12/17の日記

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物吉君が来てすぐの話(※未完)
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「どう?人の身にはもう慣れた?」

加州さんから尋ねられ、曖昧な返事を返す
人間の身体は思っていた以上にボクに馴染んでいて、ほとんど不自由はなかったが、まだ教育係さんのもとを離れて独りで生活するのには不安が残る
まだ、この本丸にいる刀剣の半分も名前を覚えられていなかった

「なんかあったら、誰にでもいいから言えよ?どんな小さなことでもいいからさ。俺たちが独りで悩むの、あの人すごく嫌がるから」

「はい!ありがとうございます!」

そう言うと加州さんは遠くに姿を見付けたようで主様のところへ走って行く
ここに来てまだ3日目のボクが独りでいたことを気にして声を掛けてくれたのだろう
これからボクたちは畑仕事の予定だった
しかし、ボクの世話係の鶴丸さんが道具入れを覗いて、鍬が一本足りないことに気が付いた
こういうのは長谷部に聞けばわかる、少し待ってろ、
と走って行って仕舞い、そうしてボクはひとり取り残されていたのだ
この3日でボクが覚えた名前は、主様と隊長の加州さん、世話係の鶴丸さん、そしてボクの歓迎会の時に近くに座って話し掛けてくれた何人かと、あとわかるのは元々馴染みのある数人かくらいしかいない
ここにはそう簡単には覚えられないくらいたくさんの刀剣男士がいて、
ボクは主様の46振目の刀だった

「おー、お待たせ物吉、なんでもたぬきと御手杵が盛大にぶっ壊したらしい。困ったもんだぜあいつらも。ま、それはそうと始めるか!待たせてすまんな」

「いいえ!でもえっと、たぬきって…」

「ああ、同田貫正国のことだ。どうだぬき、なんだけどみんな略してたぬきたぬき呼ぶなぁ。本人もわりとどうでもよさそうだし、好きに呼んでやれ」

「はい!わかりましたー!」

「いい返事だ。一度教えると大体のことは理解するし、君は本当に教え甲斐があるなぁ」

鶴丸さんが他の刀剣男士のお世話係をやるのは今回が2回目だそうだ
1回目は三日月さんのお世話係で、その時は随分長い間お世話係だったと聞く
そして、加州さんが教えてくれた話では、鶴丸さんとその三日月さんは懇ろの仲なのだそうだ
鶴丸さんに三日月さんとの関係をそれとなく聞こうとするといつもさらりとかわされて仕舞うから、きっと本当にそうなのだろう
はぐらかそうとしているのが逆にわかりやすかった

「畑仕事は常にやることが同じってわけじゃあないから前日の当番から引き継ぎを受けるんだが、今日は基本的な仕事ばかりのようだな。まずは草むしりからだ」

そしてこの本丸には、鶴丸さんたちの他に何組か“そのような”仲の人たちがいるみたいだ
『本丸十戒』さえ守れば恋愛も自由らしい
だからボクは、ここのみなさんの名前をおぼえるのと同時に、誰が誰とどんな関係なのかも覚えなければならなかった


×××


畑仕事を終えた後、水分補給は大切だからと鶴丸さんに言われ共に厨に向かった
その途中、厩の前で言い争いをしている二人の声を見付ける

「あ、宗三さんと…」

「長谷部だな。また派手にやってるな」

「えっと、お二人は仲が良くないんですか?」

ここの刀剣男士たちはみんな刀剣男士になる前の過去の持ち主同士のいざこざにはあまり頓着しないのだと聞いている
対立する派閥もあっただろうが、たとえば加州さんは「陸奥守は『新撰組の刀とは仲良うやれる気がせんのぉ』って言ってるよ。和泉守と晩酌して堀川とゲームして安定と池の鯉は食べれるのか実験しようとして怒られてたけどね」と言っていたし、
鶴丸さんは「1度石切丸と手合わせしてたら互いに昔の感覚を思い出して手合わせ小屋を半壊させたことがあったなぁ、あれは怒られた、あっはっは!」と言っていた
全く知らないふりをするわけではなく、でもそうやって笑い事に出来るくらいには穏やかな関係なのだそうだ
「だから大丈夫、過去のことは過去のことだから」
と言われ、ボクはここに来て本当によかったと思えた
だから、今厩の前で声を荒げている二人も、きっと本当に仲がわるいわけではないのだろう
そう思いながらも尋ねてみると、鶴丸さんは、あー、と苦笑して頬を掻いた

「あいつらが“ああ”な時はあまりちょっかい出さない方がいいぞ。仲が良くないわけじゃあないんだが……巻き込まれるとめんどくさい」

そう言って足早にその場を去ろうとする
それに着いていきながら、なるほどあの二人は“そう”なのか、と頭に記録した

×××


「お、倶利ぼう、光ぼう、お前らもつまみ食いか?」

厨に着くと、燭台切さんと大倶利伽羅さんがお茶を煎れながらなにやら話をしていた

「その呼び方はかっこよくないからやめてって言ってるのにもう!というかつまみ食いって鶴さんと一緒にしないでよね、物吉君巻き込んでなに言ってるのさ」

「……」

「じゃあ何してたんだ?お八つ時にはまだ時間があるだろう」

「なんか小腹が空いたねって話になってさ」

「なんだやっぱりつまみ食いじゃないか」

「かっこよく間食したいよね」

燭台切さんはボクの歓迎会をしてもらった時に、たくさん話し掛けてくれたから覚えている
なんでも貞宗に旧知の知り合いがいるらしいのと、「あまりかっこよくないけど、僕お酒にあまり強くないんだ。だからちょっとここに避難させててくれるかな?」だそうだ
照れたように眉を下げて笑った顔はとても親しみ深くて安心したのをおぼえている

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