夢2

□早く泣いてみせて
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お前はここで待っていろと言われ数十分は立つ。何かがおかしい、橋の下には大きな化け物が現れ皆見物するかのように家から出て行く。キャスターを討伐するためにここに来たのではないのだろうか?私は頭を悩ませながら共にいた雁夜のことを思い出す。何があってもこちらに来るなと言われたのだ。このビルの上で何が起こっているのかも知らない。長い髪の毛を揺らしながら名無しさんは雁夜の帰りを待っていた。炎が燃え上がり頭上から人間らしきものが落ちてくる。名無しさんはその物体を見つめた。


「雁…夜」

「………」


一気に駆け寄り彼の脈をみるが心肺は停止している状態だった。焦りながら目に涙を浮かべながら私は彼の名前を呼んだ。返されることのない返事を待ち望みながら目頭が熱くなっていた。背後で何かの気配がしたがそんなことはどうでもいい、マスターであれば彼の死を確認しにきたのではないだろうかと頭の片隅に浮かんだ。


「彼を生き返らせたいか?」

「っ…言峰」

「彼の生死と引き換えに交換条件だ」

「…なんでもいいから、彼を助けて」

「承知した」

「………」


雁夜を生き返らせてくれるのならなんでもすると言った私は敵である言峰綺礼との交換条件を知らないまま祈り続ける。これが私と雁夜の最後とも知らずに…。


「意識はまだ戻らないが完全に息を吹き返した」

「…雁夜」

「さて、そろそろ行くとしよう。間桐の家まで運ぶ…」

「条件は何です…」

「今後一切この男に関わるな。お前にはこちら側に来てもらう」

「……」


はめられた。呆然と立ち尽くしていると言峰は雁夜を担ぎこちらに目をとめる。愉悦とも言いたそうなその表情は見ていて嫌な気分になる。それもそのはずだ、今の私は泣きそうなほど酷い顔をしているはずだ。唇を噛み締めながら涙を流すのを我慢していた。


「ここで彼を殺してしまってもいいのだが」

「そんなことをして…楽しいですか」

「君の泣いている顔を見ているとつい虐めたくなってしまう」

「っ…」


早く泣いてみせろと言われる前に涙は瞳から零れ落ちた。満足そうに微笑む男の背中を眺めながら震える足を一生懸命動かそうと一歩ずつ足を進める。これから私はどうなってしまうのだろうか、彼と会えなくなるのならこのまま死んでしまおうかと考える。


「死を考えるな…お前の主はこの私なのだから」

「…身体は奪えても心は奪えないわ」

「ふむ、それなら両方とも私の物にしてしまえばいいことだ」


また彼を一人にしてしまう、裏切ったと思われても構わない。雁夜の命に比べれば安いものだと自分自身に言い聞かせる。


「ごめんなさい、雁夜」


目を覚まさない彼に聞こえるはずもなく虚しく風にかき消された。









20120709


 

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