beloved

□想いの行方
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赤「だー!わっかんねぇ!」




冬休みも明け、学期末テストが近付いてきた今日この頃。




部屋の真ん中に置かれたデスクに教材を広げ、先程から辞書を睨み付けていた赤也は遂に音を上げた。


それを受け、向かい側に座っていた男は盛大に溜め息を吐く。




丸「うるせぇ赤也!いい加減集中してやれよぃ」



仁「このやり取り、10分前に聞いたぜよ」




ガシガシと赤い髪を掻き、赤也に向かって鉛筆を立てる丸井。


とばっちりを受けたくない思いから、仁王は教科書で顔半分を隠しながら2人を見つめていた。




丸「大体、お前が言ったんじゃねーか。赤点取りたくないから勉強教えてくださいって」



赤「だってちんぷんかんぷんなんスもん!特に英語とかやる意味がわかんねぇ」




「俺日本人スよ!?」と嘆き、赤也は机に俯せになった。

次赤点を3教科以上取ったら、部長を辞退させると怒鳴った真田の幻聴が聞こえる。





立海は、中等部も高等部もほぼ同じ時期に試験がある。


試験1週間前に泣き付いてきた赤也に、自分達が勉強をするついでだと丸井と仁王は頷いたのだった。



赤也の部屋で勉強を始めて、かれこれ1時間。
……赤也は思った以上に集中力がなかった。






丸「だーかーらー、ここは過去形だからwasを使うんだって」



赤「じゃあ何でこっちは違うんスか?」



仁「こっちは現在完了形じゃから、have beenを使うんぜよ」



赤「げ、げんざいかんりょ…?」




まるで呪文のような言葉に、ぐるぐると目を回す赤也。



その時、トントンと軽く部屋がノックする音が聞こえた。




『赤也先輩、台所お借りしました』



赤「おーりん…」




ほわほわと花を飛ばして入ってきたりんを、赤也はげっそりと迎える。


手に持っている切り分けたケーキを見て、「待ってたぜぃ!」と丸井は勉強道具を退けた。




『赤也先輩も、どうぞっ』



丸「そうそう、甘いものは疲れにいいしな」



仁「(さっきまで集中しろ言うてた癖に…)」




赤也が睨み付けていた教科書を取り上げ、代わりにケーキを差し出す丸井。


甘いもの好きがそうさせるのか、作った者がりんだからなのか…



どちらにせよ、仁王はその変わり身の早さに呆れるのだった。




仁「そうぜよ。赤也、りんに教えて貰いんしゃい。帰国子女じゃったよな?」



『英語ですか?』



赤「そー…もう何がわかんねぇのかがわかんねぇ」




再びガシガシと頭を掻く赤也から、りんは教科書を受け取った。


「これ何て読むんだ?」と英文を指されると、すぅ…と息を吸い、




『I am really glad to meet Mary.Can I meet someday again?
私はメアリーに出会えて本当に嬉しいです。いつかまたお会い出来ますか?』




スラスラと英文を読むりんに、呆然とする3人。

可愛らしい声からは想像も出来ないほどのネイティブ発音に、びっくりしたのだ。




赤&丸「「((ぜ…全然聞き取れねぇ))」」




帰国子女とはいえ、丸井と赤也は先輩としてこれでいいのかと少し悲しくなった。




『出題範囲はわかってるので、出来そうなところからやりましょうっ』



赤「お、ぉお」




りんがバッと教科書とノートを開くのを、赤也は目で追う。




『have beenは昔から今まで、継続してる時に使うんです』



赤「継続?」



『例えば、"赤也先輩はずっと格闘ゲームが好き"…とか』




実際にゲームは小学生の時からしているので、「そーか!」と赤也はすんなり理解出来た。




赤「じゃあ、ここの問題はwasじゃなくてhave beenなのか…?」



『そうです!』




今まで間違えていた問題を1つ1つ解いていく姿に、りんも嬉しくて笑顔になる。



そんな仲睦まじい2人を思わず見ていた丸井は、仁王に「ブンちゃん」と呼ばれてハッとした。




仁「一緒に教わったらどうじゃ?数学とか」



丸「は?何言ってんだよ、大体学年ちげーし、」




そうは言ったものの、やはり気になってチラリと見てしまう。




丸「(…っ近いんだよバカ也が!)」




恐らく無意識だろうが、勉強を教わる赤也とりんの距離はとても近い。


「ここは?」と赤也が質問する度にりんは距離を縮め、『これは…』とりんが教科書を指して説明すれば、今度はずいっと赤也が近付く。



仁王はニヤニヤしながら、身体を震わせる丸井を見ていた。




丸「"赤也はずっとワカメ頭だ"の方が覚えやすいじゃん」



赤「な…!」




「先輩酷いっスよ!!」と叫ぶ赤也に、フンッとそっぽを向く丸井。


不機嫌な様子にりんは首を傾げ、仁王は「小学生か…」と溢した。




突然、ドドドドと階段をかけ上がる音と「あーかーやー!」と叫ぶ声にビクゥッとするりん。




「ちょっと聞いてよ赤也!!」




足音が近くで止まると、同時にバンッと部屋の戸が開く。



そこに仁王立ちしていた女性が赤也の家族だとわかったのは、同じような癖っ毛をしていたから。


「姉ちゃん!」と驚く弟の他に、来客がいると気付いた姉は「あら」と頬に手を添えた。




「丸井くん仁王くん来てたんだ」



丸「コンチハー」



仁「お邪魔してるぜよ」




ガムを膨らませながら手を上げる丸井と、軽く頭を下げる仁王。

次にりんを見た姉は「誰かの彼女?」と率直な感想を述べた。




赤「ちげーよ、後輩のりん。りん、これ姉貴」



『は、はじめましてっ』



「はいはじめまして。へ〜あんたが女の子連れてくるなんて珍しいじゃん」




「こんな可愛い子うちの学校じゃ見ないなぁ」と、正座しているりんをまじまじと見る。


「てか何かあったのかよ」と赤也が尋ねると、「そう!」と姉は思い出したように手を叩いた。




「和ったら酷いのよ!?バレンタイン限定のチョコプレートが食べたくて、1ヶ月前からお店予約してたのに……急に部活の合宿が入ったとか言って!」




りん達の存在も忘れ、「本当ありえない!!」と姉は力の限り叫んだ。



赤也と2つ歳の離れた姉。

丸井や仁王は既に知っているみたいだが、りんは"和"という人は恋人なのかなと察した。




赤「姉ちゃんの気合いの入れようが恐すぎて嫌になったんじゃん?」



「よーし赤也、歯ぁ食い縛れ」



赤「ごめんなさい」




謝りながらも、嘘は言っていないと心の中で思う。


姉弟の会話を聞きながらチョコプレートに惹かれていた丸井は、「何処の店っスか?」と尋ねた。




「表参道のpetit amour-cafeってとこ。超人気店で、中々予約とれないの」



丸「そこ知ってる!ケーキが超絶美味いところだろぃ?」




スイーツが大好きな丸井はキラキラと目を輝かせる。

「じゃあ丸井くん行く?」と唐突に誘われて、「ええ!」と今度は目を丸くした。




赤「何だよ姉ちゃん、丸井先輩に乗り換えんのかよ」



「は?何バカなこと言ってんの。違うわよ、バレンタインのプレートがカップル限定だから、」




「誰か女の子誘って行って来たら?」とさらりと提案する。




丸井が女の子からお菓子を貰っている光景を良く目にしているので、赤也の姉が言ったことは何ら可笑しくない。


しかし、当の本人は誰でも良いわけじゃなく……




丸「だ、誰かって…」




丸井は一瞬固まった後、無意識の内にりんに目を向けていた。



その空気を感じ取った赤也は、ある事がピン!とひらめく。




赤「じゃありんと行けばいいじゃないっスか!」



仁「確かに。ブンちゃんと一番仲が良い女子はお前さんぜよ」



丸「な…!///」




ブンちゃん言うな!と赤い顔で抗議するもの、"一番仲が良い女子"という言葉は否定しない丸井。




こうして、皆の視線は自然とりんに集まった。







『……ふぇ?』
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