beloved

□travel!! 前編
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『(白石さん…?)』




今電話していいかと書かれた言葉に、りんは目を丸くしながら慌てて返信しようとした。

その時、着信を知らせる音楽が流れ出す。



りんはわたわたとしながら、それを耳に当てた。




『は、ははい…!』



《あ、りんちゃん?今大丈夫?》



『だだだ大丈夫です!』



《…ほんまに?》




『はいっ!』と大きく顔まで振るりんに、白石はくすくすと笑いながら《良かった》と言った。




《あんな、いきなりなんやけど…明日、旅行行かれへんやろか》



『…ふぇ、りょ、旅行ですか?』



《金ちゃんが福引で、熱海旅行当ててな。りんちゃんも一緒にどうやろー思うて、》




白石から電話が来ただけでも驚いたのに、聞かされた内容は更に上をいくものだった。


なかなか返事が貰えないので、《堪忍な、急で…》と白石の不安気な声がする。




《紅葉もおるし、皆もりんちゃんに会いたいうるさくてな》



『…私も、一緒でいいんでしょうか?』



《?当たり前やろ》




何の躊躇もない白石の言葉を聞いて、りんは嬉しさが込み上げてくるのがわかった。


《ほんまは俺が一番会いたいんやけど》とさらりと電話越しに言われ、りんの顔にカァァと赤みがさす。




りんの答えは決まっているが、両親の許しが必要である。
『また連絡します』と一旦通話を切ることにした。

















『じゃあ、いってくるね!』




翌朝ー…

元気に手を振るりんに、「気を付けてね」と倫子が鞄を渡した。
1泊2日の予定であったので、荷物も少な目である。




倫「白石さんに宜しくね」



『う、うん///』




意味深に口元を緩める母に顔を赤くしながら、りんは慌てたように扉を閉めた。




倫「(元気になって良かったわ)」




リョーマが修学旅行に行くと知ってから、元気のなかったりん。


本人は必死に隠そうとしていたみたいだが…周囲にはバレバレであったのだ。




…一方、寂しさと葛藤している人物もここに。




南「…父親っていうのは寂しい生き物よ」



菜「おじ様……」




旅行を許したもの、娘が離れていく不安を南次郎は感じていた。


1人縁側に腰掛け、何処か小さく感じる背中に菜々子は声を掛けようとするが、




倫「そうね。でも新聞とエロ本が逆よ」



南「!!」




「違うんだ母さん…!」と慌てて弁解する声は、冷めた目を向ける女性陣には届かなかった。


















練習試合があったので、皆は東京に来ているとのこと。


目的地まではレンタカーで一緒に行く予定になっていた。




駆け足で向かっていたりんは、遠くに長身の人影が見えると反射的に足を速めていた。



段々とはっきりしてきた影に、心臓の辺りがトクントクンと鳴り出す。




『(…わ、)』




ゆったりとしたニットも、細身のジーンズも、彼が着ると更に良く見えるから不思議だ。


りんが無意識に見惚れていると、前を向いていた筈の彼はここを見ていた。




白「りんちゃん!」




途端、嬉しそうに名前を呼ぶ白石にキュゥゥと胸が締め付けられて。


『はぅ…』と痛みに耐えながら、りんも笑顔で近付いていった。




『しら……はゎ!?』




嬉しさを隠しきれずに走っていくと、ぎゅっと抱き締められてしまった。


混乱した頭を整理する間もなく、「会いたかった」と背中に顔を埋めて囁かれる。



腕を解かれた時、漸く相手の顔を見ることが出来た。




『び、びっくりしました…』



白「ごめんごめん、嬉しくてなぁ」




ふわっと笑う白石を見上げ、りんはドキンと鼓動を鳴らした。


私も、と言おうとすれば、白石の頭がスパーンとハリセンで叩かれる。


「何すんねん…」と頭の後ろを押さえる白石と同時にりんも振り向くと、呆れ顔の紅葉の姿。




紅「それはこっちの台詞や!ここ何処やと思うてんねん」



『(そ、そうだった!)』




人通りが少ないといえども、道端である。
りんは慌てて周囲を見渡し、見られていないとわかるとほっと肩を落とした。




渡「おーいつまでも再会しとらんで、早よ乗りや」




見られていないと思い込んでいたりんは、紅葉の隣にいたオサムに驚いた。




『こんにちはっえと…本日は宜しくお願いします!』



渡「ははっそないかしこまらんでええって」




「こちらこそ、よろしゅうな」とオサムに頭を撫でられ、りんは安心して面を上げた。


『つまらないものですが、』と母から事前に持たされていた手土産を差し出すと、「お、美味そうやなー」と喜んでくれた。




渡「さ、りんちゃん乗った乗った!ほーら白石と紅葉も早よ乗りー?」



白「わかっとりますって」



紅「ちょ、うちはツッコミにきただけやで!?」




納得のいかない様子の紅葉と少し拗ね気味の白石を、オサムは車の中に促す。


りんも一緒に乗り込むと、「りんや〜っ!」とバタバタと走ってきた金太郎に抱きつかれてしまった。




『わ、金ちゃん…!』



金「ひっさしぶりやなぁ〜!!」




ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる金太郎に、りんの表情も緩んでいた。
ぎゅーっと抱き締め返すと、くすぐったいと金太郎も笑う。


そんな彼の身体は、突如乱入してきた手によって後ろに引っ張られた。




金「な、何すんねん光ー!」



財「…………」



『財前さん、こんにちはっ』




じっと無言で金太郎を見下ろす財前に、りんはニコニコと笑い掛けるが。




財「相変わらず、サイズ変わらへんな」



『!!』




ガンっと衝撃を受けるりんをフォローするように間に入ったのは、小石川だ。




健「りんちゃん、久しぶりやな」



小「いやん!りんちゃんったら相変わらずかわええわね〜」



ユ「浮気かぁ!死なすど!」



謙「なかよういこーな!」



銀「むん、よろしゅう」




四天宝寺の皆に歓迎され、りんは『こちらこそお願いします!』とペコリ頭を下げた。




千「楽しみばいね」



金「出発やでー!!」




ばっと手を上げた金太郎と、周りに花を飛ばす千歳。
皆を乗せた車は合わせるように動き出した。
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