02/20の日記
18:36
いまもずっとその声を(にょた、葉←宮)
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人は誰かを忘れる時、声から忘れるらしい
という話をどこかで聞いた
それがどんな根拠があって言われていることなのか、ウソかほんとかなんて全くわからなかったが、そんなことはどうでもよかった
ただ、
私は未だにあの声を忘れられない
もしそれが本当なのだとしたら、オレはいったいいつになったら彼女を忘れられるのだろうか
いつになったら、想い出に出来るのだろうか
私は未だ、彼女のことが好きだった
高校を卒業し、大学に入り、バスケを辞め、就職が決まったあたりで一度だけ二人きりでお酒を飲んだ時、オレよりもアルコールに弱い高尾が唐突に言った
「まだ好きなんですか?」
なにが、なんて聞かなくてもわかった
オレはお酒に強いが、高尾だってそれなりに強いのだ
その高尾が、いきなり脈絡のないことを聞いて来るくらいに酔っているということは、オレだって多少は酔っ払っていたのだろう
「まだ好きだ」
オレは箸でアボカドを切りながらそう答えていた
まだ好きらしい
認めたくはなかったのに、酔ったオレは正直に口に出して仕舞った
まだ好き
オレは葉山のことが好き
「連絡、とんないんですか?」
「取れない。わかんねぇ」
「調べる手段なんて、いっぱいあるのに」
「……望んでねぇんだ、オレ」
緑間や高尾を経由して赤司に聞くなり、樋口に聞くなり、手段は高尾の言う通りたくさんあった
連絡をとろうと思えば、すぐにでもとれる
話せる
会える
声を聞ける
でもその経由する誰かのところに、オレ達の間には明白な壁があった
オレにとってもあいつにとってもオレ達は、知り合いの友人でしかない
「好きって、言わないんですか…?」
好きだなんて、言えなかった
オレがあいつに会ったのは、高校3年の冬のコートの中だった
実際にはそれまでも何度も会っているのだが、きっとあいつがオレを認識したのはその時が初めてだったのだろう
試合が終わった後、やけにきらきらした目でオレを見上げて
「あんた、すげぇね!すっげぇ楽しかった!」
と言ったその声を、オレはきっと忘れられない
「またね!」
と告げられたあの言葉を、オレはどうがんばったって忘れることなんて出来ないのだろう
それはまるで呪いのようだった
オレが勝手に掛かった呪い
あの声を思い出すたびに、好きだと自覚するたびに、
オレは誰かに、なにかに、謝りたくなる
ごめんなさい
ごめんなさい
好きになって、ごめんなさい
ごめんなさい
この想いを忘れられるのならどんなに楽になれるだろうかと考えることも多々ある
でも、オレはずっとあいつの声を忘れない
あの焼けるような眩しく熱烈な時間を、忘れられない
「宮地」
今だって、すぐに思い出せるんだ
オレの名前を呼ぶ声を、すぐに思い出せる
間違いなんかじゃない
あいつはそうやって、笑顔でオレの名前を呼んだんだ
楽しそうに笑って、呼んだんだ
「宮地サン。すごく言いにくいけど、自分でもわかってるんだと思うけど、だからこそ言われたくないとは思うけど、でも言いますけどね、
それは、好きとか、恋とか、そういうんじゃなくて、多分、ただの、執着ですよ、宮地サン」
高尾が言いづらそうに言葉を途切れさせながら言った
「…知ってる」
宮地サン
オレ、宮地サンとまた試合したいなぁ
忘れないように、忘れないように、
何度も何度も何度も何度も頭の中で繰り返す
あいつの声を、顔を、目を、口を、耳を、鼻を、眉を、肩を、胸を、脚を、腹を、手を、あいつの指を、忘れられないように
葉山を忘れて仕舞わないように、あいつの声を何度も頭の中で繰り返している
何度も何度も繰り返して、ずっと覚えていられるように
ずっと好きでいられるように
私は葉山が好きなんだ
未だに好きで、大好きで、
ずっとずっと、好きなんだよ
「仕方ないだろ。だって、だって未だに、あいつの声が、頭にこびりついて、離れないんだ」
人は誰かを忘れる時、声から忘れるらしい
ならば絶対に、忘れないように
END
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