雑食

□傷は深ければ深い程、甘い
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「熱っぽい気がする」

そう言ったクロロの言葉でシャルナークはかかり付けの医者に電話をした。

「あ、もしもし?うちの団長が熱っぽいって言ってるから診に来て」

『市販の薬飲んで寝かせとけ』

「ドクターの治療じゃないと嫌がるんだもん」

『治療費、三倍』

「いいよ」

ブツリと切れた電話。
すぐ来てくれるって、とシャルナークの言葉にソファに座って本を読んでいたクロロが分かったと頷いた。
一時間後。
治療をしに来たドクターはソファに座って本を読んでいるクロロを見て溜息を吐いた。

「せめて寝とけよ」

「熱がある気がするんだ」

「あー、はいはい、体温計出してー」

ドクターと共に来たナースがカバンから体温計を取り出した。
どうぞ、とナースがクロロに体温計を手渡そうとするもクロロは受け取らない。

「はぁ…だるくて自分で計れないな…」

「………」

「ナナシ、悪いんだが手伝ってくれ」

「名前で呼ばないで下さい。ナースと呼んで下さい」

チィッと舌打ちをしてナースことナナシがクロロの服に手を突っ込み体温計を脇に挟んだ。
少しして体温計がピピッと音を立てた。
体温計をチェックしたナナシは再び舌打ちをした。

「37度6分です」

本当に熱があったんだ!と後ろでシャルナークが大きな声をあげた。
だらだらとカバンから聴診器を取り出したドクター。

「カイロでも挟んでただろお前」

「そんな事はしていない」

「服、めくって」

「自分で出来ない」

「あー、はいはい、ナース」

「はい、ドクター」

嫌そうに顔を歪めながらナナシがクロロの服を捲る。
クロロの体に聴診器をペペペッとテキトーにあてたドクターは薬を取り出してクロロの膝に投げた。

「はいよ。食後服用」

「雑だな」

「大した事じゃねぇのに呼ぶからだろ。内臓が飛び出てるって言われたら張り切って仕事するわボケ」

はー、やれやれ。と帰る準備を始めるドクター。
クロロはすかさず傍に居たナナシの手を取った。

「急に体調が悪化するかもしれないから、傍に居てくれないか?ナナシ」

「名前で呼ぶなと言っているでしょう?」

「ナナシ、お前のせいか動悸がする。何故だろうな」

「私のせいではなく、不整脈では?」

「今夜、空いてるか?」

「薬飲んで寝て下さい」

はー、心臓が痛いなぁ。と大袈裟に振る舞うクロロ。
もう帰って良いかな…と思いながらもナースとクロロのやり取りを見守るドクター。

「心臓が痛いなら、一度、摘出して調べてみましょうか」

「もうオレの心はお前に奪われてるも同然だがな」

「物理的に奪って差し上げても宜しいのですよ?」

「体ごと奪ってくれ」

「……」

「……」

暫しの沈黙の後、ナナシは骨ノコギリを振りあげた。

「ドクター、今から患者が出来ます」

「骨ぶった切ると治療めんどくさいのに」

「ナナシの居る病棟に入院したい」

容赦なく振り下ろされた骨ノコギリ。
避けようとしなかったクロロは左肩に骨ノコギリを食らい、血を噴き出しながらも何も言わなかった。
クロロが左肩に骨ノコギリを食らった時、運悪く帰って来たマチとパクノダが買い物袋をドサドサと落とした。

「団長!!」

ナナシを睨みつけ戦闘態勢に入ったマチ。
骨ノコギリを手に不機嫌なナナシもゴキと首の骨を鳴らした。

「マチ、パクノダ。大丈夫だ、大した傷じゃない」

「え!?でも、血が…っ」

大丈夫、と平然と言ってのけるクロロ。
渋々とマチが後ろに下がった。

「いや、大怪我だけどな」

だらだらと様子を見ていたドクターが小さく笑った。

「大怪我か。入院かな、これは」

「いやぁ、縫うだけで良いからここで済むけど…。入院しとく?」

治療費もっと取れるし、とドクターが笑った。

「じゃあ、入院するか」

「入院の準備ね、了解〜」

はーい、とシャルナークが手を挙げた。
目の前のナースに攻撃されて入院ってどういうこと?とうろたえるマチとパクノダ。
そんな二人にシャルナークは良いから良いからとニコリと笑った。

「じゃあ、ナース。入院患者一名」

「かしこまりました、ドクター」

出血したままのクロロを鷲掴みにしたナナシがズルズルとクロロを引き摺り外に出て行く。

「ちょっとシャル!?連れて行かれたけど!?」

「あれで良いんだよ」

「は?」

+

クロロの入院後、お見舞いに来たパクノダはなるほど、と納得した。

「痛い、もうちょっと優しくしてくれないか」

「十分優しくしています」

ぎゅうぎゅう、とクロロの包帯を変えながら絞め付けるナナシ。
痛い痛いと言いつつも上機嫌に笑うクロロ。
包帯を巻き終わり、べしんと傷跡を叩いたナナシにクロロがニヤニヤと笑った。

「傷が開いたらどうするんだ」

「ずっと入院ですね。うちが儲かるので助かります」

「そうか」


- 傷は深ければ深い程、甘い -


「あら、ドクター。こんにちは」

「あー、パクノダだっけか?お見舞いか?」

「ええ、そうよ」

「今、ナースが部屋に行ってるから後にした方が良いぞ」

「そう見たいね、お邪魔そうだったから入るのはやめたの」

「あー、うちのナースが悪いな」

「良いのよ、団長が好きでやってるみたいだし」

「クロロのやつ、意外と傷が深くなかったんだ」

「そうなの?」

「ああ、うちのナースがその内また傷口抉ると思うから退院は2カ月後くらいでみといてくれ」

「…そ、そう…、なんというか独特な愛情表現ね…」

「素直に言えない照れ屋なんだよ」


END

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