ふわりと靡いた長く細い三つ編み

あたしを見ているわけではない、黒目がちで知的な澄んだ瞳

長い睫毛

透き通るような真っ白な肌

同い年の筈なのに、私と違って凹凸の少ないスレンダーな身体

すみれ色が似合う、美しい黒の少女

一目惚れしたそのこは、



あたしをちっとも見なかった





彼女は天野遠子といった

そしてあたしは姫倉麻貴という





オケ部で指揮棒を振る姫倉麻貴はとんだ間抜け

籠の中の哀れた鳥、とでも言えば美しくも感じるけれど
遠子にあたしのこんな姿は見せたくなかった


あたしだけのアトリエで
あたしだけを見て欲しい



でもあたしは遠子の恋すらも、愛おしいと感じたの



遠子、遠子、

あのこはいったい、その濁りのない漆黒の瞳で何を見るの?

きっと遠子の瞳に映るものは、あたしと同じ景色でも違って見える筈

きっと輝いて見える筈



あたしの鉄格子越しに見る景色なんか比べ物にならない筈




遠子、遠子、

遠子の全てをあたしは欲した
裸体もだけど、
その瞳に映る全てのものも、
遠子が愛する文学も、
まるで孵ったばかりの雛のように遠子が大事に大事に接するあの繊細な後輩も、

全て見たかったし全て手に入れたいと思ったの




その為ならば好きじゃない家の権力だっていくらでも使った

どうしても遠子が欲しかった




遠子、遠子、


あたしはおかしい

遠子が好き過ぎて、愛し過ぎて、

制御が聞かなくて


いつもいつも怒らせるようなこと言って


嫌われちゃったかしら?
と思う



だけど

遠子があたしを見てくれるならばそれが喩え恨みの籠った嫌悪の眼差しでもよかった

あの穢れを知らない純粋な瞳で
ぐちゃぐちゃに愛されたい


殺してやりたいと思われるくらい愛されたい



それは遠子、あなただから








あたしにないものを持ってる正反対のあなただから



OBなんか、歴史なんかよりもっと大事な、あたしが持ってないものを持つ、遠子だから



あたしはあなたに

恨まれるくらい愛されたいの






遠子、遠子、

愛してる





文学を語る時の嬉々とした顔が好き

何を考えているのかわからないような無表情が好き

辛そうに眉を潜める顔が好き

幽霊やオカルトが苦手でびくびくと怯える顔が好き

それでも気勢を張ろうとしてる顔が好き

意地悪した時のぷぅっと頬を膨らませて見せる顔が好き

拗ねて目を合わせてくれないのは少し悲しいけど、そんな顔だって好き

恥ずかしそうに顔を染めて怒鳴る顔が好き




心葉君のことを話すときの、
恋する顔が、好き













好き、好き、愛してる













遠子が大切にする心葉君の真似して文章なんか書いてみたけれど

やっぱりあたしに文才なんかないみたい



なけなしの文章力で書いたこれを
遠子が読んだらなんていうかしら



肉筆の甘い甘い恋愛のお話が好き
だなんていうけれど
きっとこれを読んだら可愛い笑顔がひきつるわ

いくら肉筆で、恋愛について書かれていたとしても
こんなの読みたくないに決まってる



そう、遠子がよくするように料理で例えれば
きっとブラックコーヒーの中にカカオ99%のチョコレートを入れて
それに更にレモン汁をたっぷり入れてぐるぐるかき混ぜたような味がするわね




でも私はこの文章を書いたわ



彼女の愛する人のように

私も遠子を想って文章を書いた













遠子、



私の初恋の女の子














私は遠子に一目惚れ出来て、好きでいられて、幸せだわ


ありがとう









大好きな遠子へ 愛を込めて



姫倉麻貴







†END†




 

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