Short story

□only this time
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「謙也1人なん?」



「白石にフラれたんか〜?」



謙「うっさいわ」




1人購買で大量購入したパンを頬張っとると、見兼ねたクラスメートの奴等が笑うてきた。


それを適当にあしらい、窓から空を見上げれば何故か溜め息を吐きそうになった。




白「謙也ー」



謙「おー…お帰り」




顔の向きを返れば、ニコニコ笑う親友の姿。

回りに花が飛び散りそうなほど、あからさまに上機嫌やった。



俺の向かい側に座る白石を思わずじーと見てしまっとると、その視線に気付いたのか「何やねん」と苦笑された。




謙「いやぁ、ラブラブやな思うて」



白「ラブラブて…その言い方照れるやん。まぁ実際そうやけど」




何照れとんの!?とツッコミたかったけど、クラスメートからの苦情を恐れ止めた。




この男、白石は
たまにりんちゃんから電話が来ればそれはそれは嬉しそうに頬を緩め、どんなに忙しかろうが颯爽と教室を出て行く。


この前たまたま聞こえたんやけど、(ぬ、盗み聞きちゃうからな!)
「かわええ」とか「俺も早よ会いたい」とか、聞いとるこっちまで恥ずかしくなるような甘い台詞を囁いていた。



あれ聞いとるりんちゃん、顔真っ赤ちゃうかな…




謙「お前…ほんまりんちゃん好きやな」



白「何や染々と…」




笑う白石は、「当たり前やろ」と言っとるようやった。



白石がずっと、誰かを想っとることはわかっていた。


広い世界、再び出会ってお互いに恋に落ちる…そないドラマみたいな話ないやろ思うてたけど。





運命とか、ほんまにあるんやな。


















「謙也のこと、好きなんやけど…付きおうてほしい」



謙「…へ?」




教室のゴミをまとめ、焼却炉に捨てに行っとる最中。

隣を歩いとるクラスメートの女子が、唐突にカミングアウトした。



ポカーンと目と口を開けて固まる俺に、「ボケはいらんからね」とそいつは言った。




謙「付き合うって…男女交際とかそうゆう……」



「あ、当たり前やん。好きまで言うとるんやからっ」




う……う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?
これって、あれやろ?白石がよう部活遅れてくる理由と同じやつやろ!?
こ、ここ告白っちゅーやつやろ!?




謙「(……夢なんか?)」




ムギューっと頬をつねってみても、痛みが虚しく残るだけで。


いつもはツッコんでくれるそいつも、今回ばかりは赤い顔をして俺の返事を待っとるみたいやった。




謙「(ハッあれか?ほんまは白石が好きで、俺を利用する企みか…?)」




毎度のこと、白石のメアドやら好きな女の子のタイプやらを教えて欲しい言われとるからか、疑い深くなっとるみたいや。




「謙也、いつもテニスの練習頑張っとるやん?」



謙「え、」



「そういうのとか、いっつも白石くんのこと気にかける優しいとことか、後輩想いなとことか……ええなって思うたから」




それを聞いて、思わず涙が出そうになった。




謙「(め、めっちゃ嬉しい……)」




俺自身を見てくれていたことが、こんなに嬉しいなんて思わんかった。



涙を堪えながら改めて向き直ると、そいつは恥ずかしそうに俺を見ていた。




その時、唐突に感じた違和感。
それがわからずじっと観察するように見とれば、向こうから明かしてくれた。




「謙也、無邪気な子が好きやって聞いたから……髪も短くして、明るく話すように頑張ったんやで」




頬をピンク色に染め、俺を見つめて笑う。
何や、そのピンクが人工的なものに見えてしゃーない。


確かに、無邪気な子はす…好きやけど、短い髪も嫌いやないけど。




下を向く度、不自然に揺れる長い睫毛や、天ぷらでも食べたのかとツッコミたくなる唇も。




そのすべてに……ぞっとしとる自分がいた。





















財「……で、断ったんスか?」



謙「……断りました」



財「あんたアホやろ」



謙「はい、アホです……」




放課後、ハイスピードで中等部まで行き、財前の教室を訪れた。
椅子を反転させて正面に座った俺を心底面倒くさそうに見ていた財前は、話を聞き終わるなりアホと罵倒した。



ああ、俺は世界一アホな男や。






財「取り合えず付きおうたら良かったやないですか。こんなチャンス滅多にないんでしょ」



謙「そ、そうなんやけど…いつもとちゃうすぎて、可愛く思えなかったんや」



財「…理想高すぎっスわ。女なんか普通化粧しとりますよ」




財前の言うとることは、きっと正しい。


オカンが、女の子は成長する度自分の容姿を気にする言うとったし。(本人は全く気にしてへんけど)




謙「(彼女なぁ……)」




そりゃあ、正面めっちゃ欲しい。


クリスマスとかバレンタインとか、おってくれたらさぞ楽しいやろうなって思う。

お揃いの服着たり、カップル限定メニューとか食べたりしてな。


財前に言うとドン引きされるから言わんけど…




ふと窓の外に視線を移せば、オレンジ色の夕日が綺麗な時で、俺のカーディガンの色とよう似ていた。




財「ま、明日から春休みですけど、後悔せんとってくださいね」




そ、そういやそうやった…!!と黒板に書かれとる日付をばっと見る。


俺はほんまアホや…
もう少しで、彼女とのウキウキ春休みライフを送れるとこやったのに……




白「春休みも部活あるけどな?」



謙「った…!白石?」
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