12/13の日記

23:59
三日月と骨喰
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「おい」

思った通り、返事はなかった
いきなり肩に掛かった重みに不快を感じ、少し身動ぐ
起こしたら可哀想だ、なんて考えはちっともなかった
むしろ起きてほしい
普通に、重い
そんな骨喰の思いも知らず、三日月は骨喰の肩から退けようとしない
先ほどまで縁側に隣同士に座って談笑していたというのに、今じゃあすっかり物言わぬ地蔵になって仕舞った
いくら身動ぎしてみても起きる気配がないから、骨喰は諦めて三日月の頭を動かす作戦に出た
自分の胸の上を滑らせて、腹の上を転がして、三日月の重たい頭は骨喰の膝の上に落ち着いた
まぁ、いいか
と骨喰は妥協する
脚が痺れるかもしれないが、そしたら文句のひとつでも言ってやろう
それでいい
大規模な移動をしたが、それでもやはり三日月は起きなかった
もしかして狸寝入りか?とも疑うが、頬を引っ張って顔をまじまじ見てみても穏やかな寝顔を見せるだけ、阿呆のように寝こけているから、もう狸寝入りでもどうでもいい、と骨喰は思った

どうして、こんなに穏やかな顔が出来るのだろう

三日月は、強い
しかし、今この瞬間、骨喰がこの白い首に手を掛けたら、三日月は逃げるだろうか
鼻と口を塞いで仕舞ったら
そんなまどろっこしいことしないで、己の刃でその腹を裂いて仕舞ったら
心臓を突いて仕舞ったら
三日月は骨喰から、逃れられるだろうか
骨喰は考える
こいつは何故こんなにも無防備に他人に頭を預けられるのだろう、と
膝に乗せられた三日月の頭を撫でる
髪に触れると指が何かに引っ掛かったから、それを半ば無理矢理外して縁側の三日月が居るのと逆側に置いた
髪を随分引っ張られただろうに、三日月は起きない
起きない
もしや死んだのではないかと思って呼吸を確かめると、口元に持っていった手のひらにふわふわと息がかかってとてもくすぐったかった

「おい…」

思ったとおり、返事はない

「…起きろ」

三日月は起きない
三日月が安心しきって頭を預けてくれる理由を、骨喰は知らない
三日月が骨喰を信用してくれる理由を、骨喰は知らない
覚えて、いない
骨喰は、旧知の者から忘れられる寂しさすらも忘れて仕舞ったのだ
寂しさも悲しさも虚しさも全て炎の中に溶けた
だからあの時、三日月がどんな気持ちで微笑んだのか、骨喰にはわからない

(これから、改めて仲良くしようか)

一生わからない

やわらかな髪を撫でると三日月が少し動いた気がした

「…おい」

しかし少し身動いだだけで、起きるわけではないようだった
あたたかな陽気に、骨喰も眠くなって来たのだ
起きてもらわないと、自分までここで寝てしまいそうで、困る

「おい起きろ、」

「三日月」

三日月は起きない
骨喰は諦めることにした

せめてもの反抗にと、三日月の鼻を摘まむ
このまま口を塞いで仕舞ったら、三日月はどんな顔をするのだろう
骨喰には、わからない



END

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