12/21の日記

00:07
もう虹は探さないで(主清)
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雨がやんで、虹が出ていた
洗濯物を干せるかどうかを確認するため空を見上げた加州清光がそれに気付き、なんとなく、本当になんとなく、その事を隣の審神者に伝えた

「ほんとだ、見事だね」

綺麗に半円を描くようにかかった虹を見て審神者は淡々とそう言う
加州も淡々と、「ね」と一音だけ返した

足元には宝が眠っているだとか、神との約束の証だとか、いろいろな言い伝えがあるそれを、信じる気も信じたい気もありはしないが、加州はそれらを使ってどうにかして会話を繋げたいと思った
表情が窺えない顔をした審神者が、それでもずっと虹を眺めているからだ
特になんの感情も抱かない、といっと顔をしながらも視線をそこから動かさないから、加州は虹に対して何かを言わなければいけない気になった
審神者がどの話題になら食い付くか、慎重に吟味しなければならない

「あれってさ」

へんなところで言葉を区切って仕舞ったが、審神者はまだ虹を見詰めたままだった

「うん?」

「橋だっても言われてるよね。あの世と、この世の」

審神者は何も言葉を返さなかった
返したくなかったわけではない、返せなかったのは、息が詰まったからだ
口からは何も出てこなかったが、その代わり、審神者は袖から手を出して、気付いたときには加州の左手を掴んでいた
殆ど無意識だったから、掴んだ審神者も掴まれた加州も驚いて目を見合わせる
審神者の口が開いて、また閉じる
言葉が出てこなかった

「……どこにも、行かないよ?」

加州が優しくそう言うのにも審神者は上手く返事が出来ず、ただただ握った手に力を込める
審神者の手はひんやりとしていた

「行かないよ」

「……行きたいのなら、構わない」

手に力を込めながらやっとのことで口に出したセリフがそれだったから、審神者は自分が可笑しくなって少し笑う
下がった眉で、無理矢理口角を上げて、言葉を続けた

「離せる気は、しないけど」

矛盾だらけの言動に加州もついに吹き出した
眉を下げて笑って、「知ってる」とだけ答えた

虹はいつの間にか消えていた



END

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