beloved

□遠距離
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桜が咲き誇る春。


私、越前りんは中学3年生になりました。












『……………』




そして、新しい学年になった初日…大変なことが起こりました。






『……お兄ちゃん…の、背が高い……?』



リョ「気付くの遅すぎ…」




玄関で靴を履きながら、朝練がないお兄ちゃんと一緒に登校出来る喜びを噛み締めていた時。


先に外に出て待っていたお兄ちゃんに、ハァと溜め息を吐かれた。




『な、何センチなの…?』



菜「165センチよね?」




カルピンを抱きながらお見送りをしてくれていた菜々子さんは、「ね、リョーマさん」と微笑む。


その背にある柱には、確かに新たな身長の印が刻んであって…


無言で頷いたお兄ちゃんと交互に見て、ガンッとショックを受けた。



『ヒャクロクジュウゴセンチ…』と壊れたロボットのように言葉を繰り返す私に、更に追い討ちが掛けられた。




倫「学校でもモテるんでしょ?この前もラブレター貰って帰ってきたのよね」



『!!』



リョ「っ何勝手に見てんだよ…!」



倫「やだ、中身は見てないわよ。洗濯物探してる時、たまたま靴に入ってるの見えたから」




お兄ちゃん、身長、ラブレター=モテモテ。


頭の中で方程式が成り立って、余りの衝撃に自然と頭が下がっていた。



端から見たらわかりやすい落ち込みようだと気付かずに、玄関のドアを閉める。

とぼとぼお兄ちゃんの後ろをついていく形で歩き出した。




『(…そうだよね、)』




お兄ちゃん、すごく優しくて、かっこいいもん。


今まで彼女が出来なかった方が可笑しいんだ。



幼い頃とは比べものにならないくらい、広くなった背中を遠く感じていると、急にお兄ちゃんが振り向いた。




リョ「ねぇ、りんのペースに合わせて歩いてたら遅刻するんだけど」



『へ!?ご、ごめんなさい』



リョ「…身長のこと、そんなに気にしてんの?」




お兄ちゃん、合わせて歩いてくれてたんだ。

やっぱり優しいな。と改めて思ったら、嬉しさと同時に何故か胸がチクリと痛んだ。


慌てて首を振るい、小走りで追い付いて隣に並んだ。




『ち、違うよ…っちょっとびっくりしちゃったけど』



リョ「俺の方が身長高いの、そんなに嫌なの」



『!えと…嫌っていうより、寂しいの』




「寂しい?」と首を捻るお兄ちゃんに、しまったと思いながらコクンと頷く。


うう…気持ち悪いって思われたらどうしよう。




『ひかない……?』



リョ「…別に。ひかないけど」




その言葉を信じて、ぎゅっとスカートの裾を握った。




『私…お兄ちゃんと顔は似てないけど、身長が同じくらいで、嬉しかったの。だから寂しいなって…』




目線が同じくらいで、お兄ちゃんが本当に近くにいるみたいで嬉しかったから。




リョ「…………」



『ひ、ひいた…?』



リョ「…………うん」



『ええ!』




ひかないって言ったのに!とそっぽを向くお兄ちゃんを見つめる。
でも急に頭を撫でるから、驚いて目を丸くした。




『わ、お兄ちゃん?』



リョ「…やっぱ今日バスで行く」



『え!?』




頭から手を離したお兄ちゃんは、スタスタとバス停まで早足で行ってしまった。



私は撫でられた頭を押さえながら、遠ざかっていく背中をポカンと見つめる。




『…お兄ちゃん?』






お兄ちゃんが、変です。





















「え?越前部長の様子っスか?」



「…特に変わりはないと思いますけど」



『そっか…』




土曜日の部活の時、休憩時間に1つ下の後輩と輪になって話す。


コソコソと内緒話をするように聞いてみると、2人が教えてくれた。




「逆にりん先輩の方が詳しいんじゃないスか?」



『でも、学校違うし…』




そう尋ねながらタオルで汗を拭くのは、桃城先輩の弟の博生(ヒロキ)くん。

先輩と違って髪を茶髪に染めているけど、男らしいところがそっくりです。




「博…良く部長にサーブ教えて貰ってるだろ」




隣で溜め息を吐いたのは、海堂先輩の弟の葉末(ハズエ)くん。

海堂先輩に瓜二つだから、たまに間違えてしまいます。


お兄ちゃんが、2人共先輩のプレイスタイルに似てて面白いって言ってたっけ。




博「あー、そーいえばちょっとぼーっとしてる時もあるような…」



葉「確かに言われてみれば…この前のミーティングの時も元気がないようでした」



『そうなんだ…』




お兄ちゃん、やっぱり何かあったのかな…


むーと真剣に頭を悩ませる私の前で、博くんは「でも、部長って超クールだからなぁ」と苦笑した。




博「俺の渾身のギャグにも全然笑わねーし」



『そんなことないよっお兄ちゃん面白い時はちゃんと笑うよ』



葉「お前のギャグがつまらないだけだろ」



博「えっひど」




私の言った言葉に博くんが傷付いたなんて知らず、私はお兄ちゃんを心配していた。



確か、この前ホラー映画を見て1人で眠るのが怖かった時も、一緒に寝てくれなかったっけ。


それに、最近は良く桃城先輩と夜ご飯を食べて帰ってくるような……




当たり前のことを言ってるだなんて気付かない私は、サーと顔を青くした。




『(もしかして…お兄ちゃんに嫌われてる?)』




朝の酷く呆れた顔を思い出すと、その考えが強くなった。




葉「そういえば…りん先輩は行くんですか?」



『?何処に?』



葉「噂だと、テニスの世界大「りん、」



『お兄ちゃん!』




その声に振り向けば、「探しただろ…」と微かに息を乱したお兄ちゃん。


お兄ちゃんの姿を見た2人は、地面に座っていた腰を慌てて上げた。




リョ「先輩達が呼んでる」



『先輩達が?』




今日って合同練習の日だっけ…?と?マークをたくさん飛ばす。



そんな状態のまま、素直にお兄ちゃんの後についていった。
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