭で考え、りんは決心したように繋いだ手を強く握った。




『…っお願いがあって、』



白「ん?」



『早く治るおまじない…も、もう1回して欲しい、です』




思わず、手と同時に自分の目もぎゅううと瞑る。
そんなりんの気持ちが伝染してしまったのか、白石の顔は赤く染まっていた。




『あの、1回だけでいいんです…っ』



白「〜〜〜…っっりんちゃんのアホ」



『(あ、アホ…!?)』




ガーンとショックで固まるりんを余所に、白石はガシガシと自分の頭を掻く。



気付いたら、切れ長の瞳に捉えられていた。




白「1回でも、めっちゃなが〜い1回な」



『なが…!?』



白「"やっぱりやめて"は、きかへんで」



『!んっ』




自分の胸のあたりを押さえていた手で、白石の服をぎゅっと握る。



胸の痛みには効いても、発熱には逆効果。
だが、りんがそのことに気付いた時は既に手遅れであった。
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