09/26の日記

15:54
蜘蛛の糸(古♀→花♀)
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※全員女体化
※嫌われのつもりで書いてはなかったけど読み返してみたら古橋嫌われ注意

 
 
 
 
 
 
 
綺麗な黒髪が靡いて擦れ違う男子生徒が振り返る
そうやって見られていることにも興味なさ気に古橋は借りていた本を片手に図書室へと向かった
休み時間や放課後はいつもそこで過ごしている
無口で無愛想
遠くから眺める分にはいいが、クラスメイトからは敬遠されがちだ
加えて家族仲もいいものとは言えなくて、古橋はいつもひとりを好んだ
それが『一人』だったのか『独り』だったのかはわからない
恐らく『独り』なのだろうが、取り分け気にする様子も愛想をよくしようと努力する様子も古橋にはなく、ただ現実として受け入れていた
そんな古橋に最近ちょっかいをかけてくる女がいる
花宮真
学年3位の成績を誇る美少女であり女子バスケ部の副主将で、学校1の人気者
教師はこぞって彼女を頼りにし、男子は憧れ女子は群がる
中学の頃に少しバスケをかじった古橋は、花宮が『無冠の五将』と呼ばれるほどの実力を持っていることも知っていた
そんな美少女が何故か、古橋を女バスに勧誘したがっている
古橋は中学でさえバスケ部に入っていたが成り行きで入っただけだし部内のモチベーションも低かった
高校の運動部なんて熱血そうなものに入る気はさらさらなかったし、試合こそしなかったものの一応『キセキの世代』も『無冠の五将』もその目で見て来ている
無謀な勝負はしたくない質である古橋は、もう二度とそのスポーツはしないと誓っていた
だが、

「古橋さん。ちょっとでいいから、見学に来てみない?」

これだ
何度断っても花宮は諦めずに放課後の度にここに来る
部活の時間を削ってまで古橋を勧誘しに来るのだ

「断る。バスケなんて熱血スポーツよりも読書してた方が時間が有効だ」

古橋も最初こそ困惑したが今ではもう傷付けることも恐れずテキトーに切り捨てていた
しかし花宮はめげない
それほど強い物言いはせず、一言二言、図書室では静かに、と咎められない程度の会話だけで去っていくのだが、それが毎日となれば古橋もほとほと困っていた

「いつも思うけど、なんで私なの」

何度も繰り返して来た質問をする

「中学の時にあなたの試合を見て、是非一緒にバスケをやってみたいと思ってたんだ」

中学の頃なんてお遊び程度のバスケしかして来なかったのに、テキトーなことを言う
一緒に、なんて、スカウティングでもして来たつもりか
1年にして次期主将だと噂されているのは知っているが、おとなしそうな顔して実はバスケ部を手玉に取る気満々なのかもしれない
などとにこりと微笑む花宮に似つかわしくない想像をして古橋は心の中で毒づいた

「悪いけど、付き合ってられないな」

端的にそう返し、もう話をする気はないとばかりに手元の本に視線を戻せば、花宮は

「そっか。また来るね、少しだけでも考えておいてね」

とさらさら諦める気がないことが窺える捨て台詞を吐いて去って行った
その日もそれで終わりだと古橋は思っていた




「ねぇ、最近あんた、真さんに話掛けてもらってるよね」

だからなんだ、と言い捨てるには躊躇う空気がそこには漂っていた

「いいなぁ、あたしも、花宮さんに一緒にバスケしようって誘われてみたいなぁ」

「あんたは無理っしょ、運痴なんだから」

ぎゃはは、と下品な笑い声が響く
図書室も閉館時間を過ぎ、帰ろうと靴を履き替えていた古橋は数人の女子生徒に捕まっていた

「古橋さんはぁ、バスケ上手いのぉ?」

「でも古橋サン、たいく休んでばっかだよねぇ」

「こないだ陸上で走ってたとこ見たけど、普通に早くなくね?」

古橋は元々何かに本気になるのを面倒に思う質だ
協調性を問われる分野では見学し、陸上などの個人競技には出ても手を抜くのが常だった

「成績もちょっとはいいみたいだけど、花宮サンとは比べものになんないよねぇ」

このような状況には慣れていた
小学生の時から数えればもう飽き飽きするくらいの回数だ
だから、黙っていることが一番だとわかってもいた
帰るために乗ろうとしていた電車の時間が過ぎて行くが、それも仕方ないと黙っていた

「顔も花宮さんほどじゃないしさぁ、もしかして男子から可愛いって言われて勘違いしちゃった?かわいそー!」

「ねぇ、それやめた方がいいよ、本持って歩くの。根暗っぽいよ」

「髪もうざいくらい長いし真っ黒だし、地味で根暗っぽいよねー!」

「真さんは優しいから、地味で根暗なあんたに声かけてくれたんだよ」

「何考えてんのかわかんない気持ち悪いあんたにわざわざ声かけてくれたんだから感謝しなくちゃ!」

「そうそう、あんたみたいな気持ち悪いのにも優しくしてくれる花宮サンに感謝しなよね!」

「私達も花宮サンに習って気持ち悪いあんたにも優しく声かけてあげたんだからさぁ」

「そーだよぉ。わざわざ声かけてあげたんだから、黙ってないで何か言ったらぁ?」

彼女達はずっとにこにこと笑っていた
そしてまるで本当にそう思ってるかのように言うのだ


「私達とも仲良くしてよ、古橋さん」




「オレはあんたらとは死んでも仲良くしたくねぇけどなぁ」

言葉を発したのは、古橋ではなかった
古橋の視線の先、
古橋を囲んでいた彼女達が振り返った先にいたのは、話の中心とも言える人物、花宮真がいた

「ねぇ、私も仲間に入れてよ」

先程の暴言がまるで空耳だったかのような軽やかさで花宮は言う
実際、花宮の口が動くのを見いていた古橋以外は先程の言葉が花宮の口から出たものだと信じていなかった
声色も随分と違っていたし、他の誰かが近くにいるのかと見渡すが、誰もいない
彼女達はこの場を花宮に見られたことを取り繕う暇もなく声の主を探した

「真さん…?今、誰かいた?」

「え?誰かって?…それにしても、オレはてめぇに下の名前で呼んでもいいなんて許可してねぇぞクソビッチ。さん付けしときゃいいってもんじゃねぇんだよバァカ」

乱暴な言葉の主を探し、
そして、見付けた
今度こそは花宮真の口の動きとその暴言が一致したのを見て仕舞った彼女達が顔色を変える
それが合図だったかのように、そこからは花宮無双だった

古橋が同情を寄せたくなるほどに言い負かされたビッチ共(花宮曰く)は、
何も言い返すことも出来ずその場にへたり込み放心し、中には泣き出す者もいた
その様子を見届け、花宮はふんっと鼻をならし古橋に向き返る
いつの間にか花宮から後ろに庇われる形になっていたことに気がついた古橋は向けられた顔にびくりと肩を揺らし赤面した

「…行くぞ」

花宮は何故かばつが悪そうに言い捨て古橋の腕を掴む
誰もいない女バスの部室に連れて行かれ、内側から鍵が掛けられる

「待っ…」

鍵を掛けられたことに焦った古橋が何か言い切る前に、花宮の顔が古橋のそれに近付く

「言うなよ?」

「…へ?」

「だから、オレが普段は猫被ってるだけで実はめちゃくちゃ口悪くて性格も悪ぃこと、誰にも言うなよ」

「…性格悪いって、自分で言っちゃうのか……っていうか顔近いんだが」

「んなこたどうでもいいんだよバァカ。言うの?言わねぇの?」

「い、言わない、言わない」

もう一度言うが、古橋は彼女達のような攻撃には慣れていた
学校でも家でもいろいろな罵詈雑言を浴びせられて来たし冷たい視線にも慣れている
だからあれくらい、なんでもなかった
花宮に庇われなくても何も気にしないし、そもそも今回は花宮のせいで絡まれたのだから感謝すり所以もない
しかも、あのまま耐えればすぐに帰れただろうに、花宮が彼女達を打ちのめした分、無駄に時間が掛かって古橋にとってはいい迷惑だ

だが、古橋が花宮を『かっこいい』と思って仕舞ったのは事実
言うなよ?、と不安そうに顔を覗いて来る姿を『かわいい』と思って仕舞ったことも、紛れもない事実だった

「…本当か?」

「本当、本当」

あの花宮真が、実は普段は猫を被っていて、本当は口が悪くて自分のことを「オレ」とか言うし性格も悪くて同学年の少女を「ビッチ」とか言う
そしてそれを自分のために表に出してくれたという現実に、古橋が心を奪われたのは、紛れもない事実だった

のだが

「やっぱり信じらんねぇな…。仕方ねぇからお前が誰にもバラさねぇように、見張ってるしかねぇよな」

「は?」

「ってことで古橋、お前明日からバスケ部な」

「は!?」

それがいい、とにやりと笑った花宮にうっかりときめいて仕舞った古橋は、多分一生彼女には敵わないだろう

「じゃあこれ明日まで書いてこい。バッシュあるよな、あとジャージは手配しとくから明日は取り敢えず指定ジャー持って来て。あ、サイズはM…Lでいいよな」

入部届けを手渡されてきぱきと支持を出す花宮に、古橋は何かにつままれた気がした
まさか全部お前の計画だったわけじゃないよな…
尋ねれば花宮は悪童と呼ばれるにふさわしい笑みを浮かべて古橋を見てからくるりと向きを変え手を振った

「なわけねぇだろ、バァカ」

そのままドアを開けて部室から出て行った花宮が誰かと話す声がする

(あっ花宮ー!)
(ちゃんとメニューしてたかよ)
(したした!つか花宮はどうだった?上手く行きそう?)
(バカ女共のお陰で計画より早く上手くいったわ、明日からメンバー増えっぞ)
(わーい!)

古橋は逃げられないことを悟る
どっちにせよ、バッシュは捨てていなかったのだ
遅かれ早かれ、揺らいでいたのだろう

「花宮、真…」

下の名前は呼ばないでおこうと心に決め、その日は取り敢えず家路についた


その後の話をすれば、それから近いうちに花宮真は進級と同時に主将へと昇格、不祥事を種に監督を引きずり落とし自らが主将兼監督へと就任、考えにそぐわない部員はいろいろな手を遣い辞めさせて仕舞い、霧崎第一女子バスケットボール部を花宮真の城にして仕舞った

古橋はそんな花宮を敵に回さずよかった、と思うと同時にどんどん惹かれて行くのだった

なお、あの時花宮が罵倒した女子生徒達から花宮真猫被り説が噂されたが誰も信じる者はなく干されていき、
女子バスケ部だけがその様子を笑いながら眺めた
花宮曰く、「日頃の行いだバァカ」
それには何人かが首を傾げた


古橋はバスケ部に入るとすぐに長かった髪をベリーショートまで切って仕舞い、それ以外にも何を思ったのか男子制服で登校するようになった

「古橋の髪、黒くてつやつやでちょーきれーだったのに、もったいなー」

「でもそれも似合ってるぞ」

「そうだけどさー、花宮はどう思う?」

「前のもよかったんじゃね?うざいくらい長くて真っ黒で、地味で根暗っぽい感じが」

「それは酷くないか花宮」

「ひっでぇ!ねくらって!!」

蜘蛛の糸に捕まった
だが、たとえこのまま蜘蛛に食べられたとしても、一生後悔はしないだろう



END



 

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