雑食

□この世界で特別になれる本
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私がここが漫画の世界だと気付いたのは、幼稚園の頃。
それまでは普通の幼児だった。本当に、それまでは……。

私の頬に衝撃が走る。
縦に裂かれる衝撃、ギャン!と効果音だったのか私の悲鳴だったのか。
私はその痛みに涙を溜めながら自分の頬を引っ掻いた男の子を見た。

大きく見開いた目と目が合う。

奥村 燐−−−!

私は心の中でそう思った。
その瞬間に私の中で、自分の記憶が蘇る。
私は、いつ死んだのだろう。
気付いたら赤ん坊からやり直していた。
正直、自分の名前や顔は思い出せない。あるのは記憶。そして、ここが漫画の世界で、目の前に居る男の子が漫画の主人公だっていうこと。

何故、私が主人公に頬を引っ掻かれたかというと。
別に彼は私を狙ったわけではない。
彼が遊んでいたおもちゃを奪いとった男の子と喧嘩になって、もみくちゃになりながら私にぶつかってきて、たまたま振り下ろした手の先に私が居た。

「お、おれはわるくない!!こいつがわるいんだ!」

「ぎゃーん!!」

主人公が焦り声を荒げる前で、おもちゃを奪い取ったこいつが悪いのは明確の男の子はぎゃん泣き。
先生に怒鳴られ泣きながら違う違うと怒る主人公。かわいそう。

「ナナシちゃん!大丈夫!?」

「……へぁ?」

そういえば頬が痛い。
あ、そういえばついでに私の名前は今は『月野ナナシ』っていうんだった。
大丈夫、と言いたい所だったが痛みで目からは自然と涙が溢れる。

ガッシャーン!!!

衝撃音に視線をやれば、主人公がおもちゃの積み木を放り投げて窓ガラスを叩き割っていた。
なんと、まあ。
グルル!!と唸り声をあげながら主人公は暴れている。
漫画で知っていたけど、現実はまあ、凄い!
癇癪を起し暴れる主人公が先生たちに取り押さえられる。

痛い。

ほっぺが痛いです、と小さく声を出せば先生に担がれ、即病院へ。
あああ、主人公、奥村燐。キミがこれからこっぴどく叱れる様子が目に浮かぶ。
ごめんよーー……。

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