雑食
□実らない人々
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※「かれこれ数十年」男主名→ハンス
こちら快晴、本日も異常無し。
こちらの現状を報告すれば電伝虫から「こちら雷雨、宴会中、異常無し」と何とも平和な返事が届いた。
宴会中かぁ。向こうは大体、酒飲んでんなぁ。羨ましい限りだ。と電伝虫をカバンにしまった。
静かな書庫、密談するにはうってつけの場所。この時間は誰も居ないはずだったのだが…。
「ナナシ?今の何?」
「……ハンス、お前今日も仕事押し付けられたのか?」
「あ、うん、まあね…」
どっさりと効果音が付きそうな書類の束を持ってヘラリと笑ったハンス。
うちの隊長殿はハンスに書類仕事を押し付けるのが大好きでならないようだ。
「で?今の何?」
「何が?」
「いや…、本日も異常無しって…」
「別に特に何の問題も無いことを知らせただけだよ」
「誰に?」
「友人に」
んー?と首を傾げながら疑わしい目をこちらに向けるハンス。
普段からヘラヘラ笑っている男だ、特に気にも留めないだろうと笑えばハンスはヘラリと笑みを返して言った。
「まあ、ナナシが何処ぞのスパイでも悪いことしないんなら別に良いけどさ〜」
「……ハンス、ちょっと深くお話しない?」
「やめて!脅すとかやめて!」
「オレ達、家族だよね?ね?」
「詰め寄らないで〜!」
こいつ、他の連中と一緒で頭空っぽだったら良かったのに!!
+
事情を説明して口止めをしなければいけなくなったので、やむを得ず正体を明かす。
バレると首になるし、田舎の両親に仕送り出来なくなるから言わないで欲しい。
「あ〜、海兵なんだ」
「四皇の見張りだよ、ただの見張り!ちなみに下っ端だから!お願い、言わないで!二人だけの内緒にして?してくれないと、お前を事故死に見せ掛けて殺さないといけなくなる!」
「さらっと怖いこと言うのやめて」
「その書類仕事、手伝うから」
「え!ホントに!?じゃあ、内緒にしてる!」
やったー、と喜ぶハンス。
お前それで良いのか。こちらとしては喜ばしいことだけど、そんなに書類仕事、嫌だったんだな。
「今日もマルコはおれに冷たくてお仕事どっさり持って来たんだよ…」
「そーな」
「ナナシ、一番隊だよね?あれ?凄く暇じゃない?」
「オレの分の仕事はやりました」
「なんでおれに、こんなに?」
「なんでだろうなー、マルコ隊長の趣味?」
「悪趣味〜…」
ぶつぶつと文句を言いながらも手は動かすハンス。
まあ、普段はオレあんまり頭良くない感じで居るから。書類仕事自体、そんなに任されてないんだけどな。オレの基本的な仕事、在庫チェックとかだし。
実は書類仕事得意なオレはサクサクと自分の取り分を終わらせて、ハンスの残り分も片付ける。
「ナナシ…、速いね」
「事務作業、実は得意なの。言わないでね?」
「いや!一番隊にナナシが居るなら、おれに仕事回って来るの絶対におかしいでしょ!?」
「オレ、頭悪めだと思われてるから」
「はぁ〜?そういう事して仕事減らすの?めっちゃ頭良いじゃん」
「文字の読み書き苦手〜、計算も苦手〜。って言っとくと楽」
「天才かよ」
はい、終わり。とペンを置けばハンスに拝まれた。
「ありがとう、天才」
「はいはい、どうも」
「明日もよろしく」
「……ずっと手伝わせる気かお前」
「だって、ずっと黙ってて欲しいんでしょ?」
「あー!そういう事言うー!」
「マルコにハンスの仕事減らして、自分に回して下さい!とか言ってくれるならそっちでも良いけど?」
「無理無理、余計な仕事増やされる」
じゃあ、良いよね?と言わんばかりの良い笑顔を向けられてはもう苦笑いしか浮かばない。
下手に頭の良い奴にバレるって良いように利用されるって事なのね…。ツライ。
「早く終わったし、サッチにおやつ貰いに行こう」
「んー…、サッチ隊長、なんか理由付けてはオレに飯食わせようとしてくるからなぁ。おやつだけじゃ済まなそう…」
書類の束を抱えながら書庫の扉を開けたハンスはコテンと首を傾げた。
「え?ナナシ、食細かったりするの?」
「いや、全然?普通に食うよ?」
「なら、なんでご飯攻撃が?」
「分からん」
首を傾げながら歩くハンスに続いて歩く。
食の細い奴はわりと気に掛けられて、少しでも食べろ。と四番隊の連中に強要される事は定番だ。むしろ恐怖さえ感じる、ご飯攻撃。
「新人でも無いのに、ご飯攻撃かぁ…。ツライなぁ」
「オレの代わりに飯食ってくれる奴居ないかな?」
「ああ、うちの隊長は喜んで食べると思うよ。途中で寝るけど」
うーむ、サッチ隊長に貰った飯をエース隊長に横流しするのは気が引ける。下っ端でいっぱい食う奴が居たら良いんだけど。
広間に着いて、厨房を見ればサッチ隊長と目が合った。
どっこいしょー、なんてじじ臭い掛け声で座ったハンス。
「あー、先に座っちゃった…。コーヒー貰って来てよ、ナナシ」
「多分、すぐ来るわ…」
「へ?」
キョトンとしているハンスの前にコーヒーが二つ置かれた。
「おお!」
「ナナシとハンスが一緒なんて何か珍しいな?」
「サッチ!なんて気のきく男!好き!」
「あー、はいはい」
ハンスを適当にあしらったサッチ隊長。
そして、ハンスの横に座ったオレにいつものように一言。
「ナナシ、何か食うか?今、キッシュあるぞ?」
「んー…」
「おれ、甘い物が良いなサッチ」
「あるもん食っとけよ」
「いや、オレも甘い物にしてほしい、かな?」
「分かった!ちょっと待ってろ!」
ほあ?と変な声を出してハンスがポカンと口を開けた。
厨房へ走って行ったサッチ隊長。
「なんで!今、おれに冷たかったのに!ナナシにだけ優しいとか!サッチに裏切られた気分だ!」
「何故かは分からない。でも、もしかするとオレはサッチ隊長に狙われているの…か…?」
「サッチは可愛い女の子が好きだと思います」
「オレ、可愛い?」
「いいえ。全く」
ノンノンと首を横に振るハンス。
でも、うちのジョンは可愛くて天使です。と笑ったハンスにムカついたので横っ面を軽く引っ叩いてやった。
「あーん」
「ジョンよりオレの方が可愛いですぅー」
「そういう問題〜?」
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