02/05の日記

10:12
執着を込めて(葉宮)
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珍しく、心底葉山が好きな宮地の話、というかポエム
いろいろな公式情報を受けて軌道修正した葉宮
※がっつり緑高表現があります
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その男が心底好きだった

煮え湯を飲まされた、絶望とか憎悪とか嫉妬とか、そういう負の感情が、くるりと反転して友愛とか親愛とか嫉妬とかに変わったのはいつだったか

高尾に聞いたことがある
いつから緑間が好きだった?
高尾は苦笑しながら、最初は嫌いで仕方なかったんすよ、と教えてくれた

適わない相手
オレ達凡人が切望したものを持っている奴ら
そんな奴が他でもない自分に笑い掛ける
名前を呼ぶ
認められる歓びに、釘付けになる

高尾はずっと手を伸ばし続けた
何故なら緑間は高尾と同じチーム、同じ学校で同じ学年で同じクラス
ずっと近くにいたからだ
近くにいる分、高尾が望めば望んだだけ緑間は高尾の方を見た
きっと高尾が高尾じゃなかったら、あれだけ人事を尽くす努力家じゃなかったら、いくら近くにいたって緑間は見向きもしなかっただろうが、
努力の人と努力の人、二人は妙に噛み合って、相棒と呼ばれるようになって、
いつからか恋人になったのも、緑間の言葉を借りれば、『運命』だったのだろう
きっと簡単に語っていいものではない、二人には大きな悩みも弊害もあっただろうが、オレからしてみれば、なるようにしてなった、と言えた
くっつくべくしてくっついた、S極とN極みたいなものだった

羨ましいと、思わなくはない
しかし違い過ぎた
同じところは性別くらいだろうか

そいつは、あの時嬉しそうに笑ってオレの名前を呼んだそいつは、次の日にはすっかりとオレの存在を忘れていた
ああそんな人もいたな
なんて言っていたことを知っている
オレばかりが出会ったあの時の記憶を熱烈に胸に持ち、バスケを続けていた
あの野郎、なめやがって、忘れやがって
次会った時は、次に試合する時は、
もう忘れられないくらい、負かしてやる

皮肉なことにそいつに次に会ったのは、バスケを辞めた後だった

大学に入ってから暫くは馴染みのメンバーでストバスチームを組んだりしていたが、学年が変わると忙しさを理由に辞めて仕舞った
本当はもうとっくにバスケに絶望していた
次の世代が入ってくるのが怖かった
あの時笑顔で言った「ありがとな」が心からの笑顔じゃないと気付かれるのが怖かった
多分簡単に気付かれただろう、哀れみの目で見られるのが心底イヤだった
だからバスケを辞めたのに、あの時をきっかけに何故かなついた赤司が連れて来たのは、かつてオレがこれでもかという程に未練を遺していた選手だった

あの時の、
とそいつは言った
オレを一応記憶の片隅には覚えているようだった

ひどく惨めだった

バスケ辞めちゃったんだ
残念だな
なんて言う子どもにひどくいらいらした

そいつらと別れた後、キッチンのシンクに胃の中のものを全て出した
苦しくて涙が滲んだ
低いシンクに合わせて背中を丸めている自分が物凄く滑稽だった
胃液しか出て来なくなった頃、背中をさする大きな手の存在に気が付いた

ごめん、鍵開いてて、勝手に入った
携帯忘れて、ピンポン鳴らしても出ないし鍵開いてたから、心配になって…
大丈夫?

ただ純粋な優しさだった

もしかしてオレが泣かしてる?

確信を付くそいつがやけにムカついた
そんな無慈悲な言葉を吐きながら優しく背中を撫でつけるもんだから、オレはそいつに向けてひどく身勝手な気持ちを吐いた

この野郎、なめやがって、忘れやがって
次会った時は、次に試合する時は、
もう忘れられないくらいに負かしてやるって、そう思ってたのに
そう心に決めてたのに
オレは勝手にバスケに絶望して、
とうとう才能の差に耐えきれなくなって、
…なんで
なんで辞めたのに
なんでバスケを辞めたオレの前に、お前は現れるんだ
諦めたのに
お前に認めさせること、
諦めたのに
なのになんで今
なんでいま現れた
オレをそんなに苦しめたいのか
惨めな気持ちにしたいのか
ギフトが貰えなかったオレの前に、なんでお前は現れた
知りたくなかったのに
お前のことなんか、知りたくなかったのに
お前に認められる歓びなんて、知りたくなかったのに

ひどく滑稽だったと思う
そいつは何も悪くない、何も関係ない恨み言だったのに、そいつはオレの泣き事を黙って聞いていた
ギフトが貰えなかったのはこいつも同じだというのに、心ないことを言ったオレの背中をずっとさすっていてくれた
そしてオレの声がただの泣き声に変わった後、そいつは
ありがとう
と言った

ありがとう
そんな風にオレのこと目指してくれるヒトがいるなんて知らなかった
オレに執着してくれてるヒトがいるなんて知らなかった
ねぇ、諦めないでオレを負かしてみてよ
追い付いてみせてよ
認めさせてみてよ
追い掛けてきてよ

その日からそいつはやけにオレにくっついて来るようになった
やけにバスケを勧めて、ストバスに誘って来た
あん時は悪かった
八つ当たりだった
忘れてくれ
そう言ったが聞いてもらえず、そいつはずっとオレにくっついた

ある日、そいつはあることに気が付いたらしかった

「そっか。高尾と緑間って付き合ってるんだ」

こいつの笑顔以外の表情を久々に見た気がして焦る
あの二人が同性同士というだけで誰かに疎まれるのがイヤだと咄嗟に思って仕舞ったからだ

「宮地も知ってたの?」

なんとか誤魔化そうと口を開きかけたが、そいつが続けた言葉がオレの予想の範囲外のものだったため、動きを止めて仕舞った
止めざるを得なかった


「オレ、あんたが好きみたい」


「……………………は?」

随分間抜けな顔をしていただろう
それでもそいつはオレを好きだと言った

「男同士でもあり得るのなら、オレのこの感情は恋だなって思ったんだよね。オレ、あんたが好きみたい」

「………………………………は?」

高尾はなんて言っていた?
いつから緑間が好きだったか聞いた時
高尾は苦笑しながら、最初は嫌いで仕方なかったんすよ、と教えてくれたんじゃなかったか?
適わない相手
オレ達凡人が切望したものを持っている奴ら
認めさせてやるってずっと思っていて、その執着が
いつからか恋になったって
いつからか愛になったって
そう言ってなかったか
煮え湯を飲まされた、絶望とか憎悪とか嫉妬とか、そういう負の感情が、くるりと反転して友愛とか親愛とか嫉妬とかに変わったのだと、
高尾は緑間に対してそう言ってなかったか?
頬をほんのり赤く染めながら、恥ずかしそうにそう言ってなかったか?

オレは自分の頭からサァッと血が引くのを感じた
まずい
このままじゃ
このままじゃ

こいつを好きになって仕舞う!!!


「お、オレは、オレはお前なんか、だ、だいっきらいだ!!!」


それでもそいつは諦めない
いつかオレに追い付いてね、いつかオレを好きになってね、と笑う

ずるいと思う
こいつはひどい人間だ
告白されたことにより、オレは優位に立って仕舞った
ずっと適わないと思っていた相手よりも優位に立って仕舞った
それをオレは覆せない

本当は好きじゃなかった
勘違いだった
もう好きじゃない

そんな言葉を言われたら、オレはどうしたらいいのだろう
嫌われたくない、捨てられたくない、なんて女々しいことを考える
そいつは昔から強敵を好んだ
だからオレも強敵でなければならない
オレも好きだなんて言って仕舞って、あぁやっぱり好きじゃなかったや、と言われるのがひどく怖かった
ずっと好きでいてほしかった
だから好きになれない
お前に好きだと言えない
お前を好きになっちゃいけない
いつか好きだと言われなくなるのではないかと思うとひどく怖かった
ずっと好きでいてほしい

宮地が好きだよ
一番、好きだよ

わがままなオレはオレのことばかり考える
その言葉をずっと聞いていたい
オレに懇願するように、苦く歯を食い縛るように、眉を下げて泣きそうになりながら、まるで好きでいること自体が幸せだとでも言うように少しはにかみながら
オレを好きだと言う言葉が、とてもとても好きだった

葉山がオレに愛想尽かすまで、あとn秒
それはいつ来てもおかしくないゴールだが、好きだと言ってくれているその間、オレはぬるま湯をたゆたい続けるだろう
あわよくば、n秒があと百年続きますように

「葉山」


今日もお前の名前を呼ぶ
愛と執着を込めて呼ぶ



END


 

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