beloved

□迷路
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*りんside*



〈喉の風邪を引いてしまったので、暫く電話に出られません〉




『(ごめんなさい、)』




綴った内容を確認してから、ピ、と白石さんにメールを送信する。



大阪へ行ったあの日以来、白石さんとはメールも電話もしてない。(年賀状は届いたけど…)




理由は、お正月で忙しいのかもと思ってしまって、自分から連絡出来ないこと。


あと…電話越しの声を聞いてしまえば、絶対絶対、会いたくなっちゃうから。




『(やっぱり…)』




今更、こんなことを思うのは可笑しいのかもしれない。




だけど…やっぱり東京と大阪の距離はすごく遠い。





今日、皆と会えたように、白石さんにもすぐに会えたらいいのに。



1日の些細な出来事を、顔を見て伝えられたらいいのに。





トントンと軽くノックをする音が聞こえて、慌てて部屋のドアを開けた。




不「りんちゃん、この本の続きあるかな?越前がりんちゃんの部屋にあるって言ってたから」




不二先輩はニッコリ笑って、以前お兄ちゃんに貸して貰った推理小説を見せた。



すぐにコクリと頷き、本棚を探す。
読み終えたばかりの本はすぐに見付かり、たたた…と小走りで先輩の元へ持って行った。




不「ありがとう。りんちゃんが推理小説なんて意外だな」



『"おにいちゃんがおススメだっていうから"』




そう書いて微笑むと、不二先輩は「そっか」といつもみたいに優しい笑みを浮かべた。




菊「いぇーい!ウノ!!」



桃「えー英二先輩もうスか!?」



リョ「ドローフォー」



桃「よくやったぜ越前!」



菊「何だよ何だよおチビー!!」




隣の部屋から響いてくる、楽し気な声。


お兄ちゃんと桃城先輩と菊丸先輩は、ウノで盛り上がってるみたい。



海堂先輩はカルピンと遊んでくれてて、乾先輩と河村先輩は、外でお父さんに付き合ってテニスをしてて、そして大石先輩はお母さんの話に付き合ってくれてて…(ほ、ほんとにごめんなさい)




心の中で頭を下げていると、不二先輩がクスリと笑った。




不「りんちゃんはこんな時でも他人の心配するんだね」



『?』



不「裕太も、同じような風邪引いた時は辛そうだったから」




それを聞いて、裕太さんも?と不安が軽くなる。


不二先輩はじっと私を見つめながら、「早くりんちゃんの声聞きたいな」と微笑んだ。



"私も早くせんぱいたちとはなしたいです"と綴っていると、「…でも」と続く。




不「言葉がない方がいい時もあるよね」




それって…?と意味を考えていると、「りんー!」と下からお母さんが呼んだ。



不二先輩と一緒に階段を下りていくと、リビングに近付く度聞こえる声が大きくなる。

そこで、はたと足が止まった。




「おっいC〜!」



「やっぱ炬燵にはミカンだよなー」



『(あ、あれ?この声って…)』




もしかしてと思いながら扉を開けると、「あ、りんちゃ〜ん!」と炬燵から手を振るジロちゃん。
「お邪魔してるぜ」とニッと笑うがっくん………




『(!ジ、ジロちゃんがっくん!?)』




何でここに?と言いたいのに、代わりにケホッと咳が出てしまう。


後ろにいた不二先輩が気を利かせて、「何で2人が?」と聞いてくれた。




芥「りんちゃんと一緒に初詣行きたくて、誘いに来たんだ〜」



岳「そしたらおばさんが入れてくれてさぁ」



倫「岳人くん、ジローくん、ミカンいっぱいあるからね」



『(いつの間に名前聞いてる…!)』




まるで前から知っていたかのように、お母さんは2人と接している。


その適応力の高さに何だか恥ずかしくなっていると、「りん、」とお母さんに手招きされた。




倫「やるじゃないの。こーんなにたくさんの男の子に誘われるなんて……あ、大丈夫よ、蔵ノ介くんには黙っておいてあげるから」



『!』




耳元でヒソヒソと話し、ウィンクするお母さん。


「誰と一番仲がいいの?」と聞かれて、ボードの存在も忘れポカポカとその肩を叩いた。




岳「よし、じゃあ初詣行こうぜ!」



芥「わーい!りんちゃん行こ、行こーっ」



『(ゎわ…!)』




ぐいぐいとジロちゃんに腕を引かれて、言葉を綴る暇もなく玄関の外に連れていかれる。


慌てて靴を履き直していると、「あー!!」という叫び声と共にドタドタと階段を下りる音がした。




菊「りんを連れていくな!」



岳「何だよ菊丸、ちょっとくらいいーだろ!」



芥「そうだC!青学はいっつも一緒にいるじゃん!」



『!"ケンカしないで"』




菊丸先輩が慌てて私の腕を掴むと、今度はジロちゃんが反対の腕を強く握る。


右へ、左へと引っ張られて、皆には私が書いた文字なんて目に入っていない。




芥「あ!マタタビ!」



菊「ほぇ?」




菊丸先輩が気を逸らした隙に、ジロちゃんとがっくんは私の腕を引いて走り出した。



後ろから「あー!騙したにゃ!?」と先輩の大きな声が響く。


猫だまし…と呑気なことを思っていた私は、ハッと気付くと慌ててボードに書いた。




『"すぐかえります"』




手を引かれながら、しょんぼり肩を落とした菊丸先輩が、不二先輩に慰められているのが見えた。





















芥「ねーねー2人は何お祈りしたの?」



岳「ばっか、人に言ったら叶わなくなるんだぞ?」



『"いっぱいお祈りしたよ”』




あれから、ジロちゃんとがっくんと神社まで行き、3人でお参りをしました。



出店で買った袋の綿あめを3人で分けながら商店街を歩いていると、「そーいやさ」とがっくんが切り出した。




岳「何でボードに書いてんだ?普通に喋ればいいじゃん」




このタイミングで聞かれたことに戸惑いつつ、のどがいたくて…とボードに綴っていく。


ばっとそれを見せた瞬間、「こら岳人!!」という声が響いた。




「お前は店番サボって何やってんだい!?」



岳「げっ母ちゃん…!」



「ジロー!!あんたも今まで何処ほっつき歩いてたの!?」



芥「わ、わ、お母さん…!」




隣同士にあるお店から、ほぼ同時に飛び出してきた女性。

2人共顔や髪型がそっくりで、すぐにジロちゃんとがっくんのお母さんだってわかった。



襟首を掴むと、「あらっ」と少し驚いたように私を見る。




「ごめんなさいね、うちの子が振り回しちゃって」




慌てて手と頭を横に振ると、がっくんに良く似た笑顔で笑った。



「ほら行くよ!」とお母さんが引き摺ると、「嫌だC〜助けてりんちゃん!」と暴れるジロちゃん。



がっくんも同じようにお店の中に引き摺られていき、私はぽつんと佇むしかなかった。




『(そっか、隣同士なんだっけ…)』




"芥川クリーニング""向日電器"と書かれたお店を見上げて、冷静にそんなことを思ってしまう。



取り合えず、お兄ちゃんにメールしなきゃと鞄を探っていると、「りん様?」と後ろから声を掛けられた。
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