beloved

□travel!! 前編
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*りんside*



気付かなかったけれど、このレンタカー…随分広い気がする。


改めて車内をキョロキョロと見渡していると、「りんちゃん?」と隣に座る紅葉さんの声がした。




紅「どうかしたん?」



『えと、車大きいなぁって思って…』




私がそう言うと、紅葉さんはきょとんと目を丸くしてから「ああ、これな」と笑う。




紅「オサムちゃんが競馬で当てたらしいねん。最近儲けええらしくてな」



『そうなんですか?』



紅「まぁ、昔からコツコツ貯めてたみたいやからな、ああ見えて」




紅葉さんの説明を受け、私はほぅ…と感心して運転席に座る渡邊先生を見た。

競馬って難しいっていうのに、すごいなぁ。



紅葉さんは「ん、食べる?」と苺味のポッキーを差し出した。
どうやら、私が考え込んでいた時も同じことをしてくれていたみたい。


それをありがたく受け取った時、金ちゃんの「上がりや〜!」という声が車内に響いた。




金「3回も勝ったでー!」



千「金ちゃん強かー」



謙「うお、俺負けそうやん!」




席を反対向きにして座り、皆はトランプで盛り上がっていた。


私はそのことより、この状況の中で、本を読んだり瞑想したり出来る小石川さんと石田さんに驚かされた。


財前さんも、まるで視界に入っていないようにヘッドホンを耳に当ててるし……




小「このままやと罰ゲームなのぉ?そーなのぉ?」



ユ「な、小春を1人置いて罰ゲームなぞさせへんでぇ!」



小「ユ、ユウくん…!」




トクン、という音が聞こえてきそうなくらい、周りに花を咲かせる小春さん。

ユウジさんと夫婦のような会話をし出しても、皆は気にせずにトランプを再開していた。




金「りんと紅葉もやろ〜で!」



『う、うんっ』



白「金ちゃん、車の中は静かにし」




助手席に座っていた白石さんに振り返りながら言われると、「なんやー」と金ちゃんは頬を膨らませた。




金「楽しんでええやんか!白石はほんま頭固いわぁ」



白「…言うこときかれへんの?き、ん、た、ろ、う?」



金「ひぃ…!ど、毒手は嫌やぁ!」




片手を上げ、包帯をほどこうとする白石さんに、金ちゃんは怯えた顔で手を横に振った。


私も同じように顔を青くしていると、白石さんとばちっと目が合う。
にっこりと柔らく微笑まれて、青い顔はあっという間に朱に染まった。




白「りんちゃん、大丈夫?具合悪いようなら言うてな」



『は、はい、ありがとうございます!』



金「むー白石はりんにだけ優しくてずるいわ!」



『!そんなこと、』




ない……と言おうとしたけれど、確かに白石さんが冷たかったことなんて一度もない。


でも、白石さんは皆に平等に優しいと思うな。

今だって、渡邉先生に道を教えていたり、常に周囲に気を配っているし…
少しだけ、お母さんみたいだけれど。




紅「そーいや、りんちゃんのお兄さん、修学旅行行っとるんやって?」



『はい。えと、スイスに1週間ほど……』



紅「またえらい遠いとこ行くんやなーさすが東京の学校」




「寂しいな」と眉を下げる紅葉さんに、胸がチクリと痛んだ。


お兄ちゃんを思うと、もう着いた頃かなとか、寒くないかなとか、そればかり考えてしまう。


でも…私が笑っている方が、お兄ちゃんも安心して楽しめるってわかったから。




『…だから、白石さんが電話してくれて、旅行に誘ってくれて、本当に本当に嬉しかったんです』




気持ちが表情に溢れ、自然と微笑んでいた。


「うちもりんちゃんがおってくれて良かった」と紅葉さんが言ってくれたから、私はもっと笑顔になっていた。




渡「良かったなー白石?」



白「……〜〜〜…っ」




バックミラーから見ていた白石さんが、顔を赤くしていたことには気付かずに。


私はただ、これから行く先に期待に胸を弾ませていた。

















金「うおおーでっかい旅館やなー!!」



謙「見てみぃ!あっちに海が見えるで!」



『わ、カニが、カニがいますっっ』




車から降りた途端に、わーわーとはしゃぐ金ちゃんと謙也さん。
目の前に建つ大きな旅館に、私も一緒になって目を輝かせた。




千「むぞらしかねー」



『本当、可愛い……くしゅんっ』




とことこと歩くカニを千歳さんとしゃがみながら眺めていると、冷たい風に当てられて身を震わせた。


11月下旬、更に海沿いの場所というだけあって、やっぱり肌寒い。



その時、ふわりと暖かいものが肩に掛けられた。




白「着とき、寒いやろ」



『で、でも、すぐ旅館なので大丈夫ですよ…っ』



白「ええから」




掛けられた上着を慌てて返そうと試みる。
それなのに、「な?」とゆっくりとわからせるように話す白石さんに、私はコクリと頷いていた。

すると、優しく口元を緩めたので、寒かった筈なのに頬は熱くなってしまった。



同時に、私達に皆が生暖かい目を向け、財前さんが「早よ入れ」と言っていた。












金「え〜部屋割りって男女別々なん??」




旅館に着くとすぐに担当の仲居さんに案内され、私達は部屋の前にいた。


荷物は既に部屋の中に運ばれているのに、何故躊躇っているのかというと……




小「金太郎さん、しょうがあらへんのよ」



金「嫌や!わいりんと一緒がええ!!」



健「せやけど、りんちゃんは女の子なんやで?」



金「何で女の子やとアカンの?」



謙&銀「「……………」」




金ちゃんが首を傾げると、皆は一斉に黙ってしまう。




『えと、私は一緒でいいよ?』



金「ほんま「「アカン」」」



白「金ちゃん、我が儘言うたらアカンで」



財「大体同じ部屋の何がええねん」




何故か白石さんと財前さんが必死に金ちゃんを説得し、その眼力に力が込められている気がした。


あまりの迫力に、私も金ちゃんと一緒になって後退りしてしまう。




財「遠山と同じ身体しとるけど、こいつも一応女なんやで」



『…!』




財前さんの言葉にガンっとショックを受け、自然と視線を下に向けた。

そ、そうだよね、金ちゃんと変わらないよね……




結局、夕食を一緒に食べるとわかった金ちゃんは、嬉しそうに納得したみたいだった。
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