12/14の日記

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薬研藤四郎の弱いとこ(一薬)
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あなたは4RTされたら「お前が迷った時は、誰よりも先に俺を頼れ」の台詞を使って花本丸の一薬を描(書)きましょう。
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あなたは『親身に人の話を聞いているような態度で弱みにつけこもうとしている』花本丸の一期一振のことを妄想してみてください。
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薬研通吉光
この本丸に顕現したその短刀の生き方というものは、大胆で豪快、よく言えば男前
戦装束と内番衣装で違う種類の靴下に履き替えるマメさを持っているにも関わらず、お茶を入れさせればめちゃくちゃ渋いことがしばしば、キャベツの千切りは1?の太さを誇る
それでも人間の感情には敏感で、繊細で、どこまでも人らしかった

一期一振吉光は、そんな薬研通に不満があった
それはお茶の濃さについてではない
誰にも頼らなさ過ぎるところに不満があった
つまりは、少しくらい甘えてほしいという男心である
薬研が一期にとってただの“弟たちの中のひとり”であった時から甘えられた記憶はない
それは所謂恋人同士と呼ばれるような仲になってからも変わらず、むしろ顕現したのが遅かった一期の方が面倒をみてもらっているような時すらあった

そんな現状に小さな不満を抱くなか、その日、一期は独りでいる薬研を見付けた
いつも兄弟に囲まれている一期も同じだが、薬研が独りというのはなかなか珍しい
医務室、と銘打たれ宛がわれているひとり部屋に居るときだって、大抵は誰かしらが入り浸っているのが殆どなのに
その日、薬研は独りでいた
畑が見える木陰の中だった
少し迷ったが、一期は薬研のところへ向かうことにした
静かに歩いていたはずだったが薬研はすぐに一期に気が付き、ほんの少しだけ目を細めて柔らかく笑った
一期は忍び寄るのを止めてがさがさと近付く
薬研はやはり、畑の方を見ていたようだった

「どうしたいち兄、ひとりなんて珍しいな」

「お前が独りでいるのが見えたからね」

この二人が懇ろの仲なのは本丸全体が知っている周知の事実なのだが、どちらも公私混同を分けるタイプで、昼間は殆どの時間を共にしない
完全な休日と決まっている日や職務の終わった夜くらいしか二人きりでいることはなく、仲睦まじい姿を他人が見るのはなかなかの難易度だ
その日、薬研は出陣した後だったし一期もちょうど手合わせが終わったところで、この後予定は無いものの、このような日にこのような昼間から二人きりになることは本当に珍しかった

「花を見に来たんだ」

薬研は言う

「花?」

「ここらに薬草になる花が野生してるって秋田に聞いてな。見に来た」

一期は辺りを見回すが、花らしきものは生えていない
木が陰を作って仕舞っているからか小さな花など見付からず見るからに頑丈そうな草が生えているばかりだ
一期がそれに気付いたことに気付いたのか、薬研は

「畑の横って聞いてたが、こっち側じゃなくあっちだったみたいだ」

と苦笑して見せた
薬研の言葉に嘘はないのだろう
だが場所が違ったことに気付いてもなおここに留まっている理由を、そもそも秋田に聞いた場所なのに案内を頼まず独りで来た理由を、一期はどうしても聞きたかった
甘えてほしかった

「それが、ここから二人を眺めている理由?」

薬研は驚いたように一期の顔を見た
踏み込んでは来るまいと油断していたのだろう
一期は薬研の頭に手を置いた
薬研はこのような接触を拒まない
その相手が誰であっても

「薬研、私はね、お前が迷った時は、誰よりも先に私を頼ってほしいと思っているよ」

やはり薬研は拒まなかった
ゆっくりと瞬きをし、一期の手を頭から退かしてそのまま自分の頬へと持っていく
薬研の頬は冷たく、一期の手のひらはあたたかかった
薬研は視線を畑の方へと戻し、小さく息を吐いて、一期の手を解放した
ゆっくりと口を開く

「あの二人が、ああやって笑っ……ってはないが、…楽しそうに言い争ってるのが、すごく平和だなって思っちまってな」

薬研の視線の先には今日の畑当番、長谷部と宗三がいた

一期は今日薬研がどこに出陣していたのかを思い出す
今の本丸はなんとなくぴりぴりとしている
それは時の政府が訓練場を用意した時特有の空気だった

「……不動行光は見付かりそうかい?」

織田家に関係のある刀だと聞いている
勿論、薬研にも関わりがあるのだろう

「まだなんとも言えないが、大将は待ちに待っている。必ず連れてくるさ」

「そうか…」

薬研の言葉ははっきりと強かった
きっとその言葉通り、薬研は必ずその短刀を連れてくるだろう
そう思える強さだった

「だから俺っちは迷ってなんていられねぇ。新しい刀が増えるのはいいことだ、この本丸にとっても来る刀にとっても。ここで、俺たちはなんでも出来る。メシを食える、馬の世話も、兄弟たちと鬼ごっこだって出来るし、…恋も出来る。そしてなにより、刀の時に言えなかった言葉が伝えられる。別れた仲間とまた会える」

だから早く見付けてやらねぇと、
と呟く薬研は楽しそうな、やる気に満ちたような表情を浮かべていたが、一期は聞き逃さなかった
薬研は今はっきりと、『迷ってなんていられねぇ』と言った
つまり、迷っている、と

「薬研」

一期は弟たちに頼られるのが好きだ
でもそれとは違った感情も、薬研には向けていた

「薬研、私は、お前が迷った時、誰よりも最初に、私を頼ってほしいんだよ」

ゆっくりと先ほどのセリフを繰り返すと、
薬研は、いち兄には敵わねぇな、と小さく笑った

「あいつら、楽しそうだろう?“今”がすごく楽しそうだ。それは俺もだ。俺も、“今”がすごく楽しくて、幸せだ。だから…新しい刀が来て、もし何かが変わっちまったらどうしようって思うんだ。現状維持でいい。これ以上はいらない。俺は、変化が、…怖いんだ」

弱い言葉を、初めて聞いた
薬研の弱い言葉を一期は初めて聞いた気がした

「そうか…、話してくれてありがとう、薬研。私には、織田の彼らがどんな関係だったのかはわからない。今後新しい仲間を迎えてどう変化していくかも。でも、きっとそれはいい変化だよ。ここの生活は穏やかだ。時間はかかるかもしれないが、新しい彼ともきっといい関係を作れるはずだ。心配することはないよ」

頭をぽんぽん、と撫でると、今度は薬研もその手を退かしたりせずに、外見に相応しい幼い顔でにっと笑った

「ありがとな、いち兄。これからは、ひとりで悩まずにまずいち兄に頼ることにする」

その言葉に、一期ははっと息を飲む
その、まるで一期のために用意されていたかのような言葉を聞いて、一期は初めて自分がどれだけ傲慢なことを言っていたかに気付いたのだった

薬研は、
ありがとう、すっきりした
なんて薄っぺらい感謝を述べて、帰ろうぜ、と本棟の方へ帰ろうとする
しかしそんな薬研の言葉より、自分の言葉の方が薄っぺらで中身なんかなかったことを一期は思い知る

甘えてほしい、なんて、頼ってほしいなんて、ただの自己満足でしかないのだ
一期が一期の矜持を満たしたかっただけ
恋人に頼られる自分に陶酔してただけ

「薬研!」

一期は、帰ろうとする薬研の腕を急いで掴んだ
薬研は振り向き、優しくやさしく一期を見る

「どうした?」

本当にやさしい笑みだった
気を遣わせた
薬研は一期のそんな自己陶酔を見抜いていて、それでいて一期が望むように弱さを見せ、頼ると言ってくれたのだ
この大胆で豪快で誰よりも男前で、それでいて誰よりもヒトの感情に敏感な恋人に、気を遣わせたのだと一期は理解し、
どうしようもなく恥ずかしくなる

「薬研、私、お前にそんなこと言わせたかったわけじゃ……すまない」

薬研は笑う
ちょっと困ったように眉を下げて、一期を気遣う

「どうしたんだ?いち兄」

それが耐えられなくて、一期は自分が情けなさ過ぎて、薬研の肩を掴んでこちらを向かせた
その肩は思っていた以上に細く薄いことを一期は知っている
この肩に掛かっているものが誰よりも重く大切なことも知っていたはずなのに

「私はお前に気を遣わせたいわけじゃないんだ。すまない、すまなかった。甘えてほしいなんて、誰よりも最初に頼ってほしいだなんて、ただの私の傲慢だね。私はただお前に頼られる自分でいたいだけだった。すまない薬研。私は自分が、恥ずかしい…」

いきなりそんな告白をされた薬研は思わずぽかんと口を開ける
肩を捕まれる力が強すぎて少し痛いが、それ以上に一期から発せられた懺悔の方が気を引いた
すまない薬研、と項垂れる一期を見て、薬研は捕まれた肩を震わせる

「………」

「薬研?」

一期が薬研の顔を覗き込むと、薬研は、肩を震わせて笑っていた

「薬研!?」

「いや、すまねぇ、だが…くくっ。それに気付いて謝っちゃうあたり、ほんと、いち兄、面白いな…」

「面白い!?」

堪えきれないとでも言うように身を捩って笑いだす薬研を一期は呆然と眺める

「だって!そんなの黙ってればいいだろ!気を遣わせた、なんて、そんなの口に出す方が野暮だろ…!でもそれを、くくくっ、言っちゃうのがいち兄なんだなぁ、あははっ!…ああ、いち兄、ふふっ…、俺はあんたの、そういうところが大好きだぜ?一期」

一期の“恥ずかしさ”に別の恥ずかしさが加わる
いい加減薬研の肩から手を離すと、薬研は本格的に笑い始めて仕舞った

「〜〜っ」

なにがそんなに薬研のツボに入ったのか考えるが一期にはわかるはずもなく、しばらくの間薬研が笑い終えるまで、薬研が爆笑する姿をただ立ち尽くして眺めていた

込み上げる笑いが収まってきた頃、薬研は言った

「俺っちに頼られたかったってあんた言ったよな?恋人に頼られんのは存外嬉しいもんだってわかったろ?じゃあな、一期一振、俺もひとつ教えてやるよ」

「え?」

「恋人から、“頼ってほしい”なんて甘えてもらえるのも、なかなか悪くないものなんだぜ?」

「……!」

「俺の弱いとこ全部見てくれ。その分、俺もあんたの傲慢や矜持なんかを全部、ぜんぶ、見ててやるから」

一期一振の恋人は、薬研藤四郎という、
大胆で豪快
ヒトの感情に敏感で繊細な心を持っていて、
それでいて世界一、男前な短刀だ

一期はこの恋人に今日も勝てない
明日も勝てる気がしない
一ヶ月後も一年後も、ずっとずっと勝てる気がしない
だからいつか一期が勝てるように、十年後も百年後もずっとずっとそばで弱みを探さなくてはいけないな、と一期は思ったのだった


END

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