beloved

□想いの行方
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ガヤガヤと多くの人が行き交う中、怪しい7人組がいた。


スーツを着てサングラスを掛けた集団が、先頭の男を中心に機敏に動いている。



その中で一番下っ端らしき男が、後ろから先頭へ駆けていった。




赤「幸村部長…!滅茶苦茶目立ってますよ俺ら」



幸「そう?」



赤「大体何スかこの格好!!副部長とか超似合ってるし!」



幸「ふふ、流石真田。完璧にSPになりきってるね」



真「む…誉めても何も出んぞ」



赤「(別に誉めてねーっス!)」




スーツを誰よりもビシッと着こなしている真田。
サングラスを掛けていて視界が見にくいせいか、先程から何度も人に衝突しているが…


赤也は楽しそうに歩く幸村に再び目を向け、ハァと溜め息を吐いた。




赤「(丸井先輩、ごめんなさい……)」




何度謝っても足りないくらいだ。




今日、丸井がりんと出掛けることは、赤也や仁王しか知らない筈だった。


しかし…幸村が「今週末皆で出掛けよう」と突然提案し、事が急転した。




何故SPに扮して尾行しているのか、そんなことはもうどうでも良かった。




赤「柳先輩〜俺もし見付かったら、絶対先輩にシバかれるっス…」



柳「諦めろ赤也。精市に隠し事は不可能だぞ」



桑「この格好は逆に目立つからな…」




ジャッカルなんてSPではなく黒人のマフィアにしか見えない。

「ジャッカル先輩のせいでバレるっス!」と主張する赤也に、「俺かよ!?」とジャッカルは涙目になりながら叫んだ。




仁「それにしても、さっきは中々面白かったぜよ」




"さっき"とは、2人が駅で待ち合わせていた時を指す。




仁「まさかアイドルにスカウトされるとは……しかも、女の……くくっ」



赤「ちょ、駄目っスよ笑ったら……ぷくく、」



柳生「2人共!チームメイトを笑うなんて…………ふっ」



桑「お前も笑うのかよ!!」




腹を抱えて、笑いを堪えきれない赤也と仁王。

ジャッカルの的確なツッコミに、柳生はコホンと咳払いをしてから姿勢を正した。




幸「それにしても、ブン太も中々やるね」




少し先には、手を繋ぐ丸井とりんの姿があった。


2人の仲が良いことは前から知っていたので、特に驚くことはないが…




幸「…やっぱり妬けるな」



真「丸井の服は何故あんなにだらけているのだ?…はっまさか、ズボンが下がってきて…!」



赤「真田副部長、あれはサルエルズボンってゆーんスよ!」



幸「………」




ムードもへったくれもない真田の声に、幸村は静かに目を伏せたのだった。



















後方が騒いでいる中、2人はマイペースに買い物を楽しんでいた。




『丸井先輩っどうですか?』



丸「おおっすげー似合ってんじゃん!なぁこれは?」



『すっごく似合ってます!』




伊達眼鏡を掛けたり外したりを繰り返す。

お互いを誉め合い、すっかり機嫌も良くなっていた。




丸「これ、赤也と仁王にも買ってってやるか」



『いいですねっ色違いだし、』




『皆で付けてお出掛けしたいです』と笑うりんにつられて、丸井も口角を上げた。




丸「でも仁王は、変装用でこーゆうのいっぱい持ってんだよなぁ」



『あ、確かに…仁王先輩って普段何処で買われてるんですか?』



丸「わかんねぇ。あいつ私生活謎すぎて」




2人がそんな会話で盛り上がっていると、店の外で「くしゅっ」とくしゃみをする者がいた。




柳生「仁王くん、風邪ですか?」



仁「?いや」




外で見張っているのは柳生と仁王だけで、あとの皆は向かい側の店から観察していた。


可愛らしい雑貨が並ぶ店に、SPに扮した立海メンバーは非常に浮いている。



ざわ…と女子中高生達に引かれても、(ジャッカル以外)は特に気にしていなかった。




赤「柳先輩はどっちがいいっスか?」



柳「これだな。…お前が付けるのか?」



赤「違うっスよ!姉ちゃんもう少しで誕生日だから」




後輩の姉想いの発言に、柳は内心感動した。普段はやんちゃだから尚更。

同時に、可愛らしいシュシュと格好があまりにも不似合いで可笑しかったが…




「あ、動いたみたい」と幸村が外にいる柳生から合図を受け、皆は尾行を再開した。


















『先輩先輩っもふもふしてますっ!』




次に2人が立ち寄ったのは"うさぎカフェ"。



真っ白なうさぎを抱えながら笑いかけるりんに、丸井はうさぎを撫でる手を止めた。


まるでうさぎ同士がじゃれ合っているようだ。




丸「(…癒される)」




皆うさぎに癒しを求めに来ているというのに、指を舐められてくすぐったいと笑うりんの方に癒される丸井だった。



2人でカフェラテを飲んでまったりしていると、「…何か忘れてね?」と気付く。




丸「『限定チョコプレート!!』」




顔を見合わせて驚く2人。


りんも今になって思い出し慌てて時間を確認すると、予約時間まであと15分しかなかった。



「急げ…!」と支度もままならないまま、全力で駆け出した。












「バレンタイン限定チョコプレートでございます」



丸「……………」




数分後、表参道の人気店には、無事たどり着いた丸井とりんの姿があった。



白と黒を基調とした制服に身を包んだ店員は、1つ1つスイーツの説明を始める。

マカロン、ケーキ、アイス、ソルベ…折角の説明も、キラキラ目を輝かせた丸井には届いていなかった。



「ごゆっくりどうぞ」と店員が頭を下げて去っていくと、バッとプレートに顔を近付ける。




丸「…すっげーすっげー超美味そうじゃん!!」



『はいっ美味しそうです』




写真撮っていいのか?と身体を弾ませる丸井の姿に、友人のジローを重ねて微笑みを浮かべるりん。


丸井に合わせてケーキにフォークを通し、はむっと口に運ぶ。
一口食べただけでほのかな甘さが口の中に広がって、頬っぺたが落ちそうだった。




『(こんなに美味しいの、どうやって作るんだろう…?)』



丸「(マカロンって作るの結構難しいんだよな…)」




女子力全開の思考を持つ2人は、しみじみと思っていた。




『丸井先輩は、良くケーキとか食べに行くんですか?』



丸「まぁな。この前ジロくんと東京スイーツめぐりしたぜぃ」



『そうなんですかっ』




ジローが「丸井くんって超すごいんだよ!」といつも言っているから、2人が仲良くしているのは微笑ましい。


ほんわかした気持ちでいるりんとは違い、丸井は微かに眉を寄せていた。




丸「りんってジロくんと仲良いのか?」



『え?はい、良く一緒に遊んでて、』



丸「…そっか」



『…?ハッでも、丸井先輩とジロちゃんの方がずっとずっと仲良いと思いますよっ』




何故か意味を取り間違えてしまったりんは、慌てて言葉を繋ぐ。




『今度、3人でもお出掛けしたいです』



丸「じゃあそうすっか」



『はいっ』



丸「(あれ…?これでいいのか?)」




何だか違う気がする。


でも、嬉しそうに笑うりんを見たらそれで良い気がした。
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