夢2
□BGMは雨音
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小さな雨がぽつぽつと音をたてながら体を濡らす。疲れた、体が軋みながら腕と足は言う事を聞かない。誰にも見られない場所を探すのはとても大変だった、顔は変形し髪の毛は真っ白に染まってしまい人間という形は無くなっているようにも見える。ゴミ捨て場に身を預け朝なのか夜なのかもわからず影の中でしか動けていないのも事実だ、今この場で戦闘になっても負けるという言葉は頭にはない。絶対に勝ち残り桜を助けるのだ、普通の女の子に戻すために。大きな溜息をつき瞳を閉じてみたが微かに足音がこちらに向かっていることがわかる。見つかってしまったのか?こちらから仕掛けるために数匹の蟲を放つ。息を殺しながら反応を待っていると尻もちをつき痛そうにこちらを見つめる少女の姿があった。
「敵か・・・」
「あの」
「ああ、すまなかったね。怪我はないかい」
少女は無表情のまま首を縦にふるだけだった。自分に対しての感情が無いかのように少女は未だに無言だった。体が痛いせいかその場から動けずにいた雁夜はにこりと微笑んでみた。少女は制服を身にまとい長い髪の毛を揺らしながら雁夜の側にしゃがみこむ。
「怪我、してるんですか」
「いや。大丈夫だよこれぐらい」
「・・・・・・」
相変わらず少女の考えていることはわからず無言で雁夜の体に両手を当てながら治癒術を発動する。光る両手は温かく久しぶりに痛みなどわからなくなった。右手に違和感を覚え少女の右手を掴みあってはならないものが手の甲に印されていた。どういうことだ、マスターは自分を入れて七人のはずなのにもう一人のマスターがいる。八人目のマスターはありえないはずだ。掴んだ右手につい力を入れてしまい少女の顔は酷く歪んでいるのがわかる。
「君も、マスターなのか」
「たぶん」
「この令呪はその証だ・・・八人もマスターがいるのか」
「そこまでにしてください」
いままで二人だけだった空間にもう一人の姿が見えた。これが彼女の英霊なのか?狐のような格好をした女の子だった。大きな尻尾と耳は警戒しながら少女を離せと言っている。キャスター、と少女は攻撃は止めろと指示を出す。掴んでいた右手を離し雁夜はまずい状況だと一人慌てていた。
「一応言っておきますけど、マスターは人に危害を加えませんから。あなたと違って」
「なんだって」
「キャスター」
「むむむっ、マスター早く行きましょうよ。ここって多分知らない世界ですよ」
「君は・・・ここではない世界のマスターなのか」
「そうみたいです」
「そうか・・・」
少女の英霊はキャスターだがここまでマスター一筋なのは珍しいとつい眺めてしまう。このやりとりが面白く笑ってしまった、キャスターは失礼です!と一人で怒っていた。少女の名前は名無しさんというらしい、記憶がないまま聖杯戦争に参加していた。どこをどう見ても嘘をついている顔はしていなかった。例えると生まれたばかりのなにも知らない赤ん坊のようにも見えた。名無しさんの携帯らしきものから音がした瞬間キャスターは姿を消した。
「もう行かなくちゃ」
「そうか・・・」
「あなたのお名前、聞いてもいいですか」
「雁夜だよ」
名無しさんは嬉しそうに笑うとまたね、と言い残し雨音と共にその場から消えてしまった。今起こったことは夢なのか現実なのかわからなくなった、微かにわかるのは少女が置いていった薬だけがその場に残されていた。痛みもない体をいまは横に倒しながら目を閉じる。
「ありがとう、名無しさん」
20111204