08/12の日記
09:34
最後でも来て(青黄)
---------------
バカみたいに晴れた日のバカな男の話
愛されているのに気付かないバカな男の話
待っているという言葉を発せなかったバカな男と、それに気付けず勝手に失恋したバカな男の話
バカな男達の話
椎/名/林/檎の『正/し/い/街』から
バカみたいに晴れ渡った空が広がっていたし、その空に飛び出すための騒音がバカみたいに響き渡っていた
ただオレはそれを無視して、膝に開いた本に視線を向ける
文字はさっぱり頭に入って来ない
当たり前だ
本なんて、漫画でなければ教科書くらいしか読んだことない
餞別に、と大切なヒトから貰った本さえ、涙で濡らしそうになって、読むのを諦めた
あの人に涙を教えたことすらも無視したオレが、ここで泣く権利なんてないのに
「バカみたい」
呟きはヒトの雑踏に消えたが隣の奴には聞こえたのか訝しげに見られた
帽子を深く被り直す
バスケを辞めたオレ達に、共に進める道なんてなかったんだ
わかっているけれども、あの人のせいで弛みに弛んだ涙腺は、やはり上手く働いてはくれなかった
青峰大輝がバスケを辞めたのは、オレがバスケを離れてから1年後のことだった
大学を卒業し、プロになるものだとその時は誰しもが思っていた
誰しも、そう、オレも、黒子っちも桃っちも、本人も
脚に爆弾を抱えていたのはオレだけじゃないと知っていたのに、楽しそうにコートを走り回る青峰っちのことを誰も止められなかった
だが、彼の脚が限界を訴えた時、青峰大輝はオレ達の誰よりも絶望の表情を浮かべることなく、あまりにもあっさりとバスケから離れた
「才能の寿命は短いんだ」
病室で呟いた赤司っちを、
その言葉が許せなくて立ち上がったオレを、
赤司っち殴りかかりそうになるオレを止めてくれた桃っちと火神っちを、
あの人は鼻で笑ってバカにした
もうやりきったと言って笑った
その日も、今日のようにバカみたいに晴れ渡った空が病室の窓に広がっていた
何て大それたことを夢見て仕舞ったんだろう
あの人がNBA選手として、オレがモデルとして共にアメリカに渡って結婚出来ればなんて、傲慢な類の愛を押し付けたりして
全くバカみたいだ
バカみたいに誓った指輪は一度たりとも薬指で輝くことなくキャリーバッグの奥底に沈んでいる
オレは青峰っちより、この道を選んだ
バスケを辞めたオレ達に、共に進める道なんてなかったんだ
バカみたいに爽やかに笑って、
「可愛くておっぱいのでかい女なら捨てるほどいる」
なんて言ったくせに、なんで未だにアンタの横には誰一人居ないの?
なんで昨日、来てくれたの?
なんで昨日、キスしたの
1年前オレにサヨナラを告げたのと同じくちびるで、アンタは何を考えながらオレにキスしてくれたの?
もう我侭なんて言えないことはわかっているから、明日空港に来て、なんてとてもじゃないけど言えなかった
忠告は全ていま罰として現実になった
バカみたいに晴れ渡った空がバカなオレを嘲笑っている
餞別に、と黒子っちから貰った彼の書いた本さえ、涙で濡らしそうになって、小さなカバンに詰め込んだ
アンタさ、オレのこと大好きだったよね
オレもさ、アンタが好きだったよ
大好きだったよ
大好きだよ
ごめん、ばいばい
バカみたいに晴れ渡った空が、彼にスッ、と、近付いた
END
前へ|次へ
□ 日記を書き直す
□ この日記を削除
[戻る]