12/18の日記

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◎◎さんと乱ちゃん(乱+主→清)
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※数珠丸捜索中、次にボスドロした子とうちの創作審神者さん(加州清光に片想い中)とで一本書く、というお遊びをしていて出来たもの、お題はTwitterのとあるところから借りています








「あるじさんって、結構可愛い顔してるよね」

乱から発せられたそんな言葉に、審神者はうえっ、と眉を寄せて渋い顔をした

「お前、お世辞ならもうちょっと信じられるようなこと言えよ。根拠無さすぎて嫌味かもしくはなんか裏があるとしか思えないわ」

「そんなんじゃないよ酷いなぁ。ただボクは、化粧映えしそうな顔だなぁって思っただけなのに」

「あぁ、そういう…」

化粧映えしそう、なんて実際には褒め言葉には程遠くて、審神者は逆に安心する
顔の良く似た自分の妹のことは「あいつより綺麗な人間は見たことない」と言って憚らないのに、自分の顔については正常な判断を出来ている審神者なのである

「どうせ私の顔はのっぺりしてますよー」

「あっはは、そういうわけじゃないって!」

広間に審神者の乱の二人きり
その日はとてもいい天気で、遠征の者以外は殆ど外で遊んでいた
室内に残っているのは、厨当番とその手伝いをかって出た面々だ
人数も50を越え、夕飯に向けて餃子を包むのも一苦労なため、手伝いを募ったところ何人か集まってくれた
それで厨にヒトが入りきれなくなり、成り行きで乱と審神者があぶれたのだった
包むだけなら出来るからと広間にテーブルを出し二人でちまちまと餃子を包んでいた

「でもさ、冗談じゃなくてほんとにさ、ちょっとくらい化粧してみない?きっと似合うと思うんだけどなぁ」

「え?私がか?それはなぁ…」

「ちょっとだけでいいからさ!」

「正直めんどくさいなぁ」

「もう!正直すぎー!」

乱はくすくすと笑う
乱の包んだ餃子は綺麗なかたちに並んでいる
審神者はそれを横目で見て、自分の包んだものが見た目を気にする刀剣に怒られないか不安になった

「口紅だけ、いやこの際リップクリームでいいからさ、ね?」

ね?の時に首をこてんと傾げて上目遣いをしてきた乱に素直に可愛いなぁと審神者は思う
その顔に負けたわけではないが、それくらいなら、と気付いたら口に出していた

「本当?やったぁ!じゃあ後で可愛い色のリップ持っていくね!ボクはオレンジ系統が似合うし好きだけど、あるじさんはピンクでもいいなぁ、どうしよう!」

わかりやすくはしゃぐ見たことに審神者は微笑ましくなって顔が綻ぶ

「なんだ、今日は随分と張り切ってるなぁ」

乱がここまで食い下がったのは一期と薬研にあの粟田口短刀の内番衣装をお揃いで着て貰おうとした時以来かもしれない
基本的に1度言って駄目だったら言って2度、3度目を言うことはまずない
粟田口内番衣装お揃い事件の時も、顕現したばかりだった一期以外は乱がそういう性格なのを知っているから4度目の『おねだり』で皆折れた
一期も弟の頼みには弱いため、次の日は丸1日、一期も薬研も鯰尾も骨喰も鳴狐も粟田口短刀たちと同じ格好をして過ごしたのだ
あれは素晴らしかった、と審神者は想いを馳せる
それに比べて今回は、あんまり楽しそうな内容ではなさそうだ
自分が化粧しても誰得にもならないのにな、と審神者は思う
しかしまぁ乱が少しでも喜ぶのならなんでもいいのだけれど

「うん、ボク、張り切っちゃうよ!あ、そういえばこの前買ったグロスが結構発色よくて可愛かったんだよね、赤系だし、ボクだとちょっと派手かもって思ったけどあるじさんにはいいかも!」

「あぁ、こないだ付けてたやつか?派手かもって言ってたやつ。普通に可愛かったし似合ってると思ったけど」

「あ、ほんとー?でもやっぱりボクはオレンジ系のが好きなんだよねー」

乱のグロスをそのまま審神者が借りると間接キスになって仕舞うが、二人はそれに気付かないくらいそんなことは気にしないし、ツッコミを入れて止めさせる者も二人きりの広間では存在しなかった

「あはっ、楽しみ。きっと似合うよ、きっと加州もドキッとしちゃうんだから」

乱のその言葉を聞いて、審神者は一瞬、餃子を包む手を止めた
なるほどそういう魂胆か、と少し眉を寄せた

「乱」

「ん?」

「やっぱりやめよう?」

「えっ!?」

審神者は初期刀であり近侍である加州清光が好きだった
そしてそれは周知の事実で、審神者のその感情を否定的にみる刀剣男士は今はいない
しかし、審神者は加州と今すぐどうにかなりたいなどとは考えていないのだ
ただそばにいられればそれで、
と思っていた

「なんで?きっと加州も似合うって言ってくれるよ」

「うん、そうだね。だけど私は……現状維持でいいんだよ」

乱は水色の宝石のような瞳をすっと細める

「怖いだけだよね?変わるのが。ダメだよ。ボクたちと違ってあるじさんは“変化”しなきゃ、成長しなきゃ。あるじさんが停滞しちゃったら、この本丸全部が止まっちゃうんだよ?」

「………」

言っている意味もわかるし、自分がただ変化を怖がっているだけなのもわかっていたが、審神者はどうしても頷くことが出来ず黙るしかなかった
否定も肯定もせずにうつむいてただ押し黙っていた

「ちょっとずつでいいんだよ。たかがリップだもん、それでいきなり関係が変わるわけじゃないんだから、そんなに怖がることないよ。少しだけ、少しずつ変わっていけばいいんだよ。ね?あるじさん」

「でも私は……、そりゃあ加州が私を好きになってくれたらそれはすっごく幸せだけど、でも、ありきたりな言葉だけど、自然な私を好きになってもらいたいし、女の子みたいにして好きになってもらいたいとは思わな……」

そこまで言い、審神者はばっとうつむいていた顔をあげて乱を見た

「気にしてないよ。ボクはこれが自然なんだから、変に気を遣われてもお門違いだよ」

乱は美しく微笑む

「そうだよな、ごめん」

「なにその顔、変なの。…ボクね、この前演練でさ、他の本丸のボクと闘ったんだ。その試合はボクたちの圧勝だったから、多分そのボクも気が立ってたんだと思う。すれ違いざまに『可愛いふりしちゃってさ』って言われてさ」

初めて聞くその話に審神者は今までのやり取り全てを忘れて頭にカッと血が上るのを感じた
それが乱にも伝わったのか、そんなに怒んないでよ、と笑われる

「でね、ボク、全然頭にこなかったの。何言ってるんだろう?って思っただけだった。だってボク、可愛いふりなんてしてなかったから」

乱の笑顔は可愛かった
手に持っているのがニラと挽き肉を捏ね合わせた餃子のあんだったとしても、文句なしに可愛かった

「だってボクが可愛いのは当たり前じゃん」

文句なしに可愛かった

「……はは、そうだな。お前が可愛いのは“自然なこと”だもんな、当たり前のことだもんなぁ」

「うん。そうでしょ?ボクの自然な姿はこの可愛い姿だもん。“ふり ”なんてしてないから、びっくりしちゃった。わかんないなら黙っていてほしいよね」

「その本丸の乱もきっと『可愛いのに強いね!』みたいな意味だったんじゃないか?うちの乱は可愛くて強いからな」

「なにそれ、それこそ意味わかんない。可愛いと強いは反対語じゃないじゃんね」

「それもそうか」

二人は餃子を包みながら笑う

「あー、でも、じゃあ、やっぱりダメかぁ。ボクは可愛いのが“自然体”だけどあるじさんはそうじゃないもんね。自然な姿を好きになってほしいんなら、お化粧作戦はちょっと違うかも」

「ズバズバ言うな、流石短刀。別に可愛くありたいわけじゃないからいいけどさ。『可愛い』はお前や加州みたいなのをいうんだし、化粧作戦もあんまりノリ切れないなぁ」

「さすがの切れ味でしょ?ていうかさらっとノロケないでよね。でもやっぱりダメかぁ、ギャップでちょっと意識させるきっかけくらいにはなると思うんだけどなぁ」

「意識、ねぇ」

あまりにもあり得なさそうで審神者は苦笑して仕舞う
加州清光は私を好きになるような刀じゃない、と本気で思っているのだ
だから審神者にとって現状が最高で、やはり変化は恐怖でしかない
彼が自分を好きになってくれたら、なんて夢物語でしかないのだ

「もっとアピールしなきゃ、変われるものも変わらないよ?」

「変われるのならいいんだけどな」

餃子が100個包み終わる
あんは少し残って仕舞ったが、厨の方でも包んでいるからそちらに合流すればいい

「よし、」

生の餃子を乗せた皿を持って立ち上がる

「ま、化粧はひとまずナシ、だな」

「ええー、残念」

作戦とは別に単純に見てみたいってのもあったんだけどな、と乱は思ったが口には出さなかった
乱はあまり、押しが強くはないのだ
3回以上“おねだり”することなんてまずない
そういう時は大抵、誰かのための“おねだり”なのだ

しかしそれから数週間も経たないうちに、乱と新色グロスで話が盛り上がったらしく珍しくグロスを付けた加州とのお揃いの誘惑に負けて審神者も化粧をすることとなる
乱の小さな欲は叶い、審神者は後から加州との間接キスに気付き爆発した


END

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