夢2
□小さな嘘さえ見抜けるほど
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久しぶりに実家に帰ると何を思ったのか龍之介は部屋中を物色しはじめ最終的には庭にある倉庫までも手を出しはじめていた。誰も掃除をしないせいか空気までも息苦しく埃がまっていた。面倒くさいという思考はなくただそこに何かがあるという妄想だけで何かを探す、手当たり次第探していると相当古い古書が見つかった。顎に手を当て龍之介は中身をぱらぱらと捲っていく、龍之介本人も大して期待はしていなかったが驚くことに中身の内容は何かを召喚する儀式などの詳しいことが載っていた。嬉しそうに鼻歌を歌いながら古書を見ていると外から人の歩いてくる気配があった。こんなに気分がいいのに他人に邪魔されてたまるものかと苛つきながらその人物を待つ。
「龍之介・・・いるの」
「・・・なあんだ、名無しさんかよ。驚かすなよ」
「ちょっと、急に帰ってくるってメールきたから急いで龍之介の家まで来たのにその言い方はないでしょ」
「悪かったって、んで来てくれたんだ」
「滅多に会えないのに会わないほうが変だよ」
「だよなあ」
一瞬にしてその苛つきもなくなり幼馴染である名無しさんの肩を抱く。嫌そうに腕を払いのけられちぇっと龍之介は不貞腐れながら埃臭い倉庫から出て二人は外の空気を吸う。龍之介が持っている見たこともない古書を珍しいと名無しさんは手を伸ばすが龍之介によって遮られる。
「これは見れないよ」
「どうして」
「んー、俺って変人だから」
「そう。その変人は見てもいいんだ」
「そうそう」
「性格は相変わらず変わらないんだね」
「俺に構ってくれるの名無しさんぐらいだしな」
「龍之介は龍之介でしょ。他人は関係ないよ」
「・・・・・・」
こんな風に言ってくれる幼馴染を持てて俺は嬉しい、けれどこのまま一緒に居たいがそれは無理だ。自分自身がテレビでもやっている殺人犯だからだ。名無しさんに言ったところで理解してくれるはずもないだろう。当たり前だ、人を殺害する方法に快感を覚えてしまったのだから。言ってしまえば名無しさんも殺さなければいけない。何度か彼女を殺してしまおうかと考えたこともあった、なんとか理性を保ちながら今でもこうして会えている。
「俺さ、もう帰んなきゃ」
「もう・・・帰るの」
「そんな顔するなよ、お前可愛いから男もできるだろ」
「・・・そうだよ。龍之介が居なくても彼氏なんかできるし」
「うんうん」
「・・・また帰ってくるよね」
「その内な」
「待ってるから」
「ああ」
「ずっと、待ってるから」
「ああ」
泣きそうな顔を見られたくない名無しさんは一生懸命上を向きながら龍之介に笑って見せた。龍之介も名無しさんもわかっている、この男が嘘をついていることさえ見抜いている。こんな風に優しく笑う男は嘘吐きだ、じゃあなと名無しさんとは反対方向の道を歩き出し右手を軽く上げる。龍之介もこのまま行ってしまうことに後悔はないだろうと言い聞かせながら苦しい胸に手を当てる。多分、名無しさんは気づいているだろう。このまま二度と会えなくなることを。
「好きだったなあ、名無しさんのこと・・・」
男は沸々と沸きあがる想いを独り言のように喋りながら歩いた。
20111205
(龍之介の嘘吐き)